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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
219/622

34.巫女様と招かれし者たち<6/7>

「違う光景?」

「そうですの。後ろ姿しか見えなかったけど、上から下まで真っ黒な髪の長い人と、金髪で白い法衣の人が、大きな青い月に向かって歩いてるのですの」

「月ねぇ……」

 グランは胡散臭そうに片眉をひそめた。

「でも月は、よく見たらとても大きな水鏡だったのですの。二人はそのままその水鏡に近づいていって……、どうするのかと思ったら、真っ黒な人が、柄に満月が埋め込まれた剣を抜いて、いきなり水鏡を割ったのです。割れた水鏡からたくさんの水があふれて、その中から、はねを持った何かが飛び出してきて、空に向かって翔んでいったのですの」

「へぇ……」

 全員の視線が自分に集まったのに気づき、グランは膝で頬杖をついてそっぽを向いた。

「びっくりしてたら、頭の中に声が響いたのですの。『彼らこそこの地の水脈の流れを変え、あなたを解放する者となるでしょう。この社に呼び寄せ、水脈の源に遣わすのです』って。それと一緒に、どうすれば、その二人をここに呼べるかも、頭のなかに流れ込んできたのですの」

 話がいっそう胡散臭さを増してきた。ほかの三人は神妙に話を聞いているが、どうにもグランにはまともに相手にする気になれない。一方で、ユカは夢見る乙女のように旨の前で両手を組み、熱っぽく話し続ける。

「これはきっと、アヌダ神がわたしの気持ちを汲んでくれたのだと思ったのですの。それで、お告げの通りに街道をふさいで待ってたら、あなたたちがルキルアの野営地にやってきたのですの。しかも幻の通り、真っ黒な人の剣には、月みたいにきれいな石が埋め込んであるのです。『この人達がわたしをここから連れ出してくれる人なんだ』って、わたし、とても感動したのです。それで、あの隊長さん? には悪かったけど、最初は『道を閉じ』ておいて、あなたたちをここに使わすように……」

「……ちょっと待て」

 憮然と話を聞いていたグランは、そこで思わず声を上げた。

「お前今、『街道をふさいだ』って言ったか?」

「あっ」

 ユカは声を上げ、声を上げたことに自分で驚いた様子で口元を押さえた。

「それって、俺達をここにおびき寄せるために、おまえがやったってことか?」

「え、っと、その、いえ、そんなわけが……」

 それまでは人に喋れるのが嬉しくて仕方ないという様子でなめらかに話していたユカが、急におどおどした様子で視線を逸らした。

「あのう、わ、わたしにはなんとも言えないのですの」

「知らないなら知らないって言えばいいだろ、なんですぐ答えられないんだよ」

「グランさん、ユカさんが怯えてますよ、もう少し言い方ってものがあるでしょう」

 勢いで言いつのろうとしたグランを、エレムが遮った。助けが入ったと、ほっとした様子のユカを、エレムは穏やかに見返すと、

「ところでユカさん、街道をふさいで積み上げられた岩山の下に、水の跡があったんですが、なにか心当たりはありま……」

「えっ、いえっ」

 ユカは明らかに心当たりでいっぱいの様子で肩を跳ね上げ、慌てて小刻みに首を振った。グランの目つきが更にきつくなる。

「なんだよそれ、やっぱり本当にお前が噛んでるのか?」

「え、か、噛んでるだなんてそんなことないですの」

「俺達に頼み事があるなら、変な小細工して俺達をおびき寄せるような真似してないでそっちから頭を下げに来るのが筋じゃねぇの? 道がふさがって通れなくなるのは、エルディエルとルキルアの部隊だけじゃねぇんだぞ。この近辺に住んでる奴らもそうだし、あの街道をたまたま通りかかっただけの旅人や商人だって困ってんだろ」

「だからグランさん、具体的な話も聞かずに決めつけるのは……」

「具体的もなにも、聞いてるのにはぐらかそうとしてるじゃねぇか。だいたい、あらかじめ街道になにが起こるか判ってたんなら、それがどういう風に起こるのかも判ってそうなもんだろ、事前に警告だって出来たはずじゃねぇのか」

 なだめるエレムにむかって、グランがまくし立てるように口を動かす。それまで静かに会話を聞いていたヘイディアが、ふと何かに気づいた様子でユカに目を向けた。

 ユカはなぜか姿勢を正すと、ゆったりとした動きでグランに顔を向けた。

『……あなた様のお怒りはごもっともでございます』

「ごもっともって、なんだよその人ごとみたいな……」

 今までのしどろもどろさとは一転した、静かなユカの語り口調に余計に苛立ちを刺激され、グランは更に言い返そうとしたが、

「グランバッシュ殿、今のはユカ様ではございません」

「え?」

 真剣な口調でヘイディアが声を上げ、三人は揃ってユカに目を向け直した。

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