転校してきたのはやっぱりヒロインでした。
始業式の朝の式が始まる一時間前、私達生徒会役員は準備を行っていた。と言っても、そこまで忙しいわけでもなく、式の段取りや最後の微調整などするくらいで、走り回ってあたふたするほどでもない。
ちなみに今会場にいるのは私と柘植先輩と金鳳君で会長は資料を取りに生徒会室に行っており、副会長と睡蓮君は日程の最終確認しに行っている。ちょうど手が空いたので、この隙にトイレに行こうと向かっている途中だ。
そして、ちょうど曲がり角を曲がってあと八歩でトイレに着く、というところでばったり会長と出くわした。
「あ、会長。そういえば理事長先生が迎えの言葉について少し確認事項があると言っ………」
てましたよ、と言おうとしたところでふいに会長の手元に目が行ってしまった。
トイレから出てきたのだから持っているものはもちろんハンカチな訳だが………
またやらかしましたね、会長。…しかも始業式という年度の始めの日に。
………なんで黒熊のご当地キャラのハンカチ持ってきてるんですか!つぶらな瞳が可愛いけど、なんか会長とアンバランスで何も言えないんですけど!ギャップ萌えはもちのろん必須だけどな!
と私がハンカチに釘付けになっているのに気付いたのか、急いでハンカチをしまい、赤面したまま
「分かった」
と言って会長は走って行った。
始業式の間も、特に生徒会長の言葉の間中ずっと、思い出し笑いを堪えていたのは内緒の話だ。
始業式も無事終わり、新しいクラスに戻ると、ちょうどのタイミングで新しい担任が入ってきたので、慌てて席に着く。
今年の担任は中年で結構熱血漢な人で、副担任は逆に優しそうな女の先生なようだ。なんかバランス取れてていい感じ。
クラスメートでの知り合いは10人くらいってところ。その中には真純は勿論ブーブークッションっ失礼、山中さんも含まれていた。
そして教室で輪になって自己紹介をした後(これまでにないくらいの視線が凄かった………)、先生が徐ろに「転校生を紹介する」と言って、教室の外から一人の女子生徒を招き寄せた。
艶やかな黒い髪、まるで人形を見ているかのように整った顔、すらりとした体、そして「渡辺桃華です」と挨拶する鈴のように澄んだ声。間違いなくあの子がヒロインに違いない。
彼女は笑顔で一礼すると先生が差した席……教室の一番隅の席に座る。男子だけでなく女子も彼女のことを見つめる。その表情はどれも恍惚としたもので、「可愛い」や「美人」という呟きまで聞こえる。
私?私は勿論………見つめながらも内心焦ってましたよ!汗ダラダラ流してましたよ、心の中で!
いい子ならまだましだけど、感じ悪い子だったら、私が生徒会役員だなんて知られたら、それこそ何されるか分かったもんじゃない。よし、出来る限り接触はなしでいこう!
と勝手に自己判断していた私は気付かなかった。斜め後ろから獲物を狙う肉食動物のような視線が私に向けられていることに。




