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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
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43.『扉』なる庭<3/4>

「今は地形を探るためでしたから斜面に沿ってゆっくり這わせましたけど、やり方次第でいろいろなことができます。天幕を張るのに利用したり、過去には塔から誤って落ちた方を、下からの風で勢いを弱めて命を救ったという話もあります」

「ルアルグの法術師なら誰でも出来るのですの?」

「いえ、素質の強い弱いはどうしてもございます。ですが素質さえあれば、きちんと風の理屈を学ぶことで、ある程度伸ばすことは可能です」

 ヘイディアは相変わらず淡々と、質問に答えている。聞きようによってはつっけんどんともとれそうなのだが、ユカは気にした様子がない。

「学校かぁ……。アヌダがもしほんとは別の名前の、レマイナの仲間の神様だったら、わたしもそこの教会にいけば法術師になれるのですの?」

「そうですね……」 

 ヘイディアは少し考える素振りを見せた後、

「道具の手助けがあるとはいえ、法術が発動しているのですから、町の風習の中である程度信仰も培われているのでしょう。学校できちんと学んで、正しく自分の神の特性を認識することで、法術ももっと伸びるはずです。なかなかの素養をお持ちのようですし、きっと歓迎されるでしょう」

「学校に入れてもらえるのですの? 神様に仕えたいって人たちの学校なら、みんないい人ばっかりなのですの?」

「それは……」

 ユカが嬉しそうに言っているのが聞こえたが、ヘイディアはなぜか言い淀んでいるようだ。

 結局それ以上の返事は聞こえないまま、三人は祭壇の部屋に戻って別の話を始めたようだった。

「……神官になるために必要な事柄を学ぶ学校ではありますけど、全員が神官になりたくて入るわけでもないんですよね」

 廊下伝いの三人の会話を気にした様子で、エレムは少し声をひそめた。

「貴族の跡継ぎが、教養を深めるために学びに来ることもありますし、次男三男などになると領地も家禄も継げず、騎士や兵士になるのも役人になるのも先延ばしにしてとりあえず入学、というひともいます。お金持ちの商人の子が、行儀見習いの代わりに渋々入ってくることもありますから、特権意識ばっかり持ってて意欲の低い人は、騒ぎを起こしたり素行が悪くなって除籍ということもたまにあるんですよね」

「そら、生徒だって人間だからな。人間社会に理想郷なんてねぇだろ」

「そうなんですけど、ヘイディアさんならそういう点も、はっきり言いそうですよね。ひょっとして、学校で人に言いたくないようななにかがあって、あんな風に人が苦手になっちゃったのかな」

「ふうん……」

「あっ、勝手な推測ですよ」

「判ってるよ、言わねぇよ」

 グランがぞんざいに頷くと、エレムは荷物袋になりそうなものを捜すと言いながらまた部屋を出て行った。

 エレムはエレムで、人のことに気を回しすぎだ。グランは息をついて、見つけた地図をいくつか抱えて祭壇の部屋へと戻っていった。



 夜が明けても、山頂は昨日と変わらずよい天気だ。もう少し雲があった方が過ごしやすい気もしたが、これから地下に出向こうというのに外が過ごしやすくても意味はない。

「私の探れる範囲では、風が大きく山肌に吸い込まれたり、逆に吹き出しているような気配はございませんでした。この山頂の建物のどこかに、地下につながっているような風の動きもございません。やはり、人が容易には扱えない力で移動できる可能性を、今回は探った方がよいかと存じます」

 食堂代わりになった祭壇の間で簡単な朝食を済ませたあと、意見を求められてヘイディアは淡々と報告した。ヘイディアは転移の法円で移動した経験もあるから、古代施設には現代の人間の理解の及ばない力を用いたしかけがある可能性も抵抗なく考慮できる。

 そうなるとこころあたりとなれば、やはり昨日ユカが言っていた『扉』という言葉になる。

 探っている最中に万一仕掛けが作動して、別の場所にいきなり飛ばされても大丈夫なように、それなり用意を調えてから、全員は庭園へと移動した。

 ざっと見て目に付くのは、庭園を中央で十字に句切る石畳の歩道と、その中央にある丸い広場だ。古代都市なら、『神殿』と呼ばれる四角い小さな建物があるはずの場所だ。

 エレムは少しの間、石畳で整えられた地面を探っていたが、やがて釈然としない様子で立ち上がった。

「転移のしかけが隠れてるなら、地面になにかあるんじゃないかと思ったんですけど、特になにもないですね」

「グランは何か気づくことはないか?」

 チュイナを肩に乗せ、ルスティナが問いかける。どうやらルスティナが一番のお気に入りらしく、特に何をする必要も無いときは、チュイナはユカよりもルスティナにまとわりついていることが多い。

 エレムがすることを横で眺めていたグランは、腕組みしたまま記憶を辿るように首を傾げた。

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