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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
逍遥の游子と航夜の灯星
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8.大騒動の後始末<3/5>

「ああ、リノさんは、当てにしていたお宝がなくなってて、がっかりしてるんですよね」

 コルディクスの主張を生温かい笑顔で聞いていたエレムは、笑顔をそのまま、生温かいを冷ややかなものに変えた。

 リノはサフアの町の地下で手に入れた(空っぽの)魔力石を、この町のどこかにいるらしい魔法使いのところに持ち込んで、魔力を吸収する魔法円を仕込んでもらったのだ。魔力で動いているものや、魔力を発動している法円などにぶつけると、その魔法円が現れて魔力そのものを吸い取ってしまう、なかなか便利な魔道具(アイテム)だ。それを使い、地上で交戦した『大きな異形』の魔力を奪うという方法で、グランたちを援護をしていたのだが、

「……蜂さん達にぶつけたのを探しにあの荒野に戻ったら、おいらが使った魔力石、全然落ちてなくってさ」

 後から聞いたら、ユカは、交戦後も地上で待機していた『ちいさなもの』たちが、なにかを拾い集めているのを目撃していた。どうやら魔力を吸収した魔力石は、六の宮の衛士たちに回収されたらしいのだ。

「あの大きな蜂一匹を動かす力がたまってた魔力石だよ? それが二〇個近くよ? どれだけのお金になると思ってるの! あれ一個で加工代がチャラになるくらいの魔力量なのに!」

「後払いだったのか?」

「まぁ、もともと石も魔力も彼らのものでしたからね……」

 もとになった水晶玉は、サフアの地下遺跡で動いていた蟻たちの魔力石だ。彼らは広域に散らばっていても、情報共有をしている同胞(なかま)らしい。

 エスツファは事情を察したようで、半分気の毒そうに目を細めた。もう半分はやっぱり面白がっている。

「リノ殿のおかげで民間人がけがもなかったというし、必要経費くらいなら補填できるようレマイナ教会かカカルシャあたりにでも手を回しておこうか?」

「そういうことじゃないんだけど、そうしてくれると助かるよぅ」

「浪漫もお金がかかるんですね」

 気の毒そうながらも、やはり冷ややかにエレムが感想を述べる。

『外に出すわけにはいかないが、兵士の目の届かない場所に勝手に行かなければ自由にしていい』と言われ、コルディクスは子供達がたき火を囲んでいるそばに向かっていった。かといって、交流を深めたいわけではないらしく、少し離れた場所に腰掛けて子供たちの様子を見守っているだけだ。

「あの御仁、村にいた時も、ああやってつかず離れずの割に、声をかけに行かないんだ。みんなに気を遣ってるのかな?」

 一緒の兵にコルディクスをそれとなく見張るよう言い含めて仕事に戻すと、フォルツは不思議そうに首を傾げる。

「いろいろ変わった者らが集まっているからな、興味深いのだろう」

「浪漫だよね、浪漫」

 エスツファの言葉に、リノが知った風に頷いているが、フォルツはいまいちよく判っていない様子で、

「そういえば、白龍殿も、自分は古い時代からの精霊なのだとか言っていたな。今はそういう、なりきり遊びがはやっているのかな?」

 フォルツは、自分では直接怪異やら異変やら異形やらを見ていないので、グラン達が龍臥谷で遭遇した一連の出来事を聞かされても、どうにも現実味がわかないらしい。

 普通の人間として考えたら、白龍のような子供がこんな部隊に一人でついてくるのもおかしな話なのだが、白龍が落ち着いて大人びた振る舞いをするので、「東方の出身者は、見た目は幼く見えるというからなぁ。一人旅の途中というなら、白龍殿もあれでもう少し年長なのだろうな」と勝手に納得している。もはや詳しく説明するのも面倒で、エスツファもエレムも曖昧に微笑んでいるだけだ。

 そうかと思うと、ユカが使い魔を見せても、フォルツは驚きはしたものの、大きな拒否反応はなかった。大陸の住人は、法術自体には一定の理解があるので、水の塊が生き物の形をとって動いているのも、「法術ならそういうものか」程度に思っているらしい。柔軟なのか鈍いのかさっぱりである。

 そのフォルツも、休憩の時間をもらって離宮の中に消えていくと、エスツファは改めてグランとエレムをみやった。なぜかリノが当然のようにそばに残っているが、それは気にしない。

「まだそっちがちゃんと片付かないところをあれなのだが、そろそろ部隊は帰りの道行きを考えねばならない時期のようでな」

「まぁそうだよな」

 そもそも、ルキルアとエルディエルの部隊が目指していたのはこのカカルシャで、両者が同行していたのはただの成り行きである。双方の用事は既に終わって、今はカカルシャに集まった各国要人達との会見やらで忙しいアルディラに付き合うという体で、ルキルアの部隊は待機しているだけだ。

 本来なら、エルディエルの部隊を置いて、勝手に帰路についていても構わない状態なのを、ラムウェジの依頼にグランとエレムが関わっているから、アルディラの力添えを見込んで、それとなく後援してくれていたのだ。

「姫のご公務もそろそろ一段落するようだ。ラムウェジ殿のお役目も一区切りで、残るのは後始末だけのようであるし、明日にでも、今後の日程を改めて調整に入る相談があるであろうよ」

「でも、明日相談ですぐ出立は無理ですよね」

「そうであるなぁ、エルディエルの方が大所帯であるし、四・五日猶予はとるであろうよ。それなりの支度も必要であるし」

「そのあいだに、街道の情勢がどう動くかだな。子連れじゃあんな山道使えねぇよ」

「あー、兄さん達はランジュちゃんがいるもんね」

 にこにこと、当然のように話を聞いていたリノが、当然のように口を挟んできた。

「小耳に挟んだけど、イムール側に行ける裏道って、あの村からつながってるのだけじゃないみたいよ。この状況で、小さな荷車で交易してる人もいるんだよね。おいらも馬と荷馬車が通れる道を探さなきゃいけないし、情報集めてこようか?」

「……」

「べつに代わりに何かしてくれって訳じゃないよ、兄さん達には世話になってるし、厚意よ、厚意」

 うさんくさく感じているのを隠しもしない二人の視線を笑顔で受け流し、リノは「善は急げって言うしね」と身軽にいなくなってしまった。

「……あいつは、損得抜きって言うときが一番信用できねぇんだよな」

「そうですね、エスツファさんの依頼で動いていたときなんかは、とても安心感があったんですが」

「まぁまぁ、役に立ちたいと言ってくれているならよいではないか」

 エスツファは豪快に笑っている。

「それはそうと、滞在中に一度は姫に顔を見せて差し上げよ。なんだかんだで、ヘイディア殿を同行させてもらって、いろいろ助かったのであろう」

「頼んだのはラムウェジだろ、俺関係ねぇよ」

「子供みたいなことを言うものではないぞ、なにごとも通すべき筋というのはあるものだ」

「そうですね、グランさんはそういうところ、筋をちゃんと通す人ですから」

 何の当てこすりなのか、エレムはエスツファの言葉に乗っかって、知った風なことを言っている。

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