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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
星の王太子と降星の荒野
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43.天空の城に住まう者<4/6>

 どういう仕組みでこの姿が見えていて、どこからこの声が聞こえてくるのかも、グランにはよく判らない。『女王』は優美さの感じられる動きで、ぐるりと人間達を見回した。

「『寄り添いし者と供に在りし御方』、グランバッシュ殿。×××では『地の力に護られし御方』と供に、同胞の困難を解消していただき感謝いたします。あなた方の情報(うわさ)は、他の同胞にも共有されております」

 いちいち小難しいが、どうやらこれは、彼らの元の言葉を、今の大陸共用語に翻訳しながら話しているためだと思われた。

 今ここで『寄り添いし者』云々の意味を理解しているのはグランとラムウェジだけだが、さすがにクロケもユカも、今はそこにいちいち引っかかっている余裕はないようだ。

「こちらには、改めてグランバッシュ様にお願いしたいことがあります。ですが今は、あなた方がここまで来た目的を優先いたしましょう。知りたいことがあればなんなりとご質問ください」

「え、えーと……」

 さすがのラムウェジも、驚きから我に返るのに多少時間がかかった。ぶんぶんと首を振り、六角形の穴の中に満たされた『蜜』の中で眠る人間達を指さす。

「あ、あれは、あなたたちが手当てしてくれてるって受け取って構わないの?! みんな、大きな蜂に襲われた人たちなの?」

「最初の質問には、肯とお答えいたします」

 質問が二つ含まれていると判断した女王は、律儀に先の一つの説明をはじめた。

「上層部の『七つの宮』の衛士達は、外敵の攻撃の際、物理攻撃に相乗して錬金魔法による敵体内硫酸の体表転置を仕掛けます。これにより、外敵は戦闘能力を大幅に喪失し撤退を余儀なくされ、回復までに時間がかかることから大幅な敵勢力削減が見込まれるためです。『六の宮』より上層にある『七つの宮』を攻撃できるのは、高位の魔法使いおよびそれに使役される魔法生物および魔導機械に限られ、自ずと対防衛機能も強力である必要がありました」

 ユカとクロケが揃って目をぱちくりさせる。なにを言われているか判らない、という顔である。

「しかし、魔法力の供給停止状態が長期にわたったことで、施設自体が動力不足に陥り、運用状態から維持状態に切り替わりました。維持を継続するための動力も不足するようになったことで、七つの宮の切り離(パージ)が実行されました。切り離(パージ)された施設は、地表にある緩衝地帯に落下することが想定されるため、周辺は安全のため幻惑魔法による立ち入り禁止措置が施されています。しかし、新しき人の中にも、意識的無意識的にかかわらず、魔法を無効化できる者がおり、運悪く施設破片の落下衝撃に巻き込まれた新しき人が重大な身体機能の損傷被害を被ることが希に起こりました。そうした、『事故による負傷者』を保護し、六の宮の各王台施設で回復させてから地上に戻す、という措置は、過去にも何件かございました」

「んーと……動力不足で浮遊させていられなくなった『七つの宮』の施設を落下させた際に、運悪く巻き込まれて怪我をした人がいるってことね?」

 ラムウェジが判りやすく言い換える。やっと理解が追いついたらしく、ユカがぽんと手を打った。

「さっきの蜂さんが言ってましたの。地上に落ちた施設を拾い集めてるお仕事をしてるって」

「あーしが聞いた『開けた場所で、空からたくさん星が降ってきたのを見た人の話』って、その施設が落ちてきたときに、巻き込まれた人の話だったのさ?」

 クロケが聞いたのは、迷い込んだ「あるはずのない開けた場所」で、たくさんの星が降ってくるなか、羽を持った異形が天と地を行き来してたのを見た男の伝承だ。その後、その男は道ばたで気がついたというが。

「施設が落ちてくる現場に遭遇して、巻き込まれて怪我したのを保護されたってことか。本人には治療された記憶がないから、ある程度回復して地上に戻されるまでに時間が経ってたってことにも気づかなかったのか」

 ここから地上までどれくらいの距離かは不明だが、石ひとつだって高いところから落とせばそれなりの凶器になる。巨大な瓦礫なら、直撃しなくても、間近に落ちただけで相当な衝撃を受けるはずだ。

 なるほど、あの荒野は、何らかの理由で施設が落ちてきた際の、緩衝地帯なのだ。

「でもそれだと、でかい奴らは、昔は地上に降りてくることもなかったってことなのか?」

「地上に落ちた施設素材の回収は一部の例外を除き、施設下層部の『六の宮』の勤めでございます」

 女王は静かに答えた。

「しかし、上層部が『黒き人』に占拠されて以降、行動設定を一部書き換えられた『七つの宮』の衛士が警戒に降りてくるようになりました。彼らは施設防衛のための機能をそのまま持っており、新しき人が警戒範囲に入ると無差別に攻撃いたします。『黒き人』はどうやら、施設に近づく新しき人を警戒しているようです」

「コルディクスは、追っ手を警戒してるんじゃないか」

「そうでしょうね」

 グランの視線に、ラムウェジも頷く。

 現場周辺に古代施設があるのを知っているのは今のところ、レマイナ教会の調査チームだけだ。普通の人間はそもそもたどり着けない場所だが、コルディクス自身は実際にそこにいるわけだし、キルシェのような例外もある。施設全体の修復が終わり、全権を掌握するまで、自分以外の者を近づけたくはないだろう。

「あ、その事情だと逆に、エトワール氏とその従者を置いていく判断をしたのは、なぜ?」

 ラムウェジが質問を追加する。

 ラムウェジが遭遇したところで、大きいものの攻撃がやみ、けが人達を回収していた小さな蜂は、結局エトワールとその従者を置いていった。連れ去りではなく保護だというなら、重態の二人を置いていったのはなぜなのか。

「それは、地の祝福を受けし御方、あなた様がいらしたからです」

「私?」

 ラムウェジが自分を指さし、目を丸くする。

 レマイナは大地の女神だ。古代人の遺産である彼らは、レマイナ由来の法術を『地の力』と判断するらしい。

「新しき人にかけられた硫酸転置作用を解除し、なおかつ損傷箇所を修復しないと、命の危険がございましょう。しかし、あなた様には、酸転置作用を解除はできなくとも、命に関わる損傷を高速で修復する能力がございます。それで、あなた様に負傷者をお預けしても、命の危険はないと判断しました」

「そこまで考えてくれてるんだ。でも、むしろ預けちゃった方が『呪い』を解除して返してくれてたってこと? ジェームズ君がいなかったら、酸の作用は解除できなかったし……」

「いいんじゃねぇの、結果的にここまで来る手がかりになったんだし」

 ぶつぶつ悩みはじめたラムウェジを、投げやりに援護(フォロー)すると、グランは女王を改めて見あげた。

「あんたたち、俺になにか頼みがあるって言ってなかったか? コルディクスを追い払うのに、俺が役に立つって、なにか具体的な根拠があるのか?」

「……寄り添いし者とともにありし御方よ」

 その必要はないのだろうが、女王は宙に作り出した「姿」を使ってグランに向き直った。

「この施設に、人間の作業指導者および作業補助者はおりません。当施設動作に影響を与えられる権限を持つ人間は現在、我らの把握する限り、あなたさまのみです」

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