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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
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41.『扉』なる庭<1/4>

「なるほど、このように見えるのか」

 椅子に腰掛けたユカに寄り添うように座って目を閉じていたルスティナは、目を開けると感心した様子でため息をついた。

 ルスティナの左手に法具を持った右手を添えていたユカが、いくらか得意げに笑みを見せる。

 アヌダの巫女は、使い魔の見ているものを『頭の中で見る』という。しかもその気になれば、自分に接触している者と、その光景が共有できるというのだ。

 さっきから交代で試してみたが、グランにも、水差しにトカゲを隠して何食わぬ顔で部下達と会話しているエスツファの姿を見ることができた。記憶を思い起こすように、トカゲが見ている光景がおぼろに脳裏に浮かび上がってくるのだ。声は聞こえないが、なにを言っているのかもなんとなく理解は出来る。

「オルクェル殿は不測の事態に備えて、山を探索できる者たちを編成してくれるそうだ。その間、エスツファ殿はアヌダ神の由来について調べてくれるという」

「さすが、エスツファさんの察しの良さはずば抜けてますよね……、チュイナくん? を見ても驚かなかったみたいだし」

「よその国の人たちって、懐が広いのですの」

 いや、こいつらは例外だ。しかしそう言ってしまうと自分ももれなく例外に入れられそうな気がしたので、グランはあえて心の声を口にしなかった。

「無事にお使いも済んだみたいだし、一回術を解いてよいですの?」

「預かるものもなさそうであるし、よいであろう。貴重な経験をさせて頂いた」

 率直に言われ、ユカは嬉しそうに笑みを見せた。ルスティナから手を離し、法具を首にかけ直す。

「こちらの伝えたいことはきちんと伝わったようだ。せっかく“女王”にお招き頂いたが、夜に動くのは危険であるからな、ここは一晩こちらに厄介になって、明日の朝に行動を起こした方がよかろう」

「さようでございますね」

「ユカ殿、この社にあるもので女王のもとに行く準備をしたいのだが、協力頂けるかな」

「サバナさんがあちこちにいろんなものをため込んでるから、使えるものがあるなら使って欲しいのですの。わたしには、なにが探検の役に立つか判らないのですの」

 来いと言われたところで、全く知らない場所に行くのに、相応の準備なしですぐに出向くこともできない。

 そもそも、山頂で巫女から話を聞いたらすぐ帰るつもりだったから、自分たちの荷物をまったく持ってきていなかった。夜が明けてすぐ女王の元に出向くためには、この山頂にあるものですべて支度を済ませなければならない。

 では手分けして必要なものを準備しよう、という話がまとまったあとで、一悶着あった。

「ひょっとして、ルスティナ様も行かれるおつもりですか?」

「うむ、グラン達ばかり危険な目にあわせるわけにもゆかぬからな。ユカ殿はお使いの目を通して様子が判るし、あのトカゲを使って麓と連絡もとれる。それにやはり直接会ってこそ“女王”の真の考えも」

「なりません」

 いつもは上を立て、控えめにしているヘイディアが、きっぱりと言い切った。

「なんの下調べも出来ない状態で、ルスティナ様をかような場所にお連れするわけには参りません。私がオルクェル様に叱られてしまいます」

「しかし、場をまとめる者がいなくては」

「三人だけでございますし、現地ではグランバッシュ殿とエレム殿の判断にお任せすれば大丈夫かと存じます。それに、ユカ様だけでは、私どもが行った先で万一のことがあっても、とっさの判断が出来ません。どこでどういった援護が必要か、閣下自身に判断して頂き、下の部隊と連絡を取ってくださらないと困ります。ルスティナ様はユカ様と共に、ここで待機をお願いいたします」

 一歩も引かないヘイディアに困った様子で、ルスティナはグランを見たが、

「そのほうがいいな。なんかあった時、一番的確に対処できるのはあんただ」

「そうですね、ユカさんだけでは、さすがに心許ないです」

「そうであるか……、承知した」

 ルスティナは残念そうに頷いた。

 いくら腕が立とうが体力があろうが、万一のことがあった場合、ルスティナを最優先でかばってしまうだろう。人里ならまだしも、状況が判らない場所では少し荷が重いというのが、グランの正直な所だった。

「……結局、そなたらには労をかけさせてしまうな」

 ルスティナはすまなそうな、少し寂しそうな笑みを見せた。うまい言葉が思いつかず、グランは黙って頷いた。

「……話は変わるが、簡単に、『地下に来い』と“女王”は言っていたが、どうやって訪問すればよいのであろうな。どこかに地下に通じる道でもあるのだろうか」

「地下っていうからには、山肌のどっかに穴があいて通路になってたりするのかね」

「それだと灯りの準備も必要ですね。人が入れるような洞窟があったら、町の人が知ってるかも知れないですけど、そういう地図はないのかなぁ」

「あのう……、わたし、初めてここに来たときに、先代に聞いたことがあるのですの」

 ヘイディア以外は揃って首を傾げていると、ヘイディアの隣で様子を伺っていたユカがおずおずと手を上げた。

「泉のある庭園をびっくりして眺めてたら、あそこは『扉』なんだって言われたのですの」

「扉?」

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