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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
209/622

24.神秘の泉と謎の参道<3/3>

「何であると?」

 オルクェルと、後方を護る兵は揃って目をしばたたかせた。自分たちは変わらず、石畳と白岩の階段の続く坂道を上っているように思える。戻ったとしたら、どこかで下りになっていないとおかしい。

 だが、先頭を歩いていた老女も、

「そろそろ池のしつらえられた小さな広場に出るはずなのですが、たどり着けておりませぬ。これは、道が閉じてしまっておるのやも」

「道が、閉じる……?」

「オルクェル様、何か目印をつけてみるとよろしいかと存じます」

 老女の思わせぶりな言葉にも特に反応はせず、ヘイディアが近くの地面に目を向けた。オルクェルは短剣で、草の生えていない地面に×印をつけ、更にその横をヘイディアが自分の錫杖の先で突いた。

 しばらくはまた、老女を先頭に山道を歩いていたが

「……また、戻されたようにございます」

 ヘイディアが足を止める。オルクェルにも二人の兵にも、特に変わったことが起きたようには感じられないらしく、怪訝そうに周囲を伺っている。

「……オルクェル様、あれは先ほどの」

「うむ……」

 ヘイディアに促されて顔を向けると、さっき印をつけた地面が、すぐ前方に見える。オルクェルはさすがに困惑した様子で首を巡らせた。

 出立したときよりも日が高くなり、木立から落ちる影が減ったことで、気温も上がっているように感じる。それなりの時間を歩いているのは確かだった。

「やはり、道が閉じておるようでござります」

「おぬしが誤った道をわざと進んでおるのではないのか」

 供の一人が、さすがに苛立った様子で声を上げた。だが老女はひるんだ様子もなく、

「誤るもなにも、道はひとつしかござりませぬ。分かれ道があれば、どなたかが気がつかれるでしょう」

「しかし……」

「確かに分かれ道などはなかった」

 オルクェルは老女の言葉に素直に頷いた。

「ヘイディア殿、一度、この二人を先に行かせたいと思うのだがどうであろうか」

「危険な気配はございませんでした。試してみてもよいかと思います」

 オルクェルの意図に気づき、ヘイディアも頷く。

 老女を先頭に立て、兵二人を進ませて、オルクェルとヘイディアは目印をつけた場所で待っていた。

 しばらくするとその場所に、老女と兵が“下から”やってきた。



「……それで、オルクェル様はいったん降りてこられたのですが」

「それは戻って来るしかないですよね」

「うーん……」

 彼らが話をしている間に、広場では楽隊の音楽に合わせた踊りが始まっている。リオンとランジュはしっかり人だかりの最前列に陣取っていた。ランジュは、自分まで今にも踊り出しそうなはしゃぎようで、ぱちぱち手を叩いている。

「なにかに化かされているような話ですね」

「ヘイディア殿も、ある程度進むと、法術とは違う力が働くのは気づくらしいのです。でも、その原因が何かまでははっきり判らないまま戻されてしまうとのことで」

 法術と違うとなると、一番疑わしいのは古代魔法による転移の魔法だろう。

 自分たちが今まで目にした転移の魔法は、法円が描かれた場所で発動するものばかりだった。とはいえ「魔法」というくらいだから、いろいろな形のものがあってもおかしくはないだろう。

 どういうやり方で妨害しているかは置いておくとしても、先に進めないというのは、『巫女がよしとしない』からと受け取れる。

 しかしオルクェルは口論をしにいったわけではないのだ。街道をふさぐ岩山を、なぜ『今』撤去してはいけないのか、いつならばよいのか、詳しい話を聞こうとしているだけに過ぎない。

 それすらも応じないとなると、今回の街道封鎖騒ぎにも巫女側が関わっているという疑いをもたれても仕方ないと思うのだが。

「……でもそれと、俺たちに来いってのと、どういう関係があるんだ?」

「それなんですが、オルクェル様達が山道の入り口に戻られてすぐ、司祭である老女が、社の祭壇に巫女からの書簡が届けられているのに気がついたそうなんです」

「へぇ?」

「オルクェル様がそれに目を通されたとたん、『グランバッシュ殿とエレム殿をお連れするように』と言われまして……だから私は、その手紙に何が書かれているかは存じないのですが」

「なんだそりゃ」

「別の者がルキルアの野営地にも向かっておりますので、ルスティナ様とエスツファ様にも連絡が行っているはずです。ぜひご足労を願いたいのです」

 グランとエレムは顔を見合わせた。

 頼むという形だが、ルスティナやエスツファの名前まで出されたら、嫌だともいえない。

 しかし、こうなってくるともう、厄介ごとに巻き込まれる予感しかしなかった。

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