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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
星の王太子と降星の荒野
532/622

44.天空の城に住まう者<5/6>

「……その『寄り添いし』なんとか、たまーに聞くのですけど、グランバッシュ様ってなんなのですの?」

 ユカが、もっともな疑問を遠慮なく口にした。グランが言葉に詰まる。

 実はランジュは、古代人の残した伝説の秘宝だか秘法である「ラグランジュ」であり、グランはそれと契約していて、その契約が各地の古代施設的には重要なものであるらしい。そのせいもあって、いろいろな厄介ごとに巻き込まれているのだ、などと、容易に説明などできない。

「それって、グランさんの剣の名前なのよ」

 事情を知っているはずのラムウェジが、もっともらしい顔で代わりに答えた。

「グランさんの使っている剣の柄は、古代施設で発見された貴重な遺物なの。ユカちゃんの法具と同じで、普通は法術も魔法の素質もない人が持っててもなんの役にも立たないんだけど、グランさんはなにかの条件が揃って、古代文明の情報網(ネットワーク)では『正式な持ち主』って登録されてるみたいなのね。古代施設の稼働権限に干渉とかもできるみたいなの」

 嘘ではないが、それはそれで言っちまっちゃまずいんじゃねぇの。グランの懸念もわかっているはずなのに、

「それってすごいことじゃないのですの?!」

「そう、すごいことよ。だからグランさんは、古代施設に残った『機能』に助けを求められることがあるのね」

 ラムウェジはしたり顔で頷いた。ユカは合点がいったように、

「グランバッシュ様がいたから、お社の泉で転移の法円を動かせたってことですの? やっぱりグランバッシュ様は英雄の素質がおありだったのですの!」

「ただ運が悪かっただけだ」

 ユカが目を輝かせるのが逆に面倒くさくなって、グランはうんざりと吐き捨て、女王に向き直った。いちいち構っていては話が進まない。

「で、俺がいたら、どうなんだって?」

「……上層部『七つの宮』の動作を統括するのは、『蛇遣宮』と『天秤宮』。この二つの宮は、安全機構(セキュリティ)上、ほぼ同等の権限を持っております。本来、双方の『頭脳』が同じ計算、決定を下した際にのみ、施設運営に対する施策が実行されます」

 言葉と供に、女王の「姿」がかき消えた。最初に現れた、水晶のような核の下に、今度は別の立体的な図画が現れた。

 ラムウェジが取り寄せた古代施設図を、更に立体的に現した図だ。

 大きな円を描いて展開する下層の『六の宮』、それより一回り小さな円を描いて上層に浮遊する『七つの宮』。上層の『七つの宮』も、グラン達が今いる『六の宮』と同じ形をしているようだ。

「これは運用状態時の立体図です。現在は動力を抑え記録保持を目的とした維持状態を継続しており、最小時では七つの宮のうち、四つの宮が切り離(パージ)されていました」

 言葉とともに、七つの宮の一つ一つが順に高度を落とし、やがて落下していく。宮がひとつ減る度に、上層部は配置を変え、常に均等な距離を保って浮遊しているようだ。

 最終的に、三つまで減った『七つの宮』の上空に、黒い霧のようなものが現れ、ひとつの点となって施設の上に降り立った。

「それが、黒き人が現れて、『蛇遣宮』の頭脳に干渉し動作権限を得たこと、黒き人による動力の供給が始まったことで、『蛇遣宮』は落下した『七つの宮』施設の再構築を提案しました。動力が補充され、再構築は可能と判断した『天秤宮』の頭脳もこれを了承し、再構築が始まりました」

 それまで表示されていなかった「地上の荒野」が立体図の下方に表示される。大小の残骸の散乱する白い荒野の、大きな岩塊の一つが浮遊しながら、周りの残骸を取り込み形を整えながら上昇していく。これが「宮の再構築」を現しているのだろう。

「現在、再構築が完了した宮は二つ。残り二つが再構築されてなお、余剰の動力が継続的に供給されると頭脳が判断すれば、施設全体が維持から稼働状態に切り替わり、運用が全面的に再開されます」

「それって、コルディクスが施設を復旧させたってことか? あんたたちにしたら、差し障りはないことなんじゃないのか」

「×××はいずれ、『次なる人』に全権が引き継がれることを想定している施設ではございますが」

 女王の声が静かに答えた。

「それをが行われるのは、定められた基準に、『新しき人』が到達したと、頭脳が判断してのみ。現状、『新しき人』全体の知的水準と倫理水準はいまだ既定条件に足してはおらず、引き継ぎは猶予の状態です。また黒き人も正規の手順を踏まず×××の頭脳に干渉しており、黒き人の私欲によって動いていると『六の宮』の全頭脳は判断しております。施設の復旧と動力供給は望ましいことですが、黒き人の干渉を受けた状態での稼働再開は好ましくありません」

 どうやら、『次なる人』と『新しき人』は、現状同列(イコール)ではないらしい。『新しき人』は、古代施設を引き継ぐに足る『次なる人』の候補である、ということなのだろう。

「『新しき人』は施設を引き継ぐための条件をまだ満たしていない。コルディクスは正式な手順を踏んで権限を得たのではないし、施設をどう使うつもりかも判らないから、それを妨害するための、安全機構(セーフティロック)が働いているってことなのね」

 ラムウェジも頷く。

「私たちも、教会が発見した古代施設を、他者に利用されるのは好ましくない。コルディクスの最終的な目的も判らないし、そもそも施設の防衛機能を悪用して、追っ手だけでなく無関係な人にまで危害を加えているのは許しがたいわ」

「七つの宮の『蛇遣宮』と『天秤宮』は、それぞれ独立した機構である一方、片方が不具合を起こした際に修正を施す機能が備わっています。ただしそれを行使するには、正式な手続きに則って古き人の遺産と契約した、正当な権限を持つ人間が必要なのです」

「……俺なのか」

 彼らの理屈では、施設に干渉ができるのは、古代人の残したなにかと正式に契約している者のみということだ。グランは正式な手順を踏んでラグランジュと契約しており、そのラグランジュは、古代文明においてかなり重要なものらしい。だが。

「……正式な手続き?」

 古代文明の遺産である、秘法だか秘宝だかであるラグランジュ。確かにグランは、正式と思われる手順を踏んでラグランジュと契約した。だが、その対になるものと契約した人間は他にもいるはずではないか。今現在は具現しているかは判らないが、ラグランジュと真逆の性質をもつ存在、『ラステイア』だ。

 あれが、古代文明的にどんな位置づけになるのかは判らない。そもそも「ラグランジュ」の存在の目的もよく判らないのだ。

 それに、持ち主の利害が相対すると敵に回るだけで、本来はラグランジュとラステイア、どちらも敵対して争うために存在しているわけではなさそうだ。

 だったら、ラステイアの持ち主だって、グランと同じ、古代施設においては『正当な権限を持った存在』ではないのか。それが、グランだけとはちょっとおかしくはないか。

 それとも、今現在『ラステイア』には契約者がいない状態だから、グランしかあてがない、という意味なのか。『女王』も、聞けば答えるのだろうが、なにも知らないユカとクロケが一緒では、聞くに聞けない。

「……具体的にどうすれば、機能の修正とやらができるんだ?」

 とにかく、先のことを考えなければいけない。グランの問いにあわせて、表示されていた施設の立体図が薄れ消え、改めて『女王』の姿が浮かび現れた。

「黒き人が権限を保有している『蛇遣宮』の頭脳と『天秤宮』の頭脳は、常に情報を共有しています。双方向に伝達網がつながった状態です。その伝達網を利用して、『蛇遣宮』の異常箇所を修正します。修正には、六の宮全頭脳の賛同を得た状態で、管理権限保有者が『天秤宮』の頭脳に直接接触し、『蛇遣宮』の異常について修正命令を下さなければなりません」

「……つまり?」

「グランバッシュ様自身が、『天秤宮』の頭脳に接触する必要があります。上層の『七つの宮』もこの『六の宮』も、施設の基本構造は同じです、頭脳のある「王台」に入ってしまえば、あとは登録された生体情報で認証されます」

「中に乗り込めってことか」

 外部から容易に操作されないための、安全機構なのだろう。

「ただし、上層部七つの宮の防衛機構は、施設外部から接近する者をすべて侵入者と見なします。たとえ六の宮の衛士であれ、警戒空域に侵入した時点で排除の対象になります」

「防衛機構って、あのでかい蜂か?」

「逆に、警戒空域を経由せず施設内に入ってしまえば、禁止行動を起こさない限り行動は制限されません。通常の作業従事者と同じ、保護対象として監視されるだけです」

 キルシェは転移の魔法を使って直接施設に入ったから、特に排除されることはなかった。しかし、監視対象として施設側に存在を把握されたことで、先に施設を掌握していたコルディクスに見つかった、ということなのだろう。

「じゃあ、どうやって乗り込むかって所からじゃねぇの。なにか算段はあるのか」

「現状、六の宮の保有する情報、機動力では、方法がありません」

 女王は淡々と言いきった。

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