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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
206/622

21.巫女様の助言と予言<4/4>

「一瞬期待しちゃったけど、どこから見てもそんなのはなかったよ」

 探るようなグランの視線を受けて、リノは照れたように頭をかいてみせた。まぁそうだろう、遠い異国の言い伝えに少し期待したというのも、冷静に考えれば恥ずかしいものだ。

「でも不思議なもんだったね。誰かがどこかから岩を持ってきて置いていった感じのふさがり方だもの。どうやって運んできたんだろう」

「やっぱりそう見えるのか」

「うんうん。でも、荷馬車とか使った跡がないっていうじゃない。不思議だねぇ」

「ふしぎなのですー」

 リノの口調が面白かったらしく、ランジュが真似して声を上げる。リノはにこにこと笑顔を見せた。

「大蟻とは関係なさそうだし、おいらまたエルペネに戻るけど、兄さん達はあれをどけないと進めないんでしょ? 大変だね」

「まぁ、俺が大変なわけじゃないから、いいっちゃいいんだけどな」

「なにを他人事みたいに言ってるんですか」

 咎めるエレムの後ろで、リオンも何か言いかけたが、リノにちらりと目を向けて口を閉ざした。自分が『エルディエルのお姫様の世話係』ということを、まったく部外者のリノに明かすのはどうかと思ったのだろう。

「……なんですか? 大蟻って」

 少しの立ち話の後、ランジュを降ろした馬にまたがって、リノはひらひらと手を振りながら去って行った。その後ろ姿を見送りながら、リオンが怪訝そうに聞いてきた。

「ああ、あいつが前にいたって言う炭鉱の、七不思議みたいなもんらしいぞ」

「七不思議、ですか?」

「ありさんのごはんは宝石なのですー」

「ごはん?」

 かばんにつけられた蟻入りの琥珀を示すランジュを、リオンは目を白黒させて見返した。エレムが苦笑いしながら、リノから聞いた話を説明すると、

「へぇ……今回の騒ぎによく似た話ですねぇ。この山の裏側は鉱山だっていうし」

「おいおい、遠い国の昔話だぞ。あんまり真に受けるなよ」

「そりゃそうかも知れませんけど、ヒンシアでのことも、なんでもない噂話が実はって……」

「あれはそうやって気にしすぎたから、かえっておかしなことになったんだろ。こういうのは、話半分に聞いときゃいいんだよ」

 耳に入ってくる情報、全部真に受けていたらきりがない。いろいろ面倒になって、グランはリオンの頭を鷲掴んで髪をぐりぐりとかき回した。リオンは悲鳴を上げてエレムの後ろに逃げ込んだ。エレムが苦笑いを見せる。

「そういえば、グランさんはなにをしてたんですか? なにが気になってたんです?」

「あ、ああ……」

 そういえば、自分は妙な気配を感じて様子を見に来たのだった。思い出してふり返ったが、自分も話しながら場所を移動しているし、どの辺りの草むらに水滴が残っていたか、もう判らない。

 なにをどう説明するべきか、考えかけたところで、

「逃げ出してどこに行ったかと思ったら、こんな近くにいたのであるか」

 会合が終わったのか、建物の裏に回ってきたエスツファが声をかけてきた。

「逃げたわけじゃねぇよ、確かに退屈だったけど」

「ああ、変なものを見つけたような出て行き方であったな。なにかあったのであるか?」

「いや……誰かがのぞいてるような気がしたんだけど……」

 問われているうちに、なんだかひどくつまらないことを自分が気にしていたように思えてきて、グランは首を振った。

「特になにもなかったから、鳥でもいたんだろ」

「ほう?」

「エスツファさん、会合は終わったんですか」

「ああ、ちょっと変なことになってきていてな」

 エスツファはエレムの問いに頷き返し、

「住民が岩山の撤去に非協力的になったのは、この周辺で発言力のある『巫女殿』の神託という話だったのだが、なぜダメだと言われるのかを誰も知らなかったのだよ。埒があかないので、その巫女殿に具体的な理由を聞きに行こうという話になった」

「理由も教えられないで従ってたんですか……。よっぽど発言力のある方なんですね」

「山の上に住んでるとか言ってたろ? 村の誰かに案内させるのか?」

「当然であるよ。山の上から滅多に降りてこないというのなら、逆に、必要な物を山頂まで運ぶ誰かがいるはずであるからな。誰にも道が判らないとはいわせぬよ」

 至極まっとうな話である。もしや、自分も行けと言われるのかとグランは一瞬身構えたが、

「オルクェル殿が、部下を連れて会いに行ってくるそうであるよ。元騎士殿も行きたいのであれば……」

「行きたかねぇよ。あの会合だって、結局俺要らなかったじゃねぇか」

「おれもこんなところで山登りは遠慮したい所であるからな、ルキルア側からの参加は辞退しておいた」

 エスツファはにやりと笑った。まったくこの男らしい。

「おれはそろそろ野営地に戻るが、せっかく村が祭りを催してくれたのだから、息抜きに少し見て来るとよい。どうせ部隊に戻っても待機しているだけだ。巫女殿との話がうまくつけば、総動員で力仕事であるからな」

「あ、ああ……」

 昨日まで別行動だったのに、息抜きもなにもあったものではないが、祭り自体は面白そうだ。

アルディラには結局、神代文字の話は聞けなかったが、それは今でなくてもいいだろう。

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