ヒロインは只今暴走中です。※柘植大輔視点
「あいつ、変人だ」
と俺が言った瞬間、篠宮から表情が無くなった。動かしていた手も止まり、全身硬直していた。
おそらく、あいつは良い奴だ的なのを想像してたんだろうな。でも、あいつを言い表すとしたら、変な奴と言うしかない。
「変人………ですか?」
「あぁ。少なくとも、これっぽっちも魅了される要素が無かった」
攻略どころの話じゃない。下手すれば、友達無くすんじゃないかレベルだ。
「な、何を話したんですか?」
「話したというより、一方的に語られたの方が近いかもな」
そう話しながら、俺は昼休みのことを思い出していた。
昼休み、会議室に着いてまもなく渡辺が入って来た。キョロキョロと部屋を見回すあいつを俺の向かいに座らせて、お互い弁当を広げる。
「まず、一つ言っておくが、俺はお前と同じ転生者だ。魅了されたりはしないし、攻略される気もない」
「それは何となく察してました。前に生徒会室に行った時に一人だけ私を疑うような表情をしてたので。………あ、玉子焼き今日の良い感じ。あと、攻略する気はないので安心してください」
「………なら話は早い。単刀直入に言うが、お前がこの学校に入学した目的は?」
すっぱりと俺が訊くと、渡辺はさっきまで淡々と答えていたのに、少し首を傾げるように言った。
「うーん。何て言ったらいいんでしょう。………そうですね。先輩がこの学校に入学した理由は?」
なんで俺が入学した理由を逆に訊かれるのだろうと不思議に思ったが、訊かれた以上答えないわけにもいかず、渋々話す。
「俺は中学の時の担任に薦められたからだ。その頃は自分が攻略対象者だなんて考えても無かったからな」
「それと同じです」
「は?」
「私がこの学校に入学した理由は、この学校の設備や授業に惹かれたからです。確かに自分がヒロインというポジションなのは知ってましたが、そんなもの攻略しなければいい話だし、私がヒロインじゃなかったとしても、この学校に入学しようとしたと思います」
「じゃあなんで今年転校してきたんだ?」
「流石に転生したと言ってもゲームのシナリオには逆らえない所もあります。去年入学しようと思ったんですが、 来年にしろと両親に強く反対されたので」
「じゃあ、それこそなんで篠宮に近づくんだ?」
攻略する気がないのにお前が篠宮に近づく意味が無い。と言おうとしたら、渡辺からため息がもれた。なんで分かんないの、という顔をしている。される理由がないこちらとしては、イラッとするしかないのだが!
「先輩、いいですか?女の子が女の子に近づく場合、嫌がらせか、用事か、友達になりたいかのほぼ3つの意図しかありません。そして、私は最後の友達になりたいから近づいたに決まってるじゃないですか!」
「いや、お前自分のポジション見てみろよ。他の二つに取られてもおかしくないだろ」
「そんなこと神様に脅されてもしません!」
「神様ってあいつだろ?あの………まあいい。そんなに友達になりたいのか?」
「当たり前ですよ!あんなに私の理想としたエンジェルが近くにいて、近づかないなら私は病院に行きますよ」
と言ってそれから渡辺はどこで息継ぎしているのかも分からないくらいの早口で篠宮のことを並べ立てた。
「まず、髪!サラッサラのストレートで長さも程々長くて何故髪のアレンジをやらないんだろう?これは私が優美ちゃんの髪を可愛くしろという天の思し召しでしょう!?それに顔。目も奥二重で充血してなくて、少し黒目が大きい。ちょっと手を加えれば絶対今より何倍も可愛くなれる素質を持ってるのに!それに鼻も高すぎず低すぎずちょうど良くて、唇も私の理想!リップを塗らないから少し乾いているけど、全然問題ない!少し潤い系のリップ塗れば愛らしい感じになるわ!ぱっと見美人に見えないところがまた良い!何と言うか、化粧して可愛くさせたくなるこの感じが堪らない!それに身長も高すぎず低すぎずで、胸は上げるブラ着ければ今とぜんっぜん違うだろうし、爪ももっと磨きたくなる衝動に駆られる。あと、お肌の保湿を怠ってるようだけど、それもすれば誰もが振り向くような美少女になるわ!そんな素質のある天使を目の前にして?放っておけと?近づくなと?そんな拷問耐えられないわ!あぁ、早く可愛くしたい!自分好みに仕立てあげたい!それから………」
………これはどうツッコんで良いんだろう。どこから?いや、というか、
「お前が篠宮が好きすぎるのは分かった。もう十分分かったから、もう良い………」
と項垂れてしまった。対する彼女は上機嫌で鼻歌も歌ってる。
「そうですか?まだどんな風にアレンジするのか話してませんけど………」
「もういい!取り敢えず、お前に俺らを攻略する気が無いのは理解した」
「なら良かったです。 あ、あと生徒会には是非とも入りたいですね」
「………理由を訊いても?」
「そりゃ、勿論イベントなんかで優美ちゃんのコスを決めるためです!」
「愚問だった………来てくれてありがとう。もう帰ってもいいよ」
「承知しましたー」
機嫌良く帰って行った渡辺を見送ることなく、机に腕と顔を投げ出し、ため息を吐く。
…………はあ。俺のHPはもうゼロだ。




