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8.巫女様の旅立ち<4/6>

「わたし、アンディナの神官さんや法術師の方に、会ってみたいのですの。アヌダの巫女に、仲間がいるのかも知れないのですの」

 予測していた答えだったのだろう。即答され、ルスティナは軽く頷いた。

「部隊は街道を越えてフェレッセを通過する予定だ。アンディナ教会があるというラレンスは経路から逸れるのだが、地図を見る限りフェレッセからはさほどの距離ではないようだ」

 指先で思案するように地図をなぞり、ルスティナはユカに視線を向けた。

「どうせついでであるから、フェレッセまで送って差し上げるくらいなら構わぬ。そこから先のラレンスまでの行程に関しても、できる限りの協力はしよう。帰りも同じ道を通るから、アンディナ教会があわないと感じたら、この町までまた送り届けることもできるであろう」

「わぁ、ありがとうございます!」

「ただ、町を出てアンディナ教会へ向かうことについては、ユカ殿自身がご両親と司祭殿へ説明せねばならぬ。よろしいかな」

「……」

 さっきの笑顔が一転、ユカは一気に硬い表情になった。

 そういえば、ルスティナは今日はヘイディアと一緒に、ユカの両親に会っていたのではなかったのだろうか。なんのために会いに行ったのかは知らないが、ルスティナのことだから、ユカが家に戻りたがらないことや、町を出て「アヌダの神殿に行かなければならない」と言い出した件に絡んで、それとなく話をしていそうなものなのだが。

 だがグランの目から見ても、ルスティナはユカの両親に会ったことについて、匂わせるようなそぶりはない。

「いろいろ思うところはあろうが、アンディナ教会に向かいたいというのは、ユカ殿自身の問題だ。我らはユカ殿の手助けはできるが、自分でしたいことをするためには、自分がまず動かねばならぬものだ」

「わ、判りましたのですの」

「後ほどまた町でオルクェル殿に会う約束があるから、その際に我らもご両親のもとに同行しよう」

「あ、ありがとうございますですの……」

 渋々ながらも頷いたユカに、満足そうに頷くと、ルスティナは今度はグラン達に目を向けた。

「ここからはグランとエレム殿にも話しておきたいのだが」

「うん?」

「今朝方、街道の岩が『アヌダ神の奇跡』により撤去されて、今は街道の整備中なのだが、今日中にめどがつきそうだ。後ほど、今後の行程について改めてオルクェル殿と相談する予定だ」

「それはよかったですね」

「うむ、いろいろ想定外のことはあったが、こうまでことがうまく進んだのはグランとエレム殿、そしてヘイディア殿のおかげでもある。もちろん公にはできぬことだが、オルクェル殿にも事情は話してある」

 グランの背後では、『なにかあったんですか?』と小声で聞くリオンを、後でとエレムがいなしている。グランは眉を上げ、

「あんな話、オルクェルが信じたのか?」

「言わないわけにもゆかぬだろう。驚いてはおられたが、納得されていたようであるよ」

 そりゃあ、ルスティナがこの顔で当然のように説明したら、オルクェルだって納得しないわけにはいかないだろう。半分あきれ顔のグランに、

「エルディエル側は、山頂の社とその地下一帯が、古代遺跡と関わりがあるらしいことにも関心をもっているようだ。グラン達がエルペネに行っていた間に、オルクェル殿の手配した部隊が、司祭殿と共に山頂に様子を見に行っているはずだ。山頂の社には、古い時代の記録が多く残っているので、アヌダ神に関してなにか有益な資料が見つかるかも知れないとのことでな」

「へぇ」

「私がオルクェル殿に会う頃には、その部隊も戻ってきているだろう、それも含めて後ほど、話が聞けると思う」

「そういえば、あの時は“女王”に会うことばっかり考えて、アヌダのことは調べてる暇もなかったからな」

「書庫にはかなりの書物が残ってましたよね、社の建物が無事だといいんですけど……」

 あのときは、地下の情報を集めるのを優先していたから、どんな類の記録が残っているかも見ている余裕はなかった。なにより、こんな短時間で状況が一変するとは思っていなかったのだ。

 自分たちが突き破った泉から、社の建物はいくらか距離があるとはいえ、あのときの衝撃で山頂の庭園自体がどうなっているか。どうにも想像しづらかった。



 

 結論から言うと、エルディエルとルキルア、二国の将軍を伴って現れた巫女の言葉に、町の主立った者達も司祭役の老女も、異を唱えることはできなかった。

 ユカの意志が固いとみたルスティナが援護に回ったのだろう。どう話をつけたのか、『アルディラ姫も巫女殿の旅が安全であるよう後ろ盾したいというご意向である』とオルクェルまで言い出したことで、町の者も強く反対はできなかったようだ。

 一方で、ユカの両親は、ユカが『アヌダの神殿』に向かうことを、特に反対はしなかった様子だった。

 家族の者はユカが家に戻ってこないまま旅立とうとしていることをどう思っているのか、どんな話をしてきたのか。ルスティナの部下の兵に送られて先に野営地にもどって来たユカに、エレムが詳しく聞こうとしていたのだが、

「今まで山頂の社にいたのが、別の場所に変わるだけですの。あの人達にはなんの問題もありませんの」

 とそっけなく答えただけで、あとはずっとランジュと遊んでいる。話をそらしたいのがありありで、エレムもどうにも深く聞き出せないでいた。

 世話係のつもりでいるリオンはランジュを取られて不満そうだったが、グランは素知らぬ顔で一人天幕に戻って好き勝手していた。

 夕刻近くになって、街道の整地作業を見に行ってたエスツファが部隊に戻ってきた時には、なぜかランジュよりも小さいくらいの子どもを二人、一緒に連れてきていた。ユカの、末の弟妹だという。

「ユカおねえちゃん、おうちに戻ってこないの?」

「遠くに行っちゃうの?」

 顔を見るなり飛びついてきた二人に、ユカは嬉しそうにしながらも、今度は泣き落としかと警戒していた様子だったが、

「ヨナおねえちゃんが、ユカおねえちゃんはみんなのために我慢したんだから、そのごほうびをもらうんだって言ってた」

「うみっておおきなお池のことなんでしょう? かえってきたらお話ししてね」

 目にいっぱいの涙をためながらも、行かないでとは言わない弟たちに、ユカもさすがにぐっと来た様子だ。

 エスツファに呼ばれてグランが顔を出した頃には、子供達は天幕の外に作られた即席のテーブルと椅子で茶菓子を振る舞われていた。世話をしているのはエレムとリオンだ。ランジュは当然世話されている方である。子ども達はユカを囲んで、この地方の高級菓子であるという干し葡萄を使った焼き菓子にかじりついていた。

「結局一緒に行くことになっちまってるみたいだけど、町の奴らはともかく親はどう言ってんだ? 親はユカと話すのもあきらめたのか?」

 その様子を少し離れた場所で眺め、グランはエスツファに訊ねた。

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