私に渡されたのは生徒会長権限でした。
ヒロインの名前を確認した後、私達三人はその後しばらく作業をしてから生徒会室に戻った。
生徒会室では先輩方が紅茶を飲んで寛いでいた。
「おかえりー、お疲れ様」
「ずるいよ!先輩達だけで休憩とか」
「ちゃんとその分仕事は終わらせてるよ」
と副会長の指差す先には資料の山。確かに仕事は終わらせてるようだ。
私達の紅茶は睡蓮君が作ってくれているので、私はお茶請けとなるお菓子を準備する。
ちなみに、このお茶とお菓子は生徒会メンバーの持ち込みである。いと美味なり。
「そういえば、篠宮」
「え、はい、なんですか?」
席に着くと珍しく会長から話しかけられるので慌てて返事をする。
「私達のファン達からのいじめを受けていたと聞いたが………」
「いや、いじめって程でもないですよ?」
真純越しに辞めろと言ってきたり、毎日適度に睨まれたりはするが、真純は気にしてないし、私も慣れてきたので別に構わない。たしかに、あの集会のダメージは大きかったが、あれだけファンクラブ会長達が睨みをきかせていたらもう私に危害を与えるようなファン達は出てこないだろう。手紙やブーブークッションも、楽しんではいたけど、ダメージはほぼ無いと言っていいしね。
「それでも、生徒会に私達が介入させたが故に起こったことだ。だから、生徒会からお前に一度だけ生徒会長と同等の権限を行使できる権利を与えることにする」
「………なんですか、それ。」
いや、名誉なことなのだろうが、正直今後一切それを使う日は訪れない気がする。持たせるだけ無駄というものだ。
というか、この学校生徒主権だから、生徒会長の権限=理事長の権限ってこと………重いわ!
「い、いや、いいですよ?別に傷付くこと一切なかったですし」
「しかし、何もしない訳にもいかないしな」
「それでも!」
「ま、一応今回の件に対応出来なかった償いだよ。貰ってくれる方が逆にこっちの気が楽だし」
「………はぁ、分かりました。貰うだけ貰っときます」
副会長の言葉に渋々頷き、そして明日には忘れますよ、と心の中で付け加えた。
その頃、職員室から出て来た少女は鼻歌を歌いながら廊下を歩いていた。
彼女を見て振り返らなかった者はいない。艶やかな髪、愛らしい顔立ち、庇護欲を唆るような体つき、どれを取っても彼女の可愛さを示すものにしか、なり得ない。
「ふぅ、さて目標達成のためにいっちょ頑張るかー。そのための転生だしね」
この少女の名前は渡辺桃華。このゲームでのヒロインであり、私篠宮優美にとっては、この先トラブルメーカーになることを、今はまだ私も誰も知らなかった。




