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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
星の王太子と降星の荒野
542/623

54.天空への道標<9/10>

 説明の意図をすぐに理解して、グランは周囲に目を走らせた。

 白い荒野の中で、距離を置きながらも、大きな岩塊がゆっくりと浮上を始めている。そのなかでもとりわけ大きな二つの塊が、渦巻く風の中心のようにゆっくり回転しながら、周囲に浮遊する岩塊や砂を更に吸い込むように取り込み始めていた。まだまだいびつではあるが、球形の形を作ろうとしているように見えた。

「上層部の施設も同じような形なら、形が出来れば下に穴が開いて中は空洞になるはずだ。中に入っちまえば、あいつらは攻撃してこない」

「話が通じたようさー」

 クロケはラムウェジに手を上げると、今度は空を見上げて大きく両手を振った。盾の陣形で「おおきなもの」と押し合う「ちいさなもの」たちから離れた場所で、仲間の数体と浮遊していたラサルが、合図に気づいて下降してくる。

「ラムウェジ殿の提案を受けて『頭脳』が貴殿らの侵入計画を構成し、各衛士に伝達済みである。グランバッシュ殿には実行の許可を求める」

 ラムウェジは上で同じ話を聞いてきただけあって、判断が早かった。グランは上空を振り仰いだ。

「全員に伝わってるのか?」

「ルスティナ様にはお馬さんが説明してるはずさ。精霊同士の意思疎通は一瞬なのさ」

 そういえば、ジェームズは自分に触れた一瞬で、炎の精霊が『見た』ものを把握してしまった。さっきのフィリスとの接触で、その時伝えられる情報は伝わったのだろう。

 その言葉を裏付けるように、一旦ルスティナの近くに下がったミンユが、ルスティナに近寄ろうとする「おおきなもの」を遊撃しつつ、離脱を始めている。すぐにこちらに戻ってくるだろう。

「今以上に再構築が進むと、あの施設は上昇を本格的に開始しちゃうみたいなの、グランさん、始めちゃってー」

 内容を詳しく聞かされていないのに、自分が許可しないと始まらないらしい。しかし今詳しく聞きただしている余裕もない。

「わかった、はじめてくれ」

「承知した」

 ラサルの言葉と同時に、ラサルと待機していた数体が、一気に降下してきた。



 グランを筆頭に、地上にいた人間たちが一斉に駆けだした。目指すのは、一番近い場所にある、再構築中の一番大きな『かたまり』だ。

 浮遊する『かたまり』は、周囲の瓦礫を吸い込むように渦を巻く地の力の中心で、ゆっくりと回転している。

 一点に吸い寄せられるような地の力の動きは、同時に、人間たちの動きを軽くしている。まるで追い風が背中を押すような体の軽さ、蹴った地面が反動して押し出してくれるような勢いのつきかただ。これがミンユの言っていた、「引力の向きを変える」という感覚なのかもしれない。

 地面を駆けるグラン、エレム、ラムウェジ、ヘイディアと併走するように、低空を飛行するクロケが時折、流れ矢のように飛んでくる槍を氷の塊で撃ち落としている。

 ずば抜けた跳躍力で追随するミンユは、『ちいさなもの』の盾をくぐり抜けて追いすがる『おおきなもの』を蹴り飛ばし、さらに跳躍しながら、追随してくる。ラサルたちはグランたちのすぐ上に展開し、いつでも拾い上げられるように飛翔していた。

 近くまで来ると、修復されつつある『かたまり』は、まだまだいびつな球体ながらも、思った以上に大きくなっていた。そして、思っていた以上に上空で浮遊している。いかに地の力を借りても、さすがになんの力もない人間が跳躍だけで飛びつくのは無理だ。

 球体の下部には、やはり穴が開いている。蜂たちの出入り口の部分だ。入るにはやはり、『ちいさなもの』たちの援護が必要だ。

「ラサルさん、予定通り行っちゃって!」

「うわっ」

 ラムウェジの声に呼応して、頭上を飛行していたラサルたちが、走るグランたちを拾い上げた。上空に向かったときは横抱きだったが、今は後ろから胴体を抱えられ、手と足は自由に動かせる。空中ではなにができるわけではないが。

 だが、ラサルたちが抱え上げたのは、グランとエレムだけだった。ミンユはといえば、「ちいさなもの」の背に飛び乗り、ひざをかがめて器用に均衡バランスをとっている。クロケは自力で飛びながらついてくる。

「え? ラムウェジたちは?!」

「侵入までの援護をするとのことである」

 ラムウェジとヘイディアは、グランたちが抱え上げられたのを見届けると、今度は振り返り、追いすがってくる『おおきなもの』たちを見上げた。盾になっていた「ちいさなもの」たちを振り払うためか、いつのまにか『おおきなもの』たちは、いくつかの塊を作って分離している。そのうち一つが、地表近くまで降りてきて人間たちを追尾していたのだが、

「レマイナよ、羽持つ異形に重き地の枷を!」

 ラムウェジが言葉とともに、頭上に掲げた手を振り下ろす仕草をした。

 同時に、飛んでいた『おおきなもの』の一集団が、何かに引っ張られるようにガクンと高度と速度をを落とした。まるで、形はそのままで重さだけが一気に増したような動きだった。

 その一方で、ラムウェジの背後を守るように目を配っていたヘイディアが、錫杖を振り上げる。ラムウェジの扱う『地の枷』の範囲外から飛来してくる別の『おおきなもの』が、突風にあおられて上空に大きく吹き飛ばされた。

 ラサルたちに抱えられてしまうと、グランたちは空中では手も足もでない。いつの間にか追いついてきた別の「ちいさなもの」が周囲を固めてはいるが、それは「おおきなもの」本体を正面から盾として押さえていた「ちいさなもの」の陣形が変わっているからだ。

 お互い大きな隊を作って押し合っていた「おおきなもの」と「ちいさなもの」は、「おおきなもの」が分裂し、小さな隊を形成し始めたことで形を変え、移動するグランたちを護る壁役の「ちいさなもの」と、その壁をかいくぐってグランたちに接近しようとする「おおきなもの」の攻防に移っていた。

 基本的に「おおきなもの」は「ちいさなもの」を攻撃はしない。だが、「おおきなもの」がグランたちに向けて放つ槍が当たってしまい、傷ついて落下していくものも出てきた。

 人間たちの新たな動きに気づいた『おおきなもの』の本体が、ラサルたちに抱えられれるグランたちへと動きの方向を変える。

 あれらには、こちらが施設そのものへ侵入を試みていること自体は、推測できていないだろう。自分たちが護っているものへ接近しているから、優先的に排除しようと判断したはずだ。

「おおきなもの」の動きに対して、周囲を固めていた「ちいさなもの」たちが壁を作ろうと陣形を変え始めた。だがもちろん、「ちいさなもの」たちの体制が整うまで、「おおきなもの」が待っている道理はない。投擲を始めた「おおきなもの」の槍が、まだ未完成な「ちいさなもの」の壁の間をかいくぐり、移動するグランたちの周囲に降ってきた。

 正確さは二の次の攻撃でも、数があれば当然命中率は上がる。抱えられていては、剣を抜いて防ぐこともできない。すべて運任せというのは、グランにはもどかしい。

 だが、そこで急に、降ってくる槍が数を減らしはじめた。

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