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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
195/622

10.街道の障害物<2/4>

「さっきエスツファ殿と来たときは、荷馬車や騎馬の者が立ち往生していたのだが、ここで夜明かしは危ないから、近くの町まで引き返したのであろうな」

言いながらオルクェルは、いつまで後ろに乗っているのだと言わんばかりの視線をグランに向けている。そんな場合じゃないだろうと思いつつ、グランも馬から降り、改めて山肌を見上げた。

 緑で覆われた山肌の、更に下の地盤がこうした岩盤なのだとしても、周囲には崩れたり削られた跡は全くない。確かに、どこからか誰かがこの大量の岩をここに持ってきて『捨てていった』ように見える。

 しかし、少なくともこちら側の路面には、重いものを大量に荷車で運んだような跡はなかった。それにこれだけの量の岩を一晩でここに積み上げようとしたら、相当の人手が必要だろう。

「……なんか、こんな話、どっかで聞いた気がするんだが」

「僕も、そんな気がします……」

 リノがいっていた、「大蟻の巣穴」の話を思い出し、二人は揃って両脇の山肌を見上げた。

 だが、どう見ても一度穴が開いてふさがれたような形跡はない。それとも、素人目には判らないだけで、採掘の経験者や地質について詳しい者であれば見分けがつくのだろうか。

 そこまで考えて、グランは我に返って首を振った。

 リノが言っていたのは、ずっと南の国での、迷信のような話だ。ここでまともに考えてどうする。ヒンシアでの件のこともあるし、先入観に振り回されるのは余計な厄介事の種にもなりかねない。

「……水の匂いがするな」

 自分も馬から降り、手綱を片手に周囲を見回していたルスティナが、怪訝そうに眉をひそめた。

「そういや……」

「雨が降ったという感じではなさそうですね」

 積み上がった岩の間近まで近づいたエレムが、膝を屈めてのぞき込む。

 岩の上に当たる部分は綺麗に乾いているのに、よく見ると、地面に近い部分がすねのあたりほどの高さまで湿っている。小川から岩を引き上げたような、一時このあたりだけ川のように増水してすぐに水が引いたような、不思議な濡れ方だった。

 試しに、割と小さめの岩をどけてみたら、その下の地面は水が流れてしみこんだような濡れ方をしている。

 しかし、道をふさぐ岩山から少し離れた地面は、全く濡れていないのだ。

「夜間に雨でも降っていたのではないのか? 岩の陰になっていた部分は乾くのが遅れたとか」

「それだと、この岩が運ばれてきた時点で雨が降っていたということになりますが」

 たいして気にもとめない様子のオルクェルに、エレムが首を傾げながら答えた。

「これだけ濡れるほど降ったなら、地面は相当ぬかるんでいたでしょうから、運ばれてきた跡が全くないのは余計におかしいです。それに、そんな雨の中、重い荷を乗せた荷車がまともに動くんでしょうか」

「ふむ……」

 二人の話し声を聞きながら、グランは岩山の一部に作られた即席の階段を使って、上に登り始めた。積み上がった岩は大きさにむらがあり、渡り歩くのも容易ではない。それでも途中途中の隙間を別の岩でふさいだり、板を渡して工夫しながら、この岩山を越えた者がそれなりにいるらしい。大小多くの足跡が残っている。

「……向こう側の地面もこっちと同じだな。この岩はどこからどうやってきたんだ?」

 端までなんとか辿り着いて、一通りあたりを見回して戻ってくると、グランは岩の上から三人に向かって声を上げた。

「雨の中でも荷車が動きやすいように、地面に板を敷いたとか……」

「これだけの高さまで水がきてたら、板なんか浮いちまうだろ。それ以前に、この辺り一帯が洪水騒ぎになってるんじゃねぇ?」

「夜中で、そんな雨の中じゃ、運んでる方も危険ですよね。松明も保たないでしょうし」

「そ、そうであるな……」

 オルクェルもさすがにそれ以上のことは思いつかなかったらしい。男三人の姿を眺めていたルスティナも、腕を組んで首を傾げたままで、なにをどう推測すればよいのかわからない様子だ。

「……馬なしなら、この上をかろうじて行き来できるのだから、やはりこれは馬や馬車の多い我々を足止めする目的なのであろうか」

「でも、なんのためにだ? アルディラに、カカルシャまで行って欲しくない奴がまだいるってことか?」

「それはどうであろうな」

 岩の上から降りてきたグランに、ルスティナは軽く首を振った。

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