未来の予想図は真っ黒です。*後半柘植先輩視点
プルルルル、プルルルル
『はい、柘植ですが今忙しいので後でいいですか』
「嘘ですよね!後ろからゲームのBGM聞こえてますよ!」
『…後5分待って、もうすぐで終わりそうだから』
「…わかりました」
『もしもし、待たせてすまなかったな』
「電話2回も無視して何のゲームなさってたんですか」
しかも電話30分くらい時間空けてたんですが!?結構純粋にショック受けてたんですが…
『電話2回に関しては夕飯食べてたり風呂入ってたりしてたんだよ、…ゲームはまあこの間青木がくれたやつだ』
「ああ、販売中止になってた先輩が欲しいって言ってたゲームですよね」
前に柘植先輩が誕生日プレゼントでもらった時に今までにない驚きの顔で
「これを…どこで手に入れた…」
という意味深な言葉を残したあの…
『ああ、まさか出来るとは思ってなかったが…人気が高くネットでは最低でも本来の価格の10倍の値段で取引されると言われる代物なのに……っと、そんなことより、いきなり電話してきてどうした?』
「ああ、合宿って本来のゲーム上ではどんなイベントになってるのか気になりまして」
『渡辺に訊く方が早いんじゃないのか?』
「今桃華のことは合宿の服の件で避けてて」
今電話したらもれなく服についてあれこれ口出しされるに決まっている。
それをどうしても避けたかったのでやむなく柘植先輩に連絡したというわけだ。
『と言われたところで別にその話はしたことがないな』
「えっ、ないんですか!?」
てっきり私に隠れて2人で話していたとばかり…
『そこまでお前を仲間はずれにしようだなんて考えてないさ。重要なことがあったらその都度言ってる。それに合宿は劇の練習で忙しいからそんな恋愛ごっこする暇なんてないし』
「…そんな過酷な」
『っていうわけじゃないが』
「じゃないんですかい!」
ノッてしまったじゃないか!真面目に言うからビビッて「まさかひたすらに稽古、指導…」とか思ってしまったじゃないか!!
無駄なノリツッコミは無駄な動作で体力使うからやめてほしい。別にいすから転げ落ちるとかいう芸当をするわけじゃないけど。
『まあ気にしなくても何も起こんないさ。気楽に構えてりゃいい』
「そうですね!私も柘植先輩も桃華もゲームに関する何かに巻き込まれても残りの人が正気持ってれば何とかなりますもんね!」
『ああ、まあそうだな。それより…』
「…それより?」
暫く柘植先輩は電話の向こう側で悩んだ素振りを見せたが、すぐになんでもない、おやすみと答えて電話を切ってしまった。
「何言いかけたんだろう、先輩」
まあいっか、とそのまま私は合宿の用意を進めた。
合宿はもう少しに迫っている。
「はあ、言わなくて正解、か?」
ゲームを出来るところまで済ませて先ほどの電話について振り返る。
篠宮達が修学旅行に言っていた時のあの怜の態度について篠宮にも軽く訊こうとしたのだが、軽くって一体どこまでだ?と躊躇してしまった。
怜のことが好きなのか?なんて質問はファンクラブに所属する篠宮には愚問すぎる。
だが、怜の態度の変化については絶対気付いていないだろうから、それについて聞いたところで
「そうだったんですか、気付きませんでした」
と言われて終わりだろう。怜の気持ちを察するところまでは無理だ。
かといって。
自分の予想が正しければきっと篠宮はこの合宿で怜を傷つけかねない。
篠宮も怜も仲間と思うくらいには大事に思っているので、2人のどちらでも傷つくようなことは起こしたくない。
このゲームは文化祭で何らかのエンドを迎えると渡辺からは聞いている。
そしてなぜかゲーム通りに進行しない現状。
体育祭の時に感じた嫌な予感。
そして怜のあの意味ありげな態度。
そこから導かれるこれから未来予想図。
「怜、お願いだから早まらないでくれ」




