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36.湖畔の作戦会議<4/5>

「キルシェ出てこい! どうせその辺で見てるんだろ、人を煽るだけ煽って高みの見物きめ込んでるんじゃねぇ!」

「ちょ、ちょっとグランさん!」

 こぶしを握りしめ、辺りを見回しながらいきなり叫んだグランを、慌ててエレムがなだめようとする。ヘイディアが目を丸くして二人から一歩遠ざかったが、すぐになにかに気付いた様子で視線を動かした。

 全員が輪を作るようにまとまっていた、その中央の地面に、いきなり光の文字が円を描いて浮かび上がった。その法円の上に、蜃気楼のように揺らぎながら、薔薇色の髪の若い女が姿を現した。

「あーん、ばれちゃった」

 片手でうなじ辺りの髪を押さえ、無意味に魅惑的な姿態ポーズをとって出現したキルシェを見て、アルディラとオルクェルはあっけにとられた様子で目をしばたたかせた。それでも法術を見慣れているせいか、腰を抜かしたりあわてふためいたりしないのは助かる。

「おお、これが例の『暁の魔女』殿であるか、話の通り艶冶えんやな美女であるな」

「よろしくね、おじさま」

「よろしくね、じゃねぇだろ!」

 唇に当てた指をエスツファに投げかける仕草をしたキルシェを、グランは本気で怒鳴りつけた。

「子どもまで使って、俺達に城や領主のことを調べさせてどうするつもりだったんだよ! お前の余計なひとことのせいで、こんな事になってんだぞ!」

「ほんと、派手にやってるわよねー。どうしてこうなっちゃったのかしら、感心しちゃう」

他人事ひとごとみたいに言ってんじゃねぇっ!」

「グランさん今手を出すのは駄目です落ち着いてっ」

「うるせぇこの女気にくわねぇ一発殴らせろっ」

「こらこら、女人を殴ってもなにも解決しないであろう」

「あんたも変に落ち着いてんじゃねぇよ!」

「ルスティナ殿、グランバッシュ殿……知り合いであるのか?」

 エレムに羽交い締めにされてじたばたしているグランと、ルスティナとを交互に見ながら、オルクェルが気の抜けた顔で訊いてきた。ルスティナは、たいしたことではないというように小さく頷いた。

「ちょっと縁があってな。キルシェ殿は古代魔法について深い知識のあるお方なのだ」

 知識があるどころか、目の前で実際に使っているではないか。オルクェルも突っ込みたいところだろうが、ルスティナが涼しい顔でキルシェに視線を戻したので、なにも言えないまま中途半端な表情で口を閉ざした。

「で、キルシェ殿。ヘイディア殿とエレム殿に思わせぶりな事をしたのは、いったいどういうつもりであったのだ?」

「どういうっていうか……」

 全員の注目を浴び、キルシェはわざとらしく頬に手を当てて、困ったような表情を見せた。

「あたしはただ、今も稼働してる古代の施設があるって聞いたから、どんな燃料を使ってるのか興味があっただけなのよ。古代都市が強大な魔法力で動いてたのは知ってたから、燃料と抽出方法が判ればいろいろ便利かなーと思って」

「自分で勝手に見に行けばいいじゃねぇか!」

「入れなかったのよ、城の周りに強力な魔法結界が張ってあるんだもの」

「魔法結界?」

 ヘイディアが眉を上げる。キルシェは自分の胸の前で両手を握ってうんうんと頷いた。可愛らしく見せようとする仕草が、グランにはいちいち鼻につく。

「あなたたちには、変な感じがするとか、気持ち悪いとかいう形で作用してたみたいだけど? あれは外からの魔法効果を完全に打ち消す結界だったのよね。おかげで転移の魔法で入ることもできないんだもの、隠されたら余計に見たくなるじゃない? せっかくグラン達が町に寄るなら、ついでにちょっと調べてくれると嬉しいかな、なんて」

「『かな、なんて』、じゃねえっ! そのせいで俺がどんな目にあわされたと思ってるんだ!」

「いやぁん、こわーい」

「全っ然怖がってるように見えないですよ」

「そういえば、元騎士殿達は昼からなにも食べてないはずだから、それで気が立っているのかも知れぬな」

「ちーがーうー!」

「して、成果はどうであったかな」  

 横で騒ぐグラン達は置いておき、ルスティナは首を傾げた。キルシェは肩をすくめた。

「まさか、人間から直接抽出した魔力なんてねー。どおりで強力な割に、禍々しい力だと思った。法術の素質のある人は、触れてはいけない力だって無意識に判断してたのね。参考になったわ」

「そうか、キルシェ殿が、その技術を喜んで手に入れようとするような方でなくて安心した」

 ルスティナが静かに笑みを作る。キルシェはさすがに、少し鼻白んだ様子を見せた。

「キルシェ殿、そなたなら、あの炎の蛇をどうにかする方法を知っているのではないか。城の動力炉を完全に止めるのに、我々ができる効果的な方法はないだろうか」

 ここでキルシェの話を振ったのはそういうことか。やっともがくのをやめたグランの目の前に、砂糖菓子の包みやパンやらが盛られたかごが差し出された。

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