表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/622

37.湖畔の作戦会議<5/5>

 かごを持っているのはリオンである。ちょっと姿が見えないと思ったら、口に入れられるものを調達しに行っていたらしい。さすが世話係らしいすばしっこさというか。

 食べ物を目にしたら忘れていた空腹を感じてしまい、グランは不本意ながらも砂糖菓子の包みに手を伸ばした。食べ物の存在に気付いて、ランジュが目を輝かせて寄ってくる。

「そんなの簡単よ。動力炉の修復が完了する前に、蓄積されてる魔力を全部放出させちゃえばいいの」

 キルシェはこともなげに言い放った。不遜な小娘を威嚇するかのように、城の上でうごめく炎の蛇の頭のひとつが、こちらに向けて先端から炎を吐き出した。

「あれは、貯蔵されてた場所を失って収まりきれなくなった魔力が、一時的に状態を炎に変換して分散を防いでるのよ。魔力を元にして燃えてるとはいえ、炎は炎だもの、水をかければ勢いは弱められる」

「火には水か、なるほど」

「動力炉の修復に使ってる魔力も、源は同じだから、あの蛇の姿を維持できなくなれば、修復するのも難しくなるわ。ただ問題は、魔力も放出し尽くしたけど、修復も完了しちゃった時かな。城の管理者は、稼働停止した動力炉を、再起動させられる程度の魔力は与えられてると思うのね。一旦起動させてしまえば、新しい燃料からまた魔力を抽出することができるでしょ」

「やはり、夫人……の姿をした魔女を一緒に片付けねばならぬのか」

 ルスティナの声に、青ざめた顔で座り込んでいたウァルトが、力なく城の方向を見上げ、また肩を落とした。

「城の管理者は、非常用の魔力を貯蔵するための器でもあるんですね。だから彼女にもある程度の魔法が使えるんだ」

「でも、火には水って言ったって、あんなでかいのにどうやって水をかけるんだよ? ちょっとやそっとの雨だって消えねぇだろ、あんなの」

「……水なら、そこにいっぱいあるじゃない」

 それまで黙って、ルスティナとキルシェの会話を聞いていたアルディラが、炎の蛇を映して赤く染まる湖面を指さした。そのまま、確信を持った瞳をヘイディアに向ける。

「できる……と思います」

 ヘイディアも、アルディラの視線を受け、大きく頷いた。

「では、ヘイディア殿が火の蛇の相手をしてる間に、別の者が夫人……の姿をした魔女をどうにかすると」

「俺が行く」

 噛み砕いた砂糖菓子を呑み込んで、グランは城を睨みつけた。

「あの女、俺に膝をつかせやがった。なにが同じように若く美しくだ、ふざけやがって」

「ほほう、元騎士殿は熟女にも人気なのであるな」

「なんですって!」

 エスツファの軽口を耳ざとく聞きとがめて、アルディラがきっとした顔でグランを見た。ややこしくなるから今は黙れ。

「私も行こう。得体の知れぬ魔女を相手にするのに、グランバッシュ殿ばかり何度も危険な目にはあわせられぬ」

 それまでアルディラの傍らに控えていたオルクェルが、手袋をはめ直しながら立ち上がった。アルディラが一瞬不安げに表情を揺らしたが、すぐにそれを打ち消して力強く頷いた。

「僕も行きます。あんなもの、今の世に存在してはいけない」

 動力室の真っ白な床を思い出したのか、エレムが険しい目つきで城のほうに顔を向ける。もらったパンをかじっていたランジュが、法衣の裾を片手で掴んでエレムを見上げた。エレムは小さく笑みを作り、ランジュの頭を軽く撫でた。

「今気がついたけど、ランジュからはなんだか優しい力を感じますね。きっと本来の古代の魔力の気配は、こんな風なんですね」

 それは、グランとランジュくらいにしか聞こえない程度の呟きのつもりだったろう。だがその呟きに合わせて、少し離れたところにいたヘイディアが、エレムとランジュに少しの間目を向けた……ような気がした。

「では、我らは後方支援と、城から避難してくる使用人達の保護であるな」

「火の蛇をなんとかした後も、避難が進まぬようなら、後続の部隊を投入して救援にあたらせよう。使用人の数を割り出さねばならぬな」

 エスツファの声に頷くと、ルスティナはてきぱきと自分の後ろに控えている兵士達に指示を与え始めた。このあたりの呼吸はさすがだ。どちらも同等の権限があるから判断が速い。

「準備ができたら開始といこうか……それと市長殿」

 キルシェが現れたあたりから、もう目の前のやりとりについてこれず、呆然としていたウァルトは、エスツファに名指しされて力なく顔を上げた。

「市長殿には、始まりのラッパを鳴らしてをいただこう。なにしろ我らは、本来の領主殿を亡き者にして入れ替わった、得体の知れぬ魔女を市長殿が倒す、その手伝いをするのであるからな」

「ら、ラッパ……?」

 ウァルトは目を白黒させた。キルシェは自分の現れた場所で、見えない椅子に腰をかけるような姿で頬杖をつき、お手並み拝見とばかりに全員を眺めている。

 グランは改めて拳を握りしめた。こいつ、終わったら絶対ぶん殴ってやる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ