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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
星の王太子と降星の荒野
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70.昼と夜のむこうに<3/4>

「面倒な割に地味だから、覚えるのやめちゃったんだけど、これはすべての力を無効にする魔法なのよ。力も光も吸収するから黒く見える、いわば暗黒魔法なんだけど……」

「だけど?」

「それ以上の効果がないのよね。吸い込んで無効にはするけど、跳ね返すわけでもないから、普通の使い方だと、盾代わりに自分の身を守るだけでせいいっぱい。まさか檻みたいに囲まれるとは思わなかったわ。あれから精進したのねぇ」

「う、うるさい、人が親切に理論を教えてやったのに! 飽きて放り出した奴が偉そうな口をきくな!」

「なんだ、やっぱりお知り合いですか」

 エレムは疲れたようなため息をつくと、

「で、コルディクスさん、どうしてこんなことをしたんですか? レマイナ教会の研究成果を奪って、古代施設を占拠だなんて……」

「どうしてって、稼働してる古代施設があるんだから、当然だろう」

「当然?」

「その理屈じゃ通じないわよ、ルド坊」

「その名前で呼ぶな!」

 黒い光で巻かれたまま、芋虫のような姿でコルディクスは忌々しそうに吐き捨てた。キルシェはコルディクスを床に放り出すと、面倒そうにため息をついた。

「だーからー、あなた世界崩壊を企む悪の魔法使いみたいに思われてるんだって。ちゃんと自分の研究意欲を説明なさい」

「あ、悪?!」

 コルディクスは心外そうに声を上げた。

「そもそも、稼働してる古代施設といえば、情報の塊だぞ? それが、ほんのちょっと周りを出し抜けば手に入るのに、黙って見ている法はなかろう」

「だから、その情報の塊を手に入れて、なにを……」

「グランなら、すぐ飲み込むと思うんだけどなぁ」

 キルシェはなにもない空中に寝転ぶような格好で、頬杖をついた。エレムとミンユは揃って怪訝そうな顔をしているが、リノはぽんと手を叩くと、

「なるほど、浪漫ね! お宝にはおいら、研究者には研究材料!」

「そゆこと」

「え、えーっと……?」

 そういえば、ラムウェジは言っていた。

『ハイガー』氏として潜り込んでいたコルディクス自身、服装に特徴はあったが、寡黙で有能な研究者だったと。

「この子、もとは、暗黒物質万能説とか唱えてた錬金術師の弟子だったのよ。師匠のヴィック爺さんは、『我々は宇宙の一部である』とか、『卑金属を貴金属に変えられるのは、宇宙の空白を埋めなんにでも姿を変えられる暗黒物質の存在があるからだ』とか、独特の解釈をしてた人でねぇ。そもそもその暗黒物質論が、古代文献にある暗黒魔法、つまりこの子が今使ってる魔法についての言及からの解釈だったみたいだったんだけど」

「この子いうなぁ!」

 涙目で言い返すと、コルディクスはぐるぐる巻きにされたまま気を取り直すように、

「私は魔法使いとしての素質があったから、師の集めた文献から、この魔法を得ることができたのだ。異端や邪道と言われる者ほど、豊富な知識を持っているのが常なもので、師は錬金術の資料になりそうなものを広く収集していた。その中の文献には、古代施設に備わった、力を吸収するだけでなく、集めた力を更に別の力に転用し、何百倍にも強力な力として活用する技術に関しての記述があった。水、光、火や風を、強力な熱や力に変える技術。それは、究極の錬金といえるのではないか?」

「なんか語り始めたさー」

「演劇とかの黒幕ラスボスって、なんでか戦う前に自分語りするんだよね。今回は戦った後だけど」

「せっかくなので少し語らせておきましょう」

 クロケとリノとエレムがぼそぼそと言葉を交わすのが、耳に入っているのかいないのか、コルディクスはキリッとした表情で、

「師から離れた後は、様々な研究機関を渡り歩いたが、地方領主の経営する大学や、国家の研究機関ではやはり限界がある。やはり大陸中の情報を掌握するレマイナ教会の研究機関がのぞましい。しかし潜り込むには実績と身元の保証が求められる。私はほかの機関でも何度か研究をともにしたハイガーが、此度の施設についての研究の援助を求められていると知り、入れ替わることを計画した。稼働を継続している施設など見られる機会はめったにない。しかもそこでは、古代の様々な動力装置が用いられている。くわえて、私の魔法に関連のある力が用いられた施設と考えられた。ぜひ実際にその施設を見たい、可能であれば掌握し動かしてみたいと考えるのが研究者としての……」

「珍しいおもちゃがほしかったけど、まともに手に入らないから奪い取っちゃったってことさ?」

「そういう身も蓋もない言い方はやめてあげましょうよ」

「浪漫だよね浪漫! おいらは判るよ、うんうん」

 勝手に要約されたり同情されたり激励されたりのコルディクスを、少し気の毒そうに眺めていたミンユは、頭の中を整理するように首を傾げ、

「つまり、あなたの目的は、この施設に用いられている動力の仕組みを調べること、ですか……?」

「それもあるが、それだけではないぞ。もちろん、その強大な動力を用いて運用されるこの施設が、一体どんな目的を持っているのか、どのような機能を持っているのか。それに、各施設を管理する高度な人造知能の仕組みは非常に興味深く、またこの施設を護っている蜂たちを生成するのはやはり魔法力の力で……」

「今は要点だけ簡潔に回答してもらえると助かるのですが……。要は、この施設を自由に調べたり使ったりしたかっただけなんですね?」

「もちろん研究材料として非常に興味深く、動力の転換及び増幅となればいずれそれを多方面で活用できるだろうが、実物を調べる前から目的だけを議論するような無能で狭窄な視野を持つ研究班に任せても埒があかない、現に私がここに訪れ直接頭脳と接触することで様々な……」

 一つ問いかけると、数倍の言語量が返ってくる。冷静に問いかけていたミンユも、さすがにうんざり気味だ。見ている周りもさすがに持て余した様子で、

「どのへんが『口数が極端に少ないだけの普通の人』なのさー?」

愛好家マニア……いや熱心な研究家は、自分の専攻分野になると、突然饒舌になることが多いんですよね……」

「愛だよね、愛」

「付き合いがいいわねぇ」

 飽きたキルシェは、空中に寝そべったまま黒い光の紐であやとりをしている。

「あたしとしては、少しの間身動きとれなかった程度だから、あなたたちが来てくれて助かったし? どうせこんな施設扱いきれないし、あとのことは、研究成果を持ち逃げされたレマイナ教会の研究班のみなさんにお任せしてもいいんだけど」

 と、珍しく常識的なことを言いながら、視線だけを動かした。

「グランがどう思ってるかは判らないわねぇ」

 その言葉とともに、全員の視線が、コルディクスの背後に集中した。グランの名前を知らないはずのコルディクスが、背後に殺気を感じて恐る恐る振り返る。

 背後には天秤宮の衛士である蜂たちを従え、光り輝く神馬から降り立ったグランが、無表情にコルディクスを見下ろしている。

 コルディクスは引きつった顔で、それでも口元に笑みらしいものを作った。

「き、貴様が『最新の管理権限保持者』か? どのようにして古代施設の重要な……」

「うるせぇ」

 グランはつかつかと歩み寄ると、黒い光でぐるぐる巻きにされたコルディクスの襟元を掴みあげた。いっきに怯えの色が濃くなったコルディクスの顔に顔を寄せる。

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