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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
212/622

27.巫女様の招待<3/4>

 老女とオルクェルを先頭に、ヘイディアとルスティナを間にはさみ、その後ろをグランとエレム、最後尾はエルディエルの兵ふたりが、ほぼ一列になって山道を歩く。リオンとランジュは当然留守番となって、見送るエスツファと並んで手を振っていた。

「別になんてことねぇ山道だけどな」

 先頭をかくしゃく歩く老女の後ろ姿を眺めながら、グランが呟いた。石段の中央にしつらえられた溝を流れる水が空気をほどよく冷やして、山登りと言うよりは、散歩にでも来ているような雰囲気だ。

「この辺りは今んとこ、変な感じはしないんだろ?」

「そうですね。それに、そういうのは僕よりヘイディアさんのほうがはっきり判ると思うんですけど……」

 そのヘイディアは、オルクェルの少し後をさほど疲れた様子もなくついていく。草がそよぎ水路が心地よく水音を弾く中で、時折ヘイディアの持つ錫杖が、澄んだ音を響かせた。

「この山の裏手は枯れ谷だというが、こちらは緑豊かでとても美しいな。これで山頂に泉まであるなど不思議なものだ」

 グランの前を歩くルスティナは、一人変なところに感心している。

 村人に崇められている巫女に、大事な話を聞きに行くための山登りのはずなのだが、ルスティナ自身はあまり深刻そうな様子はない。自由のきかない旅の中で退屈していたのか、なんだか楽しそうにも見える。

 先頭のオルクェルがこちらを気にしているのが気配で判るが、すぐ後ろを歩くヘイディアの手前、あまりあからさまに後ろをふり返ろうとはしなかった。

 考えてみれば、こうした集団には珍しく、若い女が二人も混ざっているのに、まったく雰囲気が華やぐ気配がない。遊びに行くわけではないからこれはこれでよいのだが、雑談で少しくらい場が和んでもよさそうなものだ。

「そろそろにございます」

 それまで黙ってオルクェルの後を歩いていたヘイディアが、気持ち後ろを振り返り、ルスティナに声をかけた。見れば、石畳の側の地面に、オルクェルとヘイディアがつけたという目印がある。ルスティナは頷き、肩越しにグランとエレムに目を向けた。

 周囲は特に変わった気配はない。先頭の老女は、気負った様子も見せず同じ調子ペースで歩を進めている。

 グランはそれとなく周囲に視線を走らせた。これが『戻された』場合、ごく自然に、今歩いてきた道につながるというのなら、それはそれで見てみたい気もしたが、

「……あ」

 グランと同じように、周囲に目を配っていたエレムがふと前方に向けて顔を上げた。木立の先が開けて空の見える範囲が広がり、小さな広場になっているのが、ルスティナの頭の向こうに見えた。空間が開けたからか、すこし勢いのある風が吹き抜けるのを感じる。

 なんだ、ちゃんと進んでいるじゃないか。小さな水場のしつらえられた広場の石畳を踏んだグランは、何気なく後ろをふり返り、思わず目を丸くした。

 たった今まで変わらず後ろを歩いていたはずの、エルディエルの兵士の姿がない。

「……なるほど、これが『道が開く』ということか」

 開けた空間と、自分たちの列を見比べ、ルスティナがどこか感心した様子で息をついた。ヘイディアの表情はいつもと変わらないように見えるが、それはなんとも思っていないのではなく、事態をどう考えていいかとっさに判断できずにいるからのようだった。

 いつの間にか、前を歩いていた老女とオルクェルも姿が見えなくなっている。

 小さな水場の設けられた石畳の広場にいるのは、ヘイディアとルスティナ、そしてグランとエレムの四人になっていた。



 老女の話の通りであれば、『道が開かれた』ということなのだろう。だが、後ろを歩いていた兵士二人はともかく、前を歩いていた二人まで通されなかったのはどういうことか。

「ヘイディア殿、なにか気がつくことはあられたかな」

 特に動揺した様子もなく、ルスティナがヘイディアに向けて首を傾げた。今まで通ってきた道と、広場とを見比べていたヘイディアは、考えるように気持ち眉をひそめ、

「……参道の本当の入り口は、先ほどの印つけた場所からここまでの間なのでございましょう。法術というよりは、先にヒンシアの城で感じた魔力に近い力が働いたように思います。ただ、あの時のような悪いものは感じません」

「ふむ」

「あ、あの、オルクェルさん達は……」

 さすがに戸惑った様子のエレムにちらりと目を向け、ヘイディアは相変わらず淡々と答えた。

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