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2.海底の過去、海上の現在<2/4>

 アルディラとは、サフアの町の収穫祭を模した催し物の時に顔を合わせたあとは、いろいろ慌ただしくて接触の機会は無かった。別にこちらから顔を見たい用事もないから、会わなくてもグランはまったく構わなかったのだが、プラサとフェレッセをつなぐ『首飾り』の競技会の表彰式会場で捕まってしまったのだ。

 アルディラが競技会を観覧する予定などもちろんなかったから、迎える領主側も大わらわだ。祭りの後はそのまま、その場にいたルスティナ達と共々、急遽催された晩餐会にまで付き合わされ、アルディラの機嫌も一旦治ったかに思えたのだが、

「帰り道はいろんな名所を見て回りましょうね。この辺りは内海沿いの景観が有名だけど、山側にも名所がたくさんあるのよ。天空の水鏡といわれる塩湖ユーニュもカカルシャの近くだって言うし……」

「帰りって、カカルシャから後は俺達別行動だぞ」

 と、うっかりグランが口を滑らせてしまったのだ。

 そもそも、ルキルア城でカカルシャまでの同行を依頼された時のエスツファの口説き文句は、「行く方向が同じなら一緒に行った方がそちらも楽ではないか」だった。

 グランもエレムも旅慣れているとは言え、小さな子どもを連れた旅はなにかと不自由だ。ルキルアの部隊と一緒なら、馬車もあり、食事や宿の心配もせずに済み、必要ならランジュの面倒も見てもらえる。多少の窮屈さには多少目をつむっても、一緒に行った方がこちらも都合がよい。

 もちろんあの時は、そんな利益メリットを考慮している余裕はなく、アルディラのお守り役なんかできるかという一心から、勢いでルキルアの部隊に同行するこを承知してしまったのだが。

 しかしあの時のオルクェルも、「カカルシャに一緒に行ってほしい」というだけで、帰りまでは何も言っていなかったように思うのだが、

「無事に帰るまでが護衛の仕事でしょう! 意味わかんない!」

 アルディラはぴしゃりと言い切った。

 確かに普通に考えたらそうなのだが、自分たちの事情は最初から普通ではない。お互い了承済みのことを、横からあれこれ口を出されても困るのだ。

 しかしそんな理屈など、頭に血が上ったアルディラに通じるわけがない。その場はフェレッセの領主や貴族たちの手前もあり、必死でオルクェルがなだめている間に、逃げるようにその場を離脱したのだが、一夜明けてグラン達の部屋にやってきたオルクェルは、

「姫は、ラレンスにて、海中に沈む伝説の都市レキサンディアに関連した遺構を視察したいとのご意向である」

「沈んでる町をどうやって見るんだよ」

「ラレンスの町一帯は、レキサンディアの跡地の上に建っているのだ」

 手早く朝の支度を終えて出迎えたエレムと、不機嫌そうに寝台に腰掛けるグランを相手に、オルクェルは朝からいきなり疲れた様子だ。なぜかエスツファも同行していたが、これはここに来る前に偶然オルクェルと顔を合わせたかららしい。

「海渡りの競技会の時に、『女神が陸地を割ったことで、内海ができあがった』という話を聞いたであろう。首飾り諸島の伝説の真偽はともかく、陸地が割れたことで内海ができたこと自体は史実なのだよ」

「そうなんですか?」

「古い時代、この一帯はまだ陸地で、メルテ川の河口は今のラレンス辺りだったのだそうだ。河口にできた三角州を土台に作られたのが古都レキサンディアだという」

「へぇ」

「しかし大きな地震で一帯の陸地が大きく引き裂かれて、レキサンディアは瞬く間に崩壊し、海に呑み込まれたのだという。それに関しては、レキサンディアの民の不法に対する神の裁きであるとか、伝承的な話もいくつかあるそうであるが、それは今は置いておいて、レキサンディア自体は、ラレンス一帯とその眼前の内海を大きく包括する巨大な町だったそうだ。

 陸地は町になってしまっているため、ごく一部しか遺構を探ることはできないが、海中には沈んだ都市がそのまま残っているとの話である。水の条件がよければ、その都市跡を水面からも見られるというのだ」

「それはすごいですねぇ」

「もちろんそれが見えなかったとしても、ラレンスから南の海岸線は南岸諸島のような美しい景観だとかで、周辺諸国の貴族達にもとても人気の保養地になっているのだそうだ」

「それって、海底都市云々っていう以前に、ただの観光じゃねぇの」

「し、視察であるよ」

 言葉を換えたってすることは同じだろう。海に沈んだ太古の文明、それもただの跡地から今更なにを学べというのだ。グランは更に言いつのろうとしたが、

「あまりここでこちらがごねたら、『元騎士殿と別れたくないからカカルシャには行かない』

などと姫が言い出さぬかなぁ」

 それまで話に耳を傾けるだけだったエスツファがぼそりと口にして、グランとオルクェルは揃って顔を引きつらせた。

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