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2.編み直された過去と今<2/3>

 ユカと共に"水竜の神殿”まで行ったことで、レキサンディアに絡む過去が変わっているのは確信できた。

 そのグランとエレムがまず確かめたのは、改変前の記憶をどれだけの人間が保っているか、だった。

 すくなくとも、自分たちとユカ、ヘイディアは確かに同じ記憶があるのだ。

 オルクェルとリノにも話を聞けたが、言っているのはリオンと似たようなことだった。ルスティナもエスツファもそうだし、兵士達や町の者たちにも、記憶の食い違いで混乱している者はいないようだ。改変前の記憶を残しているのは、シェイドが作動させた『時の舵』の発動に関わった者だけらしい。

 そして記憶の分岐点は、リオンが言っていたように、自分たちがアンディナ教会を訪れたあたりらしかった。自分たちの記憶と町の風景にも細かな食い違いがあるのだが、出来事の流れそのものは変わっていない。

 自分たちの記憶と、今の世界の認識にどれだけ差が生まれているか、エレムは懸念していたが、ルスティナたちの話を聞く分には、この街にたどり着く前までの出来事に関しては、心配しなくてもよさそうだった。

 町から戻ってきたグラン達の話を、最初は不思議そうに聞いていたエスツファとルスティナも、グランとエレム、ユカ、ヘイディアの話には揃って矛盾が無いことから、「また面白いことに巻き込まれたらしい」程度には呑み込んでくれたらしい。

「確かにこの町では、事前に聞いていたよりもアンディナ教会が重んじられていて、不思議に思ったのであるよ。それにこの街に水に関わる神の神殿があることも、エルペネでは全く聞いていなかったな」

「グラン達がユカ殿と訪れたことで、神殿に保管されていた法具が消えたというなら、歴史の矛盾を修正するためになにか大きな力が働いたのかも知れぬ。グラン達が過去を変えたことが、世界そのものに受け入れられた、と考えてもよいではないか」

「だから、なんでそんなにすんなり信じられるんだよ」

 エスツファとルスティナにあっさり納得されて、グランは思わず声を上げた。二人は顔を見合わせ、揃って苦笑いを浮かべた。

「そなたたちがそこまで示し合わせて、そのような嘘をつくとは思えぬよ。誰の得にもならぬ話ではないか」

「そうそう。それにおれ達はこれまでも、散々信じられないようなことを見せられてきているからな」

 エスツファはそう言って、一人で遊んでいるランジュの頭を撫でている。キルシェがグランの肩の上で、「当然ね」と胸を張った。

「すごいのですの、さすが一国の軍を率いている方々は器が違うのですの」

 ユカはランジュの正体を知らないから、懐の広大な二人にただひたすら感心している。

 笑い飛ばされるのも癪だが、こうすんなり信じてもらえてもいいものなのだろうか。話が面倒にならないのは助かるが、グランとしてはどうにも拍子抜けだ。

『過去の女王』を倒すに至るまでの自分たちの苦労が、歴史そのものから無かったことにされてしまったのも、確かに釈然としない気もする。

 が、古代レキサンディアの崩壊と供に女王がきちんと「斃された」今の世界では、もちろん妖魔化した女王によって海に引き込まれた者もないため、フィーナや、町から行方知れずになったとされていた者達は普通に生活している。想像以上に丸く収まってしまって、どこにも文句がつけられない。

 ファマイシス一三世は水竜の神殿に安置されていた預言書の中で、レマイナとその属神の台頭についても触れ、それを受け入れ重んじるようにとも書き記していた。おかげでこの町のアンディナ教会、レマイナ教会は、レキサンディア時代からの信仰を受け継ぐ住人とも良好な関係を保っている。

 法術の素質のある者がそこそこ在籍している今のアンディナ教会でなら、ユカがアンディナについて学ぶことに、なんら障害はなさそうに思えた。

 のだが、


「わたし、みなさんと一緒に行きたいのですの!」


 一番の問題は本人だった。

 ルスティナとエスツファに説明が終わり、互いの記憶の食い違いもある程度確認がついた頃合いに、ユカはそう言い切ったのだ。

 グランは露骨に眉を寄せ、

「なんでだよ、アンディナのことについて知りたいって散々言ってたのはお前じゃねぇか。だからルスティナも協力してここまで連れてきたんだろ」

「この街のアンディナ教会は運営の条件も恵まれてますし、教会には法術師もいらっしゃいます。ほかの地域との交流も盛んで、町全体が勉学に対する意識も高いようです。水の性質そのものを学ぶのにもよい環境だと思いますよ」

 エレムがもっともらしく援護に入る。グランが聞いていても、思わず言いくるめられるもとい納得できそうな話しぶりだ。

「町のみなさんにも、法術師に対する理解と敬意があります。ユカさんはきっと歓迎されますよ。不安なのは当然ですけど、せっかく思い切って町から出てきたんですから、新しい場所で新しい経験を……」

「そういうことじゃ無いのですの、気が変わったのですの!」

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