会長とアイコンタクトが取れるようになりました。
「みかんのにおいがする」
「あ、おはよ真純」
朝登校して一時限目の用意をしていると、いつものように真純に声をかけられた。
「あんたオレンジの香りのシーブ○ーズでも使い始めたの?」
「ううん、朝ろくにごはん食べる時間なくて今みかん食べてたから」
真純の問いかけに答えながらひょいとみかんの皮を見せる。
「みかんって時季外れなものを…」
「今はハウス栽培もあるから年中売ってるじゃない」
確かにこの時期みかんというのは合っていないというのも頷ける。今は梅雨も終わり夏に向けて気温が高くなり始めている頃だ。大半の生徒がカーディガンを止め半袖または長袖のブラウスを身に着けている。冬の雪の降る中こたつで食べるイメージの果物には縁遠い季節かもしれない。けれど、ハウス栽培のみかんも売られているし夏みかんもそろそろ本格的に売られ始まる。栄養価も高いし良い果物だ。とまあ、みかんをごり押ししたが、別にそこまでみかんが好物というわけでもないのだが。
「篠宮さん、轟さん、ちょっといい?」
そのまま話していると隣から声をかけられた。声の主の方へと視線を向けると、志穂とクラスメートの村崎さんが立っていた。手には紙とペンを持っている。
「いいよ、どしたの?」
「体育祭のことで話があってね。出場種目はこれでいいか確認取りたくて」
真純が許可を取ると、村崎さんが紙を提示しながら説明してくれた。そういえばあと一週間で体育祭だ。もう練習は始まっているし、確認といってもケガなどの理由で種目に参加出来ないとならないかの確認くらいでそこまで重要ではない。でもうちの学級委員と副学級委員の志穂と村崎さんは真面目だから今のように1人1人に確認を取っているのだ。その辺りしっかりしているなあと尊敬してしまう。
この2人はいつも学級委員をやっているようで、仕事も早い。将来出世するのはこういう人たちなんだろうな、と前世の記憶も探りながら思った。
「轟さんは100m走とスウェーデンリレー、篠宮さんは障害物競争で合ってるよね?」
「うん、あってるよ」
「大丈夫」
「良かった、じゃあ話中にごめんね」
確認が取れると、ありがとうと言って2人は他のクラスメートに確認を取りに向かった。
薊高校は学園祭、通称薊祭を体育祭、文化祭を6月、9月に分けて行う。ランダムに1、2、3年から1つずつ組み合わせて6つのブロックに分けて体育祭優勝、文化祭優勝、そして総合優勝を競う。ランダムといっても生徒会役員がいるクラス同士が同じブロックになるということがないのはお決まりのことだ。そして、ただ今生徒会は体育委員と連携して体育祭の準備に追われている。でも、今回副会長がそこまでピリピリしていないのは救いかもしれない。何かいいことがあったんでしょうか、と柘植先輩に尋ねると、視線を逸らして
「あぁ、多分、まあ……」
と言っていたのできっと良いことでもあったのだろう。取り敢えず平穏無事にいられるのはありがたいことだ。
あと少しでノルマ完了だ、と一息を入れ、顔を上げると会長と目が合った。そのまま3秒。そしてふっと顔を逸らされた。仕事が終わりそうにない訳ではない。別段不安を抱えるようなこともない。だとしたら、
「皆さん、飲み物いれますけど何が良いですか?」
残るはコーヒーか紅茶が欲しいということだ!会長は口下手な分表情や視線で訴えてくることもある。きっと仕事中なのに飲み物を入れさせるのが申し訳ないと思った、とかいうのだろう。別に構いませんよ、と私の声で顔を上げた会長に微笑みかける。会長の考えていることが何となく分かってきた気がして純粋に喜んでいた。私が喜びながら皆さんからオーダーされた飲み物を注いでいる後ろで、皆さんがこっそり目を合わせ小さいため息をついていたのも知らずに。




