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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
204/622

19.巫女様の助言と予言<2/4>

 エスツファは、居並ぶ首長達を飄々とした顔で見渡すと、

「なにやらその巫女殿は、この地域ではかなり尊ばれている様子であるが、今日はここにおいでではないのかな?」

「み……巫女様は、山頂のお社にお住まいで、滅多なことでは降りてこられないのだや」

「ほう?」

 エスツファは、心底意外そうに目を丸くして見せた。

「ということは、巫女殿自身は、今の街道の状態や、こちらの部隊の様子を実際に目にしておられるわけではないのであるな。それに、山頂に住んでおられるなら、使者が行って帰ってくるのも容易ではなかろう? そなたらは、いつのまに巫女殿に神託を仰がれたのであるか」

「そ、それは……」

 やはりこのおっさん、喰えない。感心して聞いているグランの視線の先で、オルクェルがはっとした様子を見せた。なにか言いかけたのを遮るように、エスツファが更に続ける。

「本当に、巫女殿がそう話されているのであるか? 一体どなたが、巫女殿のお告げを聞いたのであるのかな」

「それは、その、巫女様はいつも、書簡でふもとの社にお言葉を賜るんだや」

「なるほど。その書簡は、誰が運んでいるのであろう?」

「それは……おら達もお使いの方に会ったことはないのだが、大事なときには必ず……」

 しどろもどろになる町長を見る近隣の首長たちの中には、疑わしげな顔つきを見せる者も出てきた。どうやらここにいる全員が、実際に巫女に会った事があるわけではないらしい。

「……失礼ながら、そもそも巫女殿とやらは本当に存在するのであるのか?」

「め、滅多なことを言うもんでねぇ!」

 村長はぎょっとした様子でエスツファを振り仰いだ。

「巫女様は水脈を守るだけでねぇ、先を見てわしらに助言を下さるんだや。今回のことも、全てを見通した巫女様が、書簡でお告げ下さったのだや」

「町からはなにも知らせておらぬのに、巫女殿に神託が下ったのであるか?」

 一連の話で、オルクェルの目にもさすがに鋭さが増してきた。村長は多少怯んだようすながらも、

「そうだや。朝までは、撤去に協力する事になるかと思っておったのに、ついさっき、ふもとの社に書簡が届けられたのだや。『異国の軍隊が使者を立てて頼み事をしに来ても、今は時期ではない。自分がよしとするまで協力してはならない』と」

「なるほど、予言の能力ちからもあるということなのか」

 話を振ったエスツファ自身は特に疑っているような素振りも見せず、世間話に相づちを打つような顔で頷いている。

「ならそれはそれでよいとしても、『今は駄目』というなら、ある程度待てばよくなる、と解釈もできる。それなら逆に、今はならぬ理由を問いたいものである。その辺りのことは、巫女殿はなにも言っておらぬのかな」

「それは……機がふさわしくないときに協力しては、もっと良くないことが起こるという話で」

「街道をふさいでおいたままだと、食料や物資の移送が滞り、商人や旅人を足止めするだけでなく一帯の住人の生活にも影響が出て、皆が困窮することになるのではないか? 岩山を撤去してしまうと、これら以上の災厄が起きると巫女殿は申されているのであるな。いったい、どのようなことになるのであろうか」

 顎を撫でながらのエスツファの言葉に、町長は困った様子で言い淀んだ。

 上座から遠い場所にいる者たちが、だんだんと疑わしげな目になってひそひそ話をし始めている。目に見えて不機嫌になってきたアルディラを気にしてか、エスツファの声を聞くオルクェルも額に冷や汗を浮かせている。もちろんエスツファは涼しい顔のまま、

「そなたらの尊ぶものを軽んじるつもりはないのだよ。ただ、無理に岩山を撤去することで別の問題が出てくるというのであれば、具体的に何事が起きるのか、我らが今どう対処するのが一番よいのか、巫女殿に直接会って話を聞いてみたいものである」

「しかし、巫女様にすぐにおいで頂くのは難しく……」

「それなら、こちらから出向けばよいであろう。いくら巫女殿でも、人里とまったく行き来できぬ場所には住めぬであろう」

「それが……」

 町長と、その近くにいる首長達は、困った様子で顔を見合わせた。

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