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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
211/622

26.巫女様の招待<2/4>

「どんなだよ?!」

「それは巫女殿に聞いてみないと判らぬ」

 ルスティナはきっぱりと言い切った。

 確かにそうなのだが、思い切りがよすぎはしないか。もう少し不思議に思ったり、警戒してもよくはないか。

「それに、山頂にいる巫女殿が、なぜ二人の特徴を知っているのかも不思議であるな」

「それは、村の誰かが伝えたとか……」

「なんの必要があってであろう? 山頂に向かったオルクェル殿とヘイディア殿に関してなら、事前に特徴を伝えておく必要はあるかも知れぬが」

 エスツファが冷静に言葉を継ぐ。

「会合に参加した者であれば、会合の内容の報告として、元騎士殿のことを誰かが伝えることはあるかも知れぬが、エレム殿はその時町中にいたのであるからな。なぜ二人を名指ししてきたかは、やはり巫女殿に聞かねば判らぬ。ここで言い合っていてもらちがあかないし、行ってみたらどうであるか?」

 仏頂面のグランの肩を叩くそぶりで、エスツファは耳元に顔を近づけて声をひそめた。

「不思議なお力で、その剣を持つ者が何者かを見抜いておられるのかもしれぬ」

「いや、だからって……」

 仮に自分が『ラグランジュ』の持ち主だと見抜かれたのだとしても、それと岩山の撤去の話とどう関わりがあるというのか。エスツファはすぐに飄々とした顔に戻り、

「山頂の社は、この近辺に住む者でもなかなか見られぬ美しい場所であるというぞ。なにしろ、いける者が限られているのであるからな。あまり難しく考えず、話の種にと思って行ってきたらどうであるかな」

「今の時期は春先より水量が少ないですが、美しい泉が湧いて、緑豊かな素晴らしいところでございますよ」

 山の上の水場など、確かにほかでは聞いたことがない。二人が巫女に選ばれた者だとでも思っているからか、勧める老女の声色も好意的である。

「山頂の泉ねぇ……」

「それなら、私も見てみたいものだな」

「えっ」

 なにげなくルスティナが漏らしたひと言に、グランとオルクェルが揃って声を上げた。オルクェルは一瞬嬉しそうな顔をしたものの、すぐに脳裏にアルディラの顔がよぎったらしく、笑顔をこわばらせた。

「それに私も、巫女殿がどういった方なのか興味がある。エスツファ殿、留守を任せてもよいだろうか」

「おれは構わぬよ、物資の調達も終わっているし、あとは待機だけであるからな」

 エスツファは山登りになど関心が無いから、返事も適当だ。ルスティナの言葉で内心の葛藤と戦っているのか、悩ましげに表情を変えるオルクェルを面白そうに眺めている。

「私もいま一度同行させて頂きとうございます。どのようにして『道が開く』のか、見てみたく存じます」

 それまでオルクェルの後ろで黙っていたヘイディアが、静かに声を上げた。さっき広場で見せた動揺はもう影もなく、いつも通りの淡々とした表情だ。

「で、では、行ってもらえるということで、話を進めて良いであろうか、グランバッシュ殿、エレム殿」

 結局、ルスティナが同行するのを断る理由はないと判断したらしい。なんとか表情を取り繕って、オルクェルがグランとエレムに目を向ける。

 行きたいという者が名乗りを上げる中で、自分たちだけが頑なに断るのも、変な空気になってきた。

 グランは腑に落ちない表情のまま、渋々と頷いた。隣で全員の様子を伺っていたエレムが、やっぱりこうなるのだとでもいいたげに肩をすくめたのが、視界の端に見えた。



 二人が行くと決まれば、後は特に相談することもない。老女を案内に立て、オルクェルとヘイディアのほかにエルディエルの兵士を二人同行させるのは最初と変わらず、今回はそれに、グランとエレムとルスティナが加わる形になった。

 ルキルアの兵も何人か、ルスティナの護衛として同行させたらどうかとオルクェルが提案したものの、

「グランとエレム殿が一緒なら、それで充分であるよ」

 というルスティナのひとことで話は終わってしまった。

 案内役の老女が言うには、この山間部は人を襲うような大きな獣はおらず、万一道を外れたとしても、さほど地形が複雑ではないから、どこを下っても必ず街道に出られるという。あまり大人数で警戒する必要もないらしい。

「それに、『道が開』けば、山頂まではあっという間のはずでございます」

 老女はきっぱり言い切った。最初にぐるぐる歩かされたオルクェルは、それ以上突っ込んで聞く気にはなれなかったようだ。

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