国王は王女に別れを告げました。
国王陛下からの呼び出しがあった日、ユミリアは化粧と髪結いを整えたうえでハルバートを連れて陛下の元へ赴いた。
以前レイモンドがこの国に来る際に忠告をされた場で、ユミリアとハルバートは同じように恭しく膝をつき頭を下げた。
「ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下」
「宰相」
ユミリアの言葉には何も答えず、国王は宰相に命じた。
「はい。顔を上げなさい、ユミリア・フィオーラ。貴女には確認したいことがあります。レイモンド・ロランジュ皇太子殿下と度々お会いしていたとの情報が上がっているが本当ですか」
「はい、本当です」
「接触はどちらからですか」
「最初は皇太子殿下が私の命じられているテラスに来られたのですが、最後の方はどちらからともなくでした」
「皇太子殿下とお会いしていた目的は」
「それはお答えできません」
「なぜですか」
「お聞かせするような内容ではないからです」
「ついにボロを出したか!」
ユミリアの返答に国王は上機嫌に笑うと玉座から睨み付けるようにユミリアを見た。
「お前が皇太子に会う目的など簡単に想像がつく、ロランジュ国の皇太子にすり寄ることが目的だろう」
ユミリアは黙秘で答えた。黙秘とは大方肯定の意味を持つため、国王はますます上機嫌の調子でユミリアに命じた。
「ロランジュの皇太子に色目を使うなど城での恥だな!本来であれば地下牢へ押し込むところだが、王家の血に免じてこの城から出て行き2度と私の前に姿を現さないことで免じてやろう。私の寛大さに感謝するといい」
「至極光栄の極みにございます」
「退城は1週間後の今の時間とします。また詳しいことは再度連絡するので、それまで部屋で待機しているように」
「承りました」
「話は以上です、退室してください」
宰相の呼びかけにユミリアは立ち上がり、ハルバートと静かに礼をした。
去り際、国王がユミリアに聞こえる声で言った。
「やはり所詮は卑しい女の血が通っているな」
その言葉に今まで表情を作らず大人しくしていたユミリアはキッと国王を睨んだ。
急に睨まれた国王は一瞬たじろき顔をひきつらせたが、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴った。
「貴様!私を睨むなど不敬だと思わんのか!」
「今までお世話になりました、面倒を見てくださってありがとうございます」
ユミリアは顔を戻しそれだけ言うとガミガミ言う国王を置いて部屋を後にした。
「ごめんなさい、はしたないところを見せてしまって」
部屋に帰る道すがら、ユミリアはハルバートに謝罪した。
「いえ、全然気にしてませんから!それより、証言はあんな感じでよかったんですか?結構な誤解をされたままでしたが…」
「別にこれから城を去る女の印象が今更悪くなろうが別に問題はないわ。これでも国王陛下を父として尊敬はしているの。ただ…どうしても私を産んでくれた人への誹謗は許せなかったから」
「ユミリア様らしいですね」
自分の悪口は気にしないのに、人の悪口は許せないのがユミリアらしいとハルバートは思った。
だから今ユミリアを監視対象でありながら素直に尊敬できるのだろう。
「久しぶりに外に出たし、庭にも顔出しておこうかしら。ダイにもこのことを報告しなければならないもの」
「お供しますよ」
そのまま2人は清々しい笑顔で歩いて行った。
ユミリアが退城処分になったことは城中に知れ渡った。そして、もちろんレイモンドの耳にもこのことは入っていた。
「レイモンド様、ユミリア様が先日城を出ていくことが決定したそうです」
それはユミリアが国王に呼び出された日の晩だった。
夕食を食べていたレイモンドは驚きのあまり思わず手を机について立ち上がった。
「そんなバカな!」
「詳しいことは把握できておりませんが、どうやら1週間後に城を出ると聞いております」
「なぜそんな急に?」
「理由は定かではありませんが、もう決定事項なようで、覆すのは難しいかと。ユミリア殿下はこれまで通り自室にこもられるようです」
「そうか…」
レイモンドは食べかけのまま立ち上がるとソファまで歩き、自分の体をソファに沈めた。
「すまないが、夕食はもういい。今夜彼女に接触して詳しいことを聞いてみる」
「かしこまりました」
ユージンは一礼すると食器を片付け始めた。
レイモンドは黙って窓の外を眺めていた。