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5.龍の眠る谷<1/4>

 ラレンスの町から南に向かった先で、街道は南と東、二方向に分かれる。

 南の道は、内海の海岸線に沿いつつ、その先の大洋に囲まれた半島の先端まで続く。東への道はゆるやかな弧を描いて伸び、大陸を東西に横たわるオヴィル山脈と並んで走る『探求者の街道』へつながる道になっている。

 本来なら『探求者の街道』をひたすら進んでいるはずだったのが、アルディラのわがままで本来の予定をそれて南に降り、一行はラレンスにやってきたのだ。

「ぼくらがいるのは、メロア大陸のこのあたりです。このあたりが大陸の中でもっとも栄えているので、大陸中央部って呼ばれてます。この中央部の南西にあたる一帯がここですね」

 どこに向かってるかさっぱり判らない、というユカとクロケのために、地図を広げて説明しているのは、なぜかリオンである。野営中はアルディラのそばにいたのだが、出立間際になって合流してきた。あっちにいてもよかったのに、というグランの言葉に、

「新しく女性が合流したらしいってオルクェル様が言ってたので、アルディラ様がやきも……もとい心配されてて」

「あいつもまた余計なことを……」

 オルクェルは無能ではないはずなのだが、アルディラに対してだと『当たり障りのない説明』ができない。それなりの実力のある武人であるというが、大公の息子のひとりであるオルクェルが、エルディエルでは山ほどある騎兵隊の一隊長にすぎないというのも、なんとなく判る気がする。

「で、僕らはこの街道を通ってルキルアから、メルテ川沿いにやってきて、ここで山地から内海に出て……」

「エルディエルって大きな国なんさぁ。この区域は海がない小さな国がいっぱいあるんねぇ」

「南岸諸島ってこんなに遠いのですの? 海は大陸より広いのですの」

「いや気持ちは判りますけどまずは場所を把握して……」

 すぐ話が展開していく女子相手に、リオンの解説はのっけから難航している。

「てかなんで自分の地図なんか持ってんだあいつ」

「地図だけじゃありませんよ」

 半分呆れながら、子供達の様子を後ろから眺めていたグランに、エレムはリノの荷馬車の荷台に載せられた鞄を示した。リノはといえば、部隊の最後尾を荷馬車でのんびりついてきながら、ついでにランジュを馬に乗せてやっている。

「ヘイディアさんと相談しながら、町でいろいろ本を買ってたようですよ。風の性質や、天気の変化についてのものとか、水に関するものもありました」

「本? なんでまた」

「僕らは覚えてませんけど、町の火災で、ユカさんが水を操って火を消したのをリオン君は見てるんですよね。今までも漠然とは考えてたみたいですけど、それが決定的だったみたいで」

 ユカの法術を見たことと、リオンが本を買い込むことにどんな関係があるのか。いまひとつピンとこないグランに、エレムはなぜかため息をついた。

「自分に無駄に自信のあるひとはこれだから……。ユカさんが法術をそれなりに役立ててるのに、自分はいまひとつ使いこなせていないって、考えちゃったんでしょうね」

「無駄ってなんだ無駄って」

「余計なことに引っかからないでくださいよ。有り体に言えば、リオン君は、自分を振り返っちゃったんです。察してあげてください」

「振り返る、ねぇ……」

 ちゃんと学校に行かないと母親が心配するだとか、アルディラが輿入れしたら自分はついて行けないだとか、たまに口走っていたから、今後に関して漠然とした不安は持っていたようだ。どうやらユカのせいで、それが具体的な形を取り始めてきたのだろう。

 そもそもリオンにとってのアルディラは、ユカにとっての法具のようなものだ。アルディラの世話係という肩書きを取ったら、リオンはただの中途半端な神官見習いに過ぎない。不足を埋めるためにあがき始めるのは、方向さえ間違えなければ、成長段階の過程として悪くはないが。

「自分を見るようだってか?」

「えっ?」 

 エレムが目を瞬かせる。

 やっぱりこいつは自覚がないのだ。グランは素知らぬ顔で話を移した。

「扱うものの性質を知れば法術の幅が広がるとか、ヘイディアは言ってたけどさ。水の性質ってなんだよ、凍ったり湯になったりする以外に、なんかあるのか」

「なに言ってるんですか、霧は、空気の中に隠れている水が、寒さで姿を現して起こる現象なんですよ。寒い中で息を吐くと、白くなるでしょう。あれと同じです」

「へぇ……?」

「水場に行くと空気がじっとりしているのも、空気中の水の量が多いからですよ。こうして触れている空気の中にも、水は含まれているはずです。ユカさんがその理屈を納得すれば、何らかの形でそれを利用できるかも知れません」

「そういや、クロケはなにもない空中から、つららを作り出したな……」

 氷は水がないと作れない。あのときは足下に豊富な水があったが、氷の島で寸断されていたからクロケ自身が触れることはできなかった。しかし、空気に含まれている水を利用した、というのなら話は判らないでもない。いまいちピンとこないが。

「そういうの、誰がどう調べてるんだ? 空気の中に水があっても目に見えねぇだろ」

 グランは目の前の空を掴む仕草をしてみせた。エレムは思わず苦笑いを見せ、

「もちろん、学者や、大学で研究もしてるはずですけど、こうしたことは古代の文献にも多く残ってるんです」

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