表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/622

23.湖上の城の昼餐会<1/4>

 昨日まで穏やかでよく晴れていたのに、今朝になって幾分雲が増えてきた。荒れそうな天気ではないから、影ができて逆に過ごしやすくなるかも知れない。

 湖上の城は、岸から浮き橋でつながっている。定期的に補強されているらしく、見た感じ頑丈そうだ。連なった足場ひとつひとつが幅広だから、多少波で揺れても足をとられることはなさそうだったが、岸から島まではそこそこ距離がある。

さすがに高貴な姫君を歩かせるには失礼だというのか、招待されたエルディエルの姫君とルキルアの将軍のために、船着き場に二隻の船が用意されていた。

 エスツファとその護衛役の兵士達に混じって、グランとエレムも並んでアルディラの到着を待っていた。

 さすがにランジュは連れて行けないので、郊外の天幕で待機中のルキルアの部隊に置いてきている。あまりルスティナの手を煩わすのはどうかと思ったが、ほかにも暇な兵士がいるし大丈夫だろう。

 しばらく待っていると、警護の兵士や町の衛兵やらをぞろぞろ引き連れた二台の馬車がやってきた。一台はアルディラのものだが、もう一台は初めて見る。

 オルクェルは今日は自分の馬に乗り、ほかの騎兵や護衛の兵士達と一緒に馬車のあとからついてきている。徒歩の従者達に混じって、錫杖を持ったヘイディアの姿も見えた。リオンもいるが、列の中ではずっと後ろにいて、あまり重要視されている様子ではない。

 先に停まった馬車から降りたのは、質のよい背広を着た男だった。グランよりは若く、エレムよりは歳上といったところか。金色の短い髪をきちんと固めた、目鼻立ちのくっきりと整ったなかなかの美男ではある。

 ……俺には及ばないが。グランがつまらなそうに眺めていると、

「市長のウァルト殿であるよ。クレウス夫人の長男だな」

 隣に立っていたエスツファが、小声で教えてくれた。

 あれが息子なのか。確かに顔立ちは似ているが、並んだら母子というより兄妹と言われた方が違和感はなさそうだ。それも、夫人の方が妹に見える。

 オルクェルが馬から降り、ほかの護衛達と揃って並んだのを見計らって、ウァルトもアルディラの馬車に近寄った。年配の従者がうやうやしく扉を開けると、ウァルトに手を取られ、アルディラがまぁそこそこ優雅に馬車から降りてくる。

 降りながら、アルディラはグラン達に気付いたらいく、目に見えて表情が明るくなった。それでもほかの者たちの手前、きちんとウァルトに礼を言ってから、気持ち早足でこちらに歩いてくる。慌てた様子でオルクェルがアルディラの後についてきた。

「エスツファ将軍、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 差し出された手を取って、エスツファが恭しく頭を下げる。とぼけているようで、こういう時はなかなかそつがない。

 アルディラは同じようにグランにも手を差し出そうとしたらしいが、グランが素知らぬ顔で横を向いたので、背後を見守る兵士達に見えないように軽く頬をふくらませた。オルクェルがはらはらとした様子になったのに気付いて、エレムが苦笑いしている。

 アルディラもすぐに笑顔に戻り、改めてグランを見上げて囁いた。

「やっぱり、その服似合うわね、グラン」

「もとがいいからな」

 一応グランにも、城を出るときに用意してもらった礼服はあるのだが、こんな場では大げさだ。今は、クフルでアルディラに着せられた服を使っている。

 この上着は裾が短いから、剣を帯いても柄に手をかけるのに邪魔にならない。手袋だけは、後からもらった黒い革のものだが、背広も黒なので違和感もない。

 そういえば、この手袋はアルディラが用意させたものだった。子守の報酬代わりとはいえ、もらって重宝しているのは事実だ。

「これ、いいな。助かった」

 何気なく手をひらひらさせて手袋を示したら、意味に気がついたアルディラは、こちらが驚くほど嬉しそうに笑顔を見せた。

 あまりにも嬉しそうだったので、周りにいた者が揃って目を丸くしたほどだ。

 オルクェルもグランやエスツファになにか言いたそうだったが、結局目で挨拶しただけだった。アルディラとオルクェルは、ウァルトに案内され、今度は自分達が乗る船に歩いていく。

「あれはやはり恋する乙女の目であるな。元騎士殿も罪なものだ」

「なに言ってんだよ」

「……あれ、ヘイディアさんも行くみたいですね」

 船に同乗しようとする護衛の中にヘイディアの姿を見つけ、エレムが意外そうに声を上げた。

「城をまともに見るだけで気分が悪くなるって言ってたのに、大丈夫なんでしょうか」

「生真面目な方のようであるから、子どもに言われたことを気にして無理をしているのかも知れぬな」

 城や夫人のことではあまり過敏にならずにほどほどにしておこう、ということで話がまとまったのは、ヘイディアが帰ってからだった。

 エレムがエスツファに同行するなど言い出したものだから、自分も行かなければいけないと思ってしまったのだろうか。

 そういえば、ヘイディアはルアルグの神官達の中でも、かなり強力な法術を扱えるらしい。

 ルアルグ神官の扱う法術は、その気になればかなりの距離を超えて石造りの建物を破壊できるほどの風の固まりを作り出すこともできる。実際その威力も目の当たりにしてはいるが、ヘイディア自身がどれだけの力を扱うのかについては、グラン達ははっきり見たことがなかった。

 特に何事もないのなら、当たり障りなくやってくれさえすればいいのだが。遠目に見るヘイディアの表情は、相変わらず淡々としていて読みにくい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ