副会長はやはり怒らせてはいけません。
大幅遅刻申し訳ありません!
あれから一週間が経った。
今のところはまだ犯人は分かっていない。
一応生徒会には報告を済ませたが、容疑者はこの学園に出入りできる人間全員になる。
生徒会は何かと生徒達の前に立つことも多く、その分恨みは買いやすい。
つまり、容疑者を絞る手立てがない訳だ。
その日慌ただしく鈴乃ちゃんを呼びに行ったため、私がやったのではないかという噂も流れていたが、根拠が一切なかったためすぐに収まった。
あの後、3人にはきちんと弁解をし、私ではないことを伝えた。
正直やっていない証拠なんてなかったけれど、沈黙していた理由も含めきちんと説明したらなんとか分かってもらえた、と思いたい。
演劇部の部室では、布の擦れる音と針をチクチク布に刺す音だけがしている。
今は衣装の修繕作業を行っていた。
一か月で作ってきた衣装を半月で作るには演劇部だけでは人手が足りない。
そもそも演劇部も文化祭での劇が控えているため全くの練習なしというわけにはいかない。
結果として、生徒会から私が桃華と交代で毎日派遣されている。恐らく犯人ではないかと噂された私に気を遣ってか言葉には出さないものの、スケジュールの変更等も余儀なくされているため、仕事のスピードに関しては今まで以上に厳しかった。
この世の中に怜様のブリザードと副会長の魔王降臨以上に恐いものなんてないと思っている私にはこうして裁縫をしているほうがまだ楽だったりする。
とは言っても、演劇部が和気藹々としているわけではない。むしろ部員の人達もイライラが募っているのが見ていて分かった。
彼女達からしてみたら本来衣装を台無しにされる理由なんてないため、とんだとばっちりになるわけだ。まあイライラしないほうがおかしい。
いくら新たに作る衣装や小道具の代金を生徒会特別会計でまかなったとはいえ、それらを作る時間に関してはどうしようもない。
ただ出来る限りのスピードで作るしかなく、それらからくるストレスがまたイライラを募らせる原因にもなっていた。
自分としてはどうしようもなく、時折来る恨みがましい視線を冷や汗でスルーしながら早く完成しろと祈りながら衣装づくりを進めていた。
事件の次の日から取り掛かっているためもうすぐ1週間になる。衣装と小道具と劇の練習を同時進行で行っていたが、8割衣装と小道具は完成している。
家で自分もできることはちまちまやっていたため、完成が近いことは少しうれしかった。
「もうすぐ衣装と小道具、完成するようです」
生徒会に戻って皆さんにそう告げると、ほっとするような顔をしていた。
劇がどうこうというよりむしろ副会長の機嫌をこれ以上損ねないことに関しての安堵が大きいように感じた。
「…貴方たちは私をなんだと思っているんですか」
それに気づいたのか、ふぅ、というため息とともに副会長から呆れるような様子で言った。
「私は確かにきちんと業務をやるよう嗜めたりはしますが、無意味に不機嫌になったりしませんし、直すべきだと考えたことしか注意しませんよ」
確かに副会長は私的な理由で叱ったりはしない。そこは徹底しているし、私が尊敬している部分でもある。
こういう上司が仕事をサポートしてくれたら仕事がはかどりそうだ。今まさにその時なのだが。
ただ、無意味ではないが、不機嫌になることはまあまあ多い。特に最近は業務予定通りに予定が進んでいることが少ないため余計である。
「私は普通に過ごしているだけなのに大分失礼ですよ皆さん」
「ふ、普通に…」
「はい、普通です」
それが何かと言わんばかりの物言いだ。
もしかして、副会長自覚なし……?
「え、でも仕事が上手く進んでいないと不機嫌になりますよねー?」
勇敢にも金鳳君が私の最も気になっていたことを聞いてくれた。
思わずうんうんとうなずいた私を見て副会長はへぇ、と声をあげた。
その声のトーンが低くてあ、やっちゃったと気付いたが時すでに遅し。
「では、こっちで試してみましょうか?」
……その声が背筋を凍らせるような何かを孕んでいて、私はやはり副会長を怒らせてはいけないと思ったのだった。




