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私は薊高校に転入することにしました。

桃華の過去編最終話です!

 ある日、何故か私は薊高校に呼ばれた。まあ理事長の姪にあたるため赤の他人というわけでもないのだが、それでも、父と母の顔合わせの時に会った以来会っていなかった人だから、そんな人に通っていない高校に呼ばれる理由など思い当たらなかった。それに父も母も同伴せず私1人で、と言われた理由も気になる。

「一体何の用事だろ?」

 高校に着き事務の人に事情を説明してから理事長室に案内してもらった。事務の人は何故か驚いていた。

「えっ!?理事長が!?え、なんっ………!」

 いや、驚き過ぎでしょ、流石に。この学校の理事長でしょ?

「本当に理事長に呼ばれたんですか?」

「本当です!」

 何度目だよこのやりとり。そんなに理事長謎の人かい。

 事務の人の驚き具合にうんざりしている間に、理事長室についた。ここまで案内してきたくせにまだ事務の人は半信半疑で、疑われてるのがイラッとする。

 コンコン

「理事長、お客様が来られました」

「どうぞ入って下さい」

「失礼します」

 事務の人が理事長室の扉を開けると、そこには60歳くらいのおじさんがいた。

「えっ!?あ、え?」

 確か叔父さんはお父さんの弟だから30代だったはず。あれ?なんでおじちゃんになってるわけ!?

 私が驚きで固まっているのとは対照的に、何故か事務の人はほっと息を吐いて、私を部屋に残したまま、失礼します、ともう一度言って去っていった。

「クスス」

 微かな笑い声が聞こえおじさんを見ると、おじさんは肩を震わせながら笑いをこらえていた。

「えっと、貴方は…………」

「あぁ、ごめんよ、びっくりさせちゃって。基本人前に出たくないタチでね」

 今変装を解くから、と言ってカツラやら付け髭やらを取ると、確かに前に会った叔父さんだった。

「今のはここの校長の変装をしてたんだよ。結構校長の変装には自信があってね、職員会議で変装して出てもバレなかったくらいだから」

「あぁ、だからあの人ホッとした顔してたんですね」

 恐らく今頃彼は、私が理事長ではなく、校長に呼ばれたのだと勝手に納得していることだろう。

「取り敢えず座って。紅茶でもいいかな?」

 叔父さんは私をソファに座らせ、自分は紅茶を入れに席を立った。

「紅茶の種類何がいい?」

「私紅茶に詳しくないので、叔父さんのチョイスでお願いします」

「じゃあアールグレイにしようか。後々好みでミルクも足せるし」

 叔父さんはにこにこ笑いながら、私にウインクしてみせた。ウインクが似合う人なんてあまりいないが、叔父さんは、ウインクによって茶目っ気が生まれ、更に魅力が上がったように見えた。

 叔父さんはお父さんと違って美形だ。30代の大人の色気もあり、俳優やっていてもおかしくない程だ。いや、そこらの俳優よりも顔立ちが整っている。お父さんの話だと、昔から勉強も運動も出来、性格も良い完璧イケメンらしい。前世の言葉を使うなら所謂チートってやつだ。

 そんなチート叔父さんだが、未だに独身だ。叔父さんならどんな女性だってイチコロだろうに。昔の恋を引き摺ってるとかでもあるのだろうか?

 そんな邪推をしているとも知らずに、理事長は笑顔で紅茶を私に渡してくれた。ありがたく受け取って、とりあえず一口飲んでから話を聞こう、と飲んでみたのだが

「………おいしい」

 これお店で売っててもおかしくないよ?紅茶ってこんなにおいしいものだったっけ?

 私は思わずまじまじと紅茶を見つめた。叔父さんは私を見てクスクス笑いながら

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいよ」

 と言った。

「さて、そろそろ本題に入らなきゃね」

 そうだ、変装や紅茶に気を取られて、叔父さんが何故私を呼んだのか聞いてなかった。

「単刀直入に言うと、転入試験受ける気はないかい?」

 君と君の通っている高校とが釣り合ってないように感じちゃってね、と言われ、まぁ、と曖昧な返事しか出来ない。残念ながら、「そんなことは」と謙遜出来る程、今通っている学校が優れている訳ではなかったからだ。

「身近に優秀な子がいるのにほっとくなんて、仮にも理事長やってるから出来なくて」

「でもそれって身内びいきなんじゃ………」

 流石に、身内びいきで薊高校に入りたいなどとは思えない。裏口入学なんて後々困るだけだ。ただでさえ転入というだけで浮くのに、裏口疑惑が浮上して否定できなければもっと周りとの距離感が広がってしまう。ぼっちも夢じゃない、なんて笑い飛ばせる程1人いたいとか思えないよ、やっぱり。

「実は1人転校する子が出てきてね。………まぁ、いつもなら、転入試験なんてやることもやらないこともあったりだから、身内びいきと言えば身内びいきかな。でも桃華ちゃんより点がいい子がいたらその子を取る。そこら辺の公私混同は絶対にしないよ」

 親戚の叔父さんが「ここの学校受けてみたら?」っていう感じだよ、と叔父さんは笑って言う。

「父と母を呼ばなかったのは?」

「兄さん夫婦は真面目だからね。たとえ今みたいに勧めるだけであっても、『そんなコネを使って入るなんてことを娘にやらせたくない』って言いそうだったから」

 兄さん夫婦はがつくほど真面目だからさ、と叔父さんは笑う。そして眉尻を下げ、それと、と言葉を続けながら言った。

「子供はどうしても親の顔色を伺ってしまうものだ。真面目な子なら、尚更真面目でいなければ、と親の態度に無意識に頼ってしまう。だから、そういうのに、踊らされずにって言ったら悪く聞こえちゃうけど、要は率直な桃華ちゃん本人の意見が聞きたかったから」

 確かに、無意識の内に母や父の態度を見て行く行かないを変えるかもしれない。親がいる場で出した答えで自分が本当に考えて出した答えなんて片手で数えるくらいだろう。




 家で考えてくれて構わないよ、と優しく声をかけてくれる叔父さんからつと目を離し、私は悩みながら、ふと窓の外を見てみた。すると、1人の女の子が歩いているのが見えた。髪を後ろに1つに束ね、いかにも地味子な見た目の子。

「あれ?」

「どうしました?」

「あ、いえ何でもないです」

 彼女に昔会ったことがある気がする。どこでだったかもいつだったかも思い出せないけど、彼女に昔会った、何故かそう確信できた。

 彼女はどうして地味な風貌をしているのだろう。確か彼女は綺麗だったはず。素材も良いし、あんな底辺でくすぶるような子じゃないのに。何故あんなに自分を卑下したかのような格好を?

 その時何故か、フツフツと彼女を変えたいという思いが沸き上がっていた。そして思わずこう口にしてしまった。

「叔父さん………いえ薊野理事長」

 私のやりたい事を精一杯やりたい。

「転入試験受けます!」

 今でも何であんなことを言ったのかも、彼女のことをどうして遠くから認識できたのかも分からないけれど、後悔はしていない。元々施設の充実した憧れの学校だったし、引越しによって十分通える距離になった。それに何より、薊高校に入っていなかったら、彼女(優美ちゃん)には会えなかったんだもの!これは「優美ちゃんを輝かせろ」という天からの思し召しよね!そう!私は絶対優美ちゃんをトップスターにするんだから!!!

※この話はアイドル育成を描いたものではありません。

桃華「えっ、違うの!?優美ちゃんがアイドル目指す話でしょ!?」

優美「いや、違うからアイドルならないから」

桃華「じゃあ女優!?!?」

優美(無言でため息を吐く)

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