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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
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9.街道の障害物<1/4>

 メロア大陸には、中央部を横断する『探求者の街道』と、その北にあるオヴィル山脈を挟んで平行に走る『探索者の街道』があり、その両者をつなぐように南北に大陸を縦断する『探訪者の街道』が交わるあたりを中央地区中央部と呼んでいる。

 その三つの街道のおかげで、中央地区全体ははかなり広範囲に渡って共用語のサラン語と、同じ貨幣が通用する。

 中央地区中央部を基準にすると、エルディエル公国やルキルア王国は中央地区南西部で、グラン達が目指すキャサハや北の大国サルツニア王国のある中央地区北西部にあたる。両者はほぼ正反対の位置関係だ。

 当初の予定では、グラン達はルキルアの王都ルエラを出た後は、『探求者の街道』を東へとむかってオヴィル山脈を越え北西地区へ入るか、山越えが難しいなら街道を西に向かい船で北上し、『探索者の街道』を使って東へと向かうか、どちらかにするつもりでいた。

 それが、ルスティナが王族の代理としてカカルシャの公式行事に向かうことになり、そのカカルシャが『探求者の街道』の東にあることから、グラン達も部隊に同行するよう勧められたのだ。

 この主要三街道は、古い時代の冒険家ティニティが、晩年になって立案したもので、その存命中に『探索者の街道』はほぼ現在の形になっている。青年期は大陸内の地図や周辺海域の海図を作るために飛び回っていたティニティの観察眼は素晴らしく、彼が街道を通すのにふさわしいと提案をした道筋は、今でもほぼそのままの形で、整備されて使われているのだ。


「実は、この街道の南……、ほら、この山の向こう側にもう一本道があるそうなのだ。先に通ってきたエルペネの町を過ぎた所にある分かれ道から、南東にある枯れ谷へと向かう道で、一帯は鉱山として栄えていたと聞いた。昔ほどで大規模ではないとはいえ、今も採掘は行われているそうだ」

「そういやそんな話をしてたな……」

 エルペネに入る直前に出会った、気のいい笑顔の南方系の男とのことを思い出し、グランは頷いた。

「そっちに迂回するのは難しいのか?」

「元々川底だった道であるからな。先細りになっていて、迂回路としては役に立たないそうだ」

 もうじき日も暮れようという頃合いだ。緑深い山道の空気はひんやりとしていて、馬の背で感じる風は肌寒いくらいだ。軽やかに馬を操るルスティナの腰のベルトを掴み、体がくっつかないように微妙な距離を保ちながら、グランは頷いた。

 声を聞き取るのに顔を寄せなければいけないので、銀色の耳飾りのついた形のいい耳と首筋がどうしても目に入る。時折頬に触れる栗色の髪と、微かな椿油の香りに気をとられ、返事をするのを忘れていたら、

「少人数の徒歩なら山を越える事は可能かも知れぬが、馬や馬車を使うのは無理だという……聞こえているか?」

 多少声を張り上げ、ルスティナが気持ち顔をこちらに向けながら、後ろに体を傾けた。胸あてにルスティナの背がぶつかって、グランは思わず少し前を走るオルクェルの馬に目を向けた。

いくら気になっても、さすがに騎乗中に後ろの様子を逐一観察するのは難しいらしく、オルクェルもその背に乗ったエレムも、こちらのやりとりには気付いていないようだ。

「あ、ああ聞こえてる。そんな所を通って盗賊にでも襲われたらひとたまりもないからな。それにアルディラは一応公女だから、歩かせるわけにもいかないな」

「一応ではなく正当な公女であるよ。どうもグランは姫には辛口なのだな」

 まるでグランの胸に背を預けるような体勢になっているが、口から出る言葉はちっとも色気がない。ルスティナはグランの動揺など気付いていない様子で、苦笑いを浮かべてまた体勢を元に戻した。グランはかいてもいない汗を振り飛ばすように、軽く首を振った。

 さほど飛ばしてはいないが、やはり馬だと移動は早い。ほどなくして、二騎の馬と四人の大人は、目的の場所にたどりついた。


「なん……ですか、これ……」

 先にオルクェルの馬から下りていたエレムは、あっけにとられた様子で目の前にできた『壁』を見回した。

 それは、確かにあり得ない光景だった。

 両脇は緑に覆われた斜面だが、道幅は馬車が楽にすれ違える程度に広く、その両脇の斜面のどこにも崩れた跡は全くない。それなのに、土砂崩れで転がり落ちてきたかのような大小の岩が、ごろごろ積み重なって道をふさいでいるのだ。子どもの背たけほどの高さのある岩も多い。もちろん周辺の山肌に、こんな岩がむき出しの箇所はない。

「こいつぁ……」

 ルスティナの後ろに座ったまま、グランは気持ち背筋を伸ばして岩壁の向こうを見渡した。高さがあるので奥まで見通すことは出来ないが、かなり奥行きはありそうだ。

 岩壁の端に、岩や丸太を積み上げた階段らしきものが作られている。徒歩の者達が執念で積み上げたのだろう。これなら、身軽な者ならなんとか行き来できそうだが、この高さでは当然馬や馬車で越えるのは無理だ。

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