庭師は王女と昔話をしました。
指定した行先までは3日かかると聞いていたので、1日目はダイと城での話をしていた。
ダイはユミリアの母である前王妃の頃から仕えていて、ユミリアの約2倍の年齢と聞いている。
けれど、見た目が若かったため、ユミリアにとっては兄のような存在だった。
「まさか、ダイが本当についてくるとは思ってなかったから驚いたわ」
「言ったじゃねえですか、むしろユミリア様が覚えていたことに驚いてますよ」
「覚えているわ、城の隅に追いやられた頃周りにはダイしかいなかったもの」
ダイは昔執事を志して城に来ていたのだが、出身が大変田舎でマナーや話し方が直せずいつも上司に怒られていた。
ある日、城にあった壺を割ってしまいクビになりそうになってしまったところを、ダイが農家の出であることを知った前王妃が自分専属の庭師として雇い直したのだった。
城の他の者は眉をひそめたが、前王妃は気にせずダイに庭の手入れをさせ、ユミリアを連れて度々庭に連れて行った。
ユミリアの庭がまさしく前王妃が個人的な庭として手入れをさせていたところだった。
「前王妃様に雇っていただかなければ路頭に迷うところでした。本当に前王妃様とユミリア様には感謝しておりやす」
「お礼を言うのはこちらの方なのに。1人になって訳も分からずいたころダイがいたから今まで生きてこれたわ」
前王妃が亡くなってすぐ現王妃が即位した。
そしてしばらくして現王妃が女の子を出産すると、ユミリアの周囲の態度がだんだん変わっていった。
国王夫妻がユミリアを毛嫌いしていたのは変わらなかったが、現王妃が暴言をユミリアに吐いていたのを止めていた騎士達が止めなくなった。
メイド達がだんだんと悪口を言うようになった。
執事がユミリアに対して叱る態度が厳しくなった。
城の隅に追いやることは宰相が提案したのだが、建前上は不義の子を隠蔽することで、実際にはエスカレートしていたユミリアへの非難からユミリアを隔離することだった。
そして、それ故にユミリアには傍付きが誰も与えられなかった。
その代わりダイが執事だった経験も活かしてユミリアの面倒を見てくれていた。
「最初はまず勉強がなくなったから何をしていいか分からなくて。ダイが色々勧めてくれて刺繍や庭いじりを始めたのよね」
「そういえば、寂しいって仰って私の住んでる小屋まで夜中にいらっしゃった時もありましたね」
「だって、あの時は本当に寂しかったんだもの。ダイはしばらくしたら小屋暮らしに戻しちゃったし。言ってくれたらちゃんと部屋を用意したのよ?」
「私には部屋で寝てるより小屋で寝る方がよく眠れるんですよ、でもその時のユミリア様とても可愛らしかったですぜ?」
「茶化さないで頂戴。城を出た頃の話をしたのもその頃だったかしら、モモが来る少し前くらいだったもの」
ちょうどダイと庭の雑草抜きを終えてお茶を飲んでいた時に、ふとユミリアが呟いたのがきっかけだった。
「結婚適齢期も近いし、そろそろ私も城を出されるかしら」
「いきなりどうしたんですかい」
「だって、いつまでも城にいられるわけじゃないだろうし、平和的解決としては私が城を出ることかなって。貴族に嫁がせるのは陛下が嫌がりそうだし、牢屋は流石にないと信じているけど…」
「なるほど、まあでもその時は私もついて行きやすから大丈夫ですよ」
「ダイもついて来るの?」
「嫌ですかい?」
「ううん、てっきりダイは城で庭師を続けるのかと思ってたわ」
キョトンとした顔でそう言うユミリアをダイは笑い飛ばした。
「それはねえですよ。私はユミリア様に雇われてるんであって陛下に雇われてはねえんです。ユミリア様が城を出るなら雇われている身としてはついて行きやすよ」
「別にいいのよ面倒見なくても、給料も払えないし」
「そんな心配王女様がするもんじゃねえですぜ。それに、まだ前王妃様への恩を返してませんからね、ついて行かせていただきやすよ」
「えー、自由に生きてもいいのに」
「ユミリア様がちゃんと家を持つまではそしたら見届けやすよ、これは誰に言われようと譲りませんから」
「もー、頑固ねえ」
くすくす笑ってユミリアはそう言うと、ダイは頭をかきながらすいやせんと言って笑った。
「分かった、城を離れる時もダイは連れて行くわ」
「ありがとうごぜえやす」
そういった訳でダイはユミリアについて行くことになった。
そして、宰相にも話を通す前にダイの小屋を訪れ話をしていた。
「ダイ、申し訳ないけれど、そろそろ城を出ることにしたわ」
「そうですかい、私は」
「ついて来るんでしょう、昔自分で言っていたじゃないの。でも、別に今考えを変えても…」
「ついて行きやすぜ、男に二言はありませんから」
「…そう」
ふっと笑ってそう言うとユミリアはダイに城を離れることについての諸々をその場で話した。
「ダイは昔から私の兄みたいなものよね、年齢は父に近いのに」
「独身の男にそれは言わねえでくださいよ」
「別に顔割と整ってる方なのに結婚しなかったの?」
「私は女と付き合うより花と付き合う方が性に合ってやしたからね」
「花と付き合うって、ふふふ」
こうやってユミリアの気持ちをほぐしてくれるダイは本当にいい人だった。