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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
207/622

22.神秘の泉と謎の参道<1/3>

『祭り』の目玉だった葡萄踏みと踊りが終わってしまったので、あとは広場やそれぞれの家の庭先で、勝手に飲み食いして盛り上がっているようだ。

 広場は葡萄踏みの道具が取り除かれて広くなったところに、椅子とテーブルが出されている。屋台は葡萄踏みの前より増えていて、皆楽隊の音楽を楽しみながら酒に食事にと賑やかだ。

 まだ日も高いというのに、麦酒と骨付き肉片手に、すっかりできあがっている男達も多い。一方で、子どもを連れた家族の姿も多く、皆陽気で、あまり厄介な騒ぎは起こりそうになかった。

「そういえば、アルディラさんとはお話しできたんですか?」

 酒や果実水と一緒に、焼いた肉と芋を串に刺したのをいくらか買い、グラン達は広場の一角に陣取った。リオンがランジュの世話を焼いているので、エレムも今は飲み食いに専念できる。

 果実水の入ったカップを手にしたエレムに小声で訊ねられ、グランは麦酒をあおりながら、

「そんな雰囲気じゃねぇよ。巫女の話を詳しく聞きたいって言ってるのに、村の奴らが曖昧なことばっかり答えるから、アルディラもピリピリしてたしさ。あれでエスツファがいなかったら、大爆発だったんじゃねぇか? あいつがうまく『巫女に会って直接話を聞きたい』って話に持っていったんだから」

「エスツファさん、さすがですね……」

「今なら顔を見に行けば話せるんだろうが……アルディラにわざわざ借りを作りに行くのもなぁ」

「借りだなんて大げさな」

 思わず笑みをこぼしたエレムに、グランはまんざら冗談でもなさそうに眉をひそめ、

「だってあいつのことだぜ? 下手に頼み事なんかしたら、教える代わりにあれしろこれしろって言われかねないじゃないか」

「苦手意識が昂じて疑心暗鬼になってるだけじゃないですか? アルディラさんはちょっと気が強いだけで、優しい方じゃないですか」

「お前がなんでそこまで好意的なのかが逆に謎だよ……」

 苦虫を噛みつぶしたような顔になったグランを見て、エレムはくすくす笑っている。

「……で、会合の間に、町で話を聞いてみるとかいうのはどうなってたんだよ」

「ああ、屋台を見物がてら、それとなく聞いてみました。確かにアヌダ神に仕える巫女さんって、この近辺では有名のようですね。このあたりの山地はもともと雨の量が少なくて、古い記録だと、こちら側一帯も、山の向こう側の枯れ谷と同じように緑の少ない荒れ地だったそうなんです」

「へぇ……」

「それを、あるとき通りかかったアヌダ神に仕える巫女が、地下の水脈から水を導いてもらえるよう祈ったところ、山頂に泉が湧き出したというのが、この地での信仰の始まりだとかで……。アヌダ神に仕える巫女は、生まれつき神から力を賜った土地の女性が選ばれるそうで、血族ではないんだそうです」

 ありがちな言い伝えではあるが、そのアヌダ信仰が今も続いているというのなら、それなりに話の根拠はあるのかも知れない。

「この話をしてくれたのは年配のご婦人だったんですけどね。なんでもこの町では、秋の収穫祭のほかに、冬至の日に、水が涸れないように巫女がアヌダ神に祈りを捧げる儀式があるそうで、それをしないと、山頂にある泉が枯れてしまうというんです。でもそのご婦人は、長い間水不足を経験したことがなくて、アヌダ神に関しては半信半疑だったそうなんです」

「山頂の泉? ただの昔話じゃなくて、今もほんとにあるのか? それ」

 グランは眉を上げた。

「ええ、なんでもその泉は、この町の主要な水源というだけじゃなくて、そこが枯れると、追いかけるように周辺の川や湧き水も目に見えて水量が減るそうなんです。巫女さんが山頂で暮らしているのも、社と泉を守るために、神に近いところで清らかに生活しているからなのだと、町の人は聞かされているそうです」

「ふうん……」

 グランは釈然としない気分で頷いた。

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