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ラグランジュ ―漆黒の傭兵と古代の太陽―   作者: 河東ちか
究極の歩兵と水鏡の巫女
187/622

2.枯れ谷と宝物<2/3>

「グランさん、乗せてあげませんか? ほんとに壊れちゃってますよ。それに僕らも、その町で休憩する予定でしたし」

「……オヤジさん、この道具、乗せても大丈夫そうか?」

「その程度の荷物なら問題ないだろ。あんた達が狭くなっちまうけど」

「多少狭くなるくらいなら、構わないですよ。今まで随分と楽をさせていただきましたから」

「乗せてくれるの? 助かるよ!」

 男がぱあっと明るい笑みをみせた。

「エルペネの町なら、半時も行けばつくだろう。その荷車はあきめるのかね?」

「車輪と一緒に後ろの車軸がいかれちまって、もうしょうがないよ。ほかにもガタが来てたから、寿命だったと思ってあきらめるよ」

 確かに、車軸だけでなく、荷台に使われている板も全体的に古びている。木が腐って金具が外れている箇所もある。今まで騙し騙し使ってきたのだろう。

「前の車輪は無事なようだな。使えそうな金具と部品は外して持っていくがええよ。あの町には大工の知り合いが居るから、着いたら紹介してやろう」

「そいつはありがたい!」

「じゃあ金具を外している間、この道具は布で覆わせてもらいますね。うっかりランジュが触って怪我でもしたら困りますから」

 御者とエレムの手伝いもあって、荷台に男の荷物を載せるのはさほど時間も掛からず終わった。さすがに車輪を荷台に載せると人が乗れなくなるので、縄で結わえて荷台の両脇にぶら下げることになった。

 外している途中から乾いて折れる部分もあって、これは本当に寿命だったのだろう。木切れは通りかかって休憩する者の、いい薪代わりになりそうだった。

 飽きて荷馬車から降りたがるかと思っていたが、ランジュは荷車が解体されていく様子を面白そうに眺めている。

「いやぁ、ほんと助かったよ。次にレマイナの神官さんにあったら、同じように親切にするよ」

「その前に俺達への感謝を忘れるなよ」

「兄さんは綺麗な顔してきっついなぁ」

 荷物袋だけは自分の馬の背にくくりつけ、男は苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、感謝の対象の名前を教えておくれよ。おいらはリノ」

「俺はグランバッシュだ。そいつはエレム」

「ランジュって呼んでくださいー」

「お前はいいから」



 街道の分岐に当たるエルペネの町は、なかなか異質な賑わい方をしていた。

 周辺の農民とは別に、鉱夫と思しき体格のいい男達が町のあちこちに見受けられるのだ。安宿や酒場の集まった歓楽街に多くいるようで、御者に連れられて向かった市場周辺ではそれほどの数ではなかったが、それでもほかの町よりも存在感がある。 

「ほら、枯れ谷の採掘場で稼いだ奴等が、たまの休暇に町まで遊びに来るんだ。採掘場の近くにも集落があるんだが、あっちは本当に寝るだけの場所で、酒と賭け事以外に金を使う場所はあまりないらしい」

「どの国でも採掘場は町から離れてるから、旨い飯を食うのも難しいんだよ。いい酒もないし、可愛い女の子もいないし」

「そりゃ深刻な問題だな」

「ごはんはおいしいのですー」

 だんだんかみ合わなくなってくる会話に、エレムが苦笑いしているうちに、馬車は町中の最初の目的地に到着した。

 荷物を載せたままでは馬車を離れるのも大変なので、一行はまず、御者の知り合いだという大工の仕事場へ向かった。気のいい親方は話を聞くと、新しい荷車作りだけではなく、それが出来るまでの間、荷物を置いて寝泊まりできる場所も用意してくれるという。力仕事を手伝ってくれるのであれば、という条件だったが。

 ついでに大工の親方が、御者の男に近々荷馬車の仕事を頼みたいと言い始めたので、彼らが打ち合わせている間、グラン達は近くの食堂で休憩と昼食とることになった。

「何から何まで、本当に助かったよ。これは幸先が良さそうだ」

 隅に席を確保し、先に飲み物を注文し終えると、リノは心底有り難そうに礼を述べた。

「いえ、お礼はあの御者さんにいうべきですよ。僕らは乗せていただいてるだけですから」

「そっちの事情は判らないけど、兄さん達が乗ってたからこそ、拾ってもらえたんだもの。ここの代金くらいは払わせておくれ」

「荷車を作るのに金が要るんじゃないのか」

「それくらいの蓄えはあるよ。お嬢ちゃんも旨いものいっぱい食べて、いい女になるんだよ」

 リノは明るく笑うと、給仕の女をせかすように手を挙げて大きく振っている。

 リノとエレムにはさまれて座るランジュは、人の話など耳に入っていない様子で、周りの客の食べているものを見回して目を輝かせている。

 これが成長などするのだろうか、人間かどうかも怪しいのに。藍苺酒の杯を給仕から受け取ったグランは、なんとなくため息をついた。



「いい食堂でよかったですね。とても美味しかったです。ごちそうさまでした」

「ああ、久々に旨い飯を食ったなぁ。兄さんたちと一緒でほんとよかったよ」

無花果いちじくの蜂蜜煮がおいしかったのですー」

 食堂から出ると、太陽が天頂から傾き始めている頃合いだった。エレムと手をつなぐランジュが、下の方から勝手に感想を述べている。リノは目を細めてランジュの頭を撫で、ふと思いついた様子で、担いでいた道具袋に手を突っ込んだ。

「せっかくだから、お嬢ちゃんにはいいものあげようか」

「おいしいものですかー?」

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