表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/622

8.港町と教会と<4/4>

 グラン達がラレンスへの立ち寄りを予定していたのは、『サフアの町で水神として祀られていた“アヌダ”が、実は海洋神アンディナではないか』『ユカが“アヌダの巫女”として使う神通力は、実は法術ではないか』、という、ヘイディア達の推論が発端だった。

 そこから、アンディナが“アヌダ”の本当の名であるのなら、アンディナについていろいろと知りたいと、ユカが希望したのだ。

 もっともグランには、ユカはそれらを口実に町を離れたいだけなのではないか、という印象が拭えないのだが。

 なんにしろ、ルスティナもアルディラも、ユカがアンディナ教会まで出向くのを後押しすると、約束している。事情を知っているグランたちがユカと同行することになったのも、まぁ成り行きとしては自然だろう。

 しかし、社の地下に暮らしていた存在については、もちろんそのままハンナ達に説明するわけにはいかない。

 法術師を含むエルディエル・ルキルアの一行が町を通りかかったのが、ユカの力が法術ではないかと気づくきっかけになったこと。同時期に“巫女の予言”通りに起きた山肌の崩壊に伴う新たな水源の発生で、ユカが社に務め続けなくてよくなったという流れに話を整え、エレムが説明し終えると、ヘレナはひどく興味を引かれた様子で話を反芻するように何度も頷いた。

「そうですか……アンディナ信仰の伝わり方が中途半端だったことで、若い女性が山で一人きり神に仕えるという風習ができあがったと考えられるのですね」

「そういうことなんです。山頂の泉に水が湧いていた大本の仕組みについては結局判らないままですが、“祈り“という形で、法術の力が関わることで泉の水量が増していたのは確かなようです」

「へぇ……法術が干渉できる装置といえば、魔法力を使った古代施設の仕掛けでありますかね」

「え? ああ、そういうのも考えられるかも知れませんが」

 上手くぼかそうとしていたエレムは、ヘレナの後ろに立って話を聞いていたシェイドの横やりに、いくらか意表を突かれたようだ。それでも、“自分は詳しいことは何も知らない”ような顔を崩さず、

「山肌の崩壊で水があふれ出したことで地盤が弱まったようで、泉を含む山頂も一部崩れてしまったので、なにか施設があったとしてもすぐに確認出来ないようなんです。しかし古い記録では、アヌダ信仰が始まった時期と、アンディナ神官があの地方を訪れた時期が一致するようなので、アヌダとアンディナが元は同一であるという可能性は非常に高いと考えられます」

「それで、わざわざここまでいらしたのですか……お役に立って差し上げたいのはやまやまなのですが」

 ヘレナはいくらか済まなそうに目を伏せた。

「今、この建屋に所属する神官達は、このシェイドさんがおっしゃったように、山向こうのサイスの町にお世話になっております。法術を使える者もおりますので、その者がいれば役に立つお話ができたかも知れませんが……」

「はぁ……」

「さっきから揃って訳ありを匂わせてるけどさ」

 どうにも煮え切らないヘレナの態度に、正直飽きてきたグランが横から割り込んだ。

「なんでそいつらが『避難』しなきゃなんねぇんだよ」

「それは……でもすぐにお発ちになるのであれば、詳しく説明する必要はないかと」

「わたし、もしアヌダがアンディナなのなら、アンディナについていろいろ知りたいのですの」

 話を濁そうとするヘレナに我慢できなくなったのか、エレムの隣でおとなしく話を聞いていたユカが声を上げた。

「法術は、その由来する神や、自分の扱うものの性質をたくさん理解すればするほど、幅が広がるって伺いましたの。できたらアンディナ教会で、修行させて頂きたいとも思ってましたの。どうして司祭様はそんなに歯切れが悪いのですの?」

「そ、それは……」

 ユカは怯むヘレナをまっすぐに見据えている。ヘレナの後ろに立ち、会話の様子を眺めていたシェイドが、少し身をかがめて背後からヘレナに声をかけた。

「ヘレナさん、お話した方がよさそうであります」

「ですが……」

「このお嬢さんは、それまでの場所で課せられていたお役目を果たし、新たな道を模索しているのであります。アンディナを頼って訪ねてこられた、その思いに正面から答えてあげてはいかがでありますか」

「そ、そうですわね……」

 いくらか戸惑っていた様子のヘレナも、気持ちを定めたらしい。

「実は、数ヶ月前から、町では奇妙な噂が流れているのです」

「……噂、ですか?」

 思わず居住まいを正したエレムと、それにあわせて背筋を伸ばしたユカやリオンを見返し、ヘレナは影の差した表情で頷いた。

「はい。海で死んだものが帰ってくる。そして、新たに誰かを連れ去ってしまう。そうとしか思えない事件が、ここ数ヶ月に渡って、いくつも起きているというのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ