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20.この道の先に<3/5>

 ヒンシア出立前の最後の夕飯は、エスツファとルスティナも町から戻ってきたせいか、やたら賑やかだった。最初の三日間は兵士達も交代で町に入っていたし、あの騒ぎの後は後始末のためにやはり交代で町に残っていたから、ほぼ全員が天幕村にいるのは今が初めてかも知れない。

 一連の魔女騒動の真相は、この国の王国政府だけでなく、既にレマイナ教会にまで伝わっている。もう市長のウァルトがなにを画策したところで、湖上の城の地下にある古代施設に手を出すことは出来ないし、ウァルトにはその気力もないようだ。レマイナの神官達も到着したし、あとは町に残るエルディエルの兵士たちだけで当面の監視は大丈夫だと、オルクェル達は判断したのだろう。じきに城の監視は完全に、レマイナ教会とこの国の王国政府に引き継がれるはずだ。

「で、どうしてあの人まで混ざってるんですか」

 エルディエルの部隊から戻ってきたリオンは、たき火を囲むグラン達の側まで来ると、納得がいかなそうにエスツファの側にいる薔薇色の髪の娘を指をさした。

 いきなり現れて当然のようにロキュアとラティオとの話の場に混ざった後も、キルシェは立ち去る様子がない。いつの間にか、ほかの兵士ともすっかりなじんでしまい、半分宴会状態になっている夕飯の席で楽しそうに騒いでいる。ルスティナ以外女っ気がなく、そのルスティナも女っ気に数えられるか考えるとなかなか難しいだけに、色気全開で調子のいいキルシェは、いるだけで周りの兵士達に活気を与えているようだった。

「いいんじゃねぇの、あいつだって今回の事にはそれなりに役に立ってるんだし」

「それはそうですけど……」

 話題にされているのに気付いたらしい。キルシェはこちらに目を向けると、可愛らしくすぼめた唇に二本の指で触れて、そのまま投げるような仕草をして見せた。リオンは戸惑ったように頬を朱に染めて顔をそらし、意味不明にうなりながらグラン達のそばに腰を降ろした。

「み、皆さんがいいって言うのなら、しょうがないですけど」

「顔が赤いぞ、少年」

「焚き火のせいですよ!」

 発育途上のアルディラと、しつけの行き届いた侍女達くらいしか接する機会のないリオンには、キルシェのようなのは刺激が強すぎるかも知れない。エレムもリオンの反応に、困ったような微笑ましそうな笑みを見せた。

 ランジュはルスティナのそばで、年かさの兵士達と一緒に、歌を歌いながらの手遊びで盛り上がっていた。置いてきた家族を思い出すのか、こういう席でランジュと遊ぶのを楽しみにしている者らも多かった。

「そういえば、エレムさん、昼間の女の子に何か言われませんでしたか?」

「なにか?」

「町に残って奉仕しませんか、みたいな」

「ああ……」

 温かい茶の入ったカップを両手で持ったまま、エレムは頷いた。

「あの小さい方の女の子が、しきりとそんなことをいうものだから、アルディラさまが不機嫌になっちゃって、オルクェルさまは大弱りでしたよ。エレムさんはレマイナ教会の中でも有名なんだから仕方がないって、なだめるのに大変でした」

「僕のことで?」

 意外そうに聞き返したエレムに、リオンは当然だと言うように大きく頷いた。

「当たり前じゃないですか、アルディラさまはお二人を、大事なご友人だと思ってるんだから。グランさんは顔だけだけど、エレムさんは人間性も伴ってますからね」

「お前とは、一度じっくり話をしたほうがよさそうだな」

 グランに睨まれて、慌てた様子でリオンがエレムの陰に隠れる。グランは息をついて、空になった自分の杯に葡萄酒をついだ。

「で、どうする気なんだ? 考えてみるとか言ってたけどさ」

「いやぁ……」

 エレムは困ったような笑みのまま、軽く首を傾げた。

「なんだかとても褒めていただいたような気がするんですけど、いまいちぴんとこなくて……」

「あの子達、エレムさんははやり病で親族の方を亡くされたって話してましたけど、ほんとなんですか?」

「そんなことまで向こうでも話してたんですか」

 笑顔に多少苦いものを含ませて、エレムは小さく頷いた。

「そのときにお世話になったご縁で、ラムウェジさまの養子として面倒を見ていただいてたんですけどね。でもそんなの、たまたまですよ。神官学校を卒業した後も、こうして自由にさせていただいているのも、ラムウェジさまのお力添えがあってこそで、僕が偉いわけじゃありません。僕はある程度大きくなるまで、ラムウェジさまの旅に同行させていただいてたので、孤児院で生活した経験もないんです。あの方達が思うほど、僕は子ども達の役には立てないんじゃないかな」

 謙遜というよりは、本気でそう思っているらしい。リオンは気が抜けたように肩を落とした。

「エレムさんがここに残るなら、僕も一緒にと思ったんだけどなぁ」

「なんで? できるのはレマイナ教会だろう?」

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