私はあの頃のままでした。
オープンスクールで倒れて、気付いたら病院のベッドの上だった。母と父が隣で大丈夫?と声をかけてきたので、大丈夫、と返した。ただ、少しの間1人にしてほしいと頼むと、父と母は病院の先生に知らせてくるね、と席を立った。
2人が部屋を出て、私はため息を吐いた。あれは確実に私の部屋だった。そして同時に色々な情報が頭を流れて頭のキャパを超えたため倒れてしまったのだろう。
前世の私、中野桃は普通のOLだった。今、父と母の遺伝子により私は結構な美少女だが、桃は顔立ちも中の上、しかも化粧をしてそれだったため、今と比べると顔立ちは劣っている。芸能事務所に勤め、スカウトマンをしていた。そして40歳。横断歩道を渡っていた時に信号無視の車が自分の方に突っ込んできた辺りからの記憶がない、恐らくその車に引かれて自分は前世を終えたのだろう。
今記憶にある情報は、自分の顔と職業、死ぬ原因と思われる事故くらいで、正直それ以外は思い出せない。違和感は無くなったけれど、桃華(私)の中にいる桃(前世の私)はなかなかに不安定だった。今の私は桃華だと言いはれるほど前世の私の自我はなかった。
あぁ、あと思い出したのは薊高校で見た人達。3人いたが、全員前世の私がやっていた乙女ゲームに出てきた攻略対象達だった。ゲームでは3年が3人で、今はゲームが始まる2年前だから彼らは今1年生のはずだ。
「花園の君へ愛をこめて」通称花君はヒロインが2年生で薊高校に転校するところから始まる。そこで、見目麗しい生徒会役員達と恋に落ち、最後文化祭でゴールインする、ケータイの無料乙女ゲームだった。私は、動機は分からないが、仕事の合間に無課金でやっていた。確か主要キャラを全員攻略し終わったところで辞めたんだったっけ。後から友人に「他のエンドもあったのに」と言われてもう一度やってみようかと考えたものの、熱中していた割には何故かやる気が起こらなかった。そこら辺について考えようとしてみたものの、モヤがかかったように思い出せなかったので放置した。
まぁ、私(桃華)には関係ないだろう、とそのまま考えることを放棄してしまった。今思えばあの時ちゃんと思い出せていれば、今のこの状態は無かったのかもしれない。いや、そうでもないかもしれないなぁ。
あれから半年経ったが、未だに月1くらいで気絶をしてしまう。いや、私の脳のキャパ考えてくれてるのかもしれないけど毎回オーバーで倒れちゃうなら1回で済ませりゃいいじゃないの、なんで月1で続くのよ!
しかも気絶するごとに家族や友人に心配をかけて申し訳なく感じる。すまん、私の脳が不甲斐ないせいで………っ。
でも、ここまで勉強はちゃんと続けてきたし、この前のテストでも先生に「これなら間違いなく合格だ。首席も充分狙えるぞ」とお墨付きを貰ったしバッチグーだ。
そして入試当日。教室に着くまでは何事も無く、いつも感じる倒れる前兆の違和感も感じなかった。これなら!と最後の追い込みをしていると、身体に重みを感じる。しかもちょっとじゃなくて誰かにのしかかられてるくらい重い。違和感はなかった筈なのに、と悔しい気持ちでいる内に私の意識は飛んでしまった。
目が覚めたらいつもとは違う見慣れない病院だった。恐らく薊高校の最寄りの病院だろう。
隣には父がいた。父は目が覚めてよかった、という表情をしていたが私の顔は今悲痛に歪められていることだろう。
「お父さん、薊高校は」
入試を受けられなかった。あれ程頑張って勉強をしたのに、それが全部泡となって消えてしまった。たった1回倒れただけで。
父は顔を歪めて、何かを言おうとしているけれど躊躇いを見せていた。
そんな顔が、あの副担任の先生の顔と重なる。
私が弱いから、
「残念だけど受けられなかったんだもん、仕方ないよね」
へらへら笑って表情を作ったって
「桃華、笑わなくて良いから」
………こうやって抱きしめてくれる相手に悲しい顔をさせてしまう。涙を抑えきれない自分が不甲斐ないから。
私全然あの頃から成長してないじゃない。お父さんの死を引き摺ったまんま。未熟な私のまんま。
………そんな私はこの世界に必要なの?私の生きる意味って………何?




