騎士は宰相に報告しました。
そして、ローゼがレイモンドとユミリアが会っていることを知った頃、同時に宰相の元へもある騎士から報告があった。
「レイモンド王子とユミリア王女が密会しているのは本当か?」
「えぇ、1回だけでなく何度も会っているようです」
デスクに座る宰相を見つめ騎士はハキハキと返答する。その騎士とは、ショーエル・ラヌンクロであった。
「ハルバートは何をしているのだ」
「どうやらレイモンド王子の方からユミリア殿下を訪れられているようで、何も申し上げることが出来なかったのだと。2人の出会いすらもレイモンド様がユミリア殿下が居住されている一画を訪れたからだと聞いております」
「それで、何も言わずそのままと………」
深くため息を吐く宰相を表情を変えず真顔のまま見つめた。
ショーエルはもしハルバートが絆されユミリアの好きにさせてしまった場合に上に報告するという任務をローゼの護衛とは別に宰相から仰せつかっていた。
勿論ショーエルはハルバートを裏切ったりするつもりはなかった。彼は同僚の中で一番気を遣わず楽でいられる。
だから、ハルバートがレイモンドとユミリアをくっつけたがっていることは言わなかった。
ただし、ハルバートが慕っているからといってユミリアに特別な感情を抱くことはなかった。扱いにくい監視対象から楽な監視対象に変わっただけで、その振る舞いを許すことは任務上有り得ない。
そのため、ハルバートに聞いてから密かに探りを入れ、会う回数が頻繁になった時点で宰相に報告しに来た訳だ。
「どうなさいますか?」
「すぐに王女をこの部屋まで連れて来なさい、誰か代役に伝言を頼む等してな」
「承知致しました」
綺麗な60度の礼をしてショーエルは退室した。
宰相はため息とともに天井を見上げた。
「面倒な人達ばかりだ」
ゴンゴンゴンッ
いつもなら誰であろうと軽いノック音を届けていたレイモンドの部屋の扉は、今日は重い音を鳴らしていた。
ユージンはその音に眉をしかめ、主人に一応の確認を取る。
「レイモンド様」
「あぁ、通して」
「……はい」
全く、この主人は私をそこまで信頼しているのか、それともたかが訪問客に何も考えていないのか……
そんなことを表情には出さずに考えながらユージンがドアを開けると、そこにはローゼ王女がいた。
彼女は
「失礼致します」
と言い放ちずんずん部屋の奥の、レイモンドの前まで迫って行った。
「何の御用ですか、ローゼ王女殿下」
「突然訪れた無礼をお許しくださいませ、レイモンド様。ただ、レイモンド様にお一つ忠告差し上げねばと思って参りましたの」
いつもの可憐な笑顔を歪ませてローゼはレイモンドを睨みつけていた。
レイモンド自身は相変わらずの無表情であるが、ユージンはその表情からレイモンドが驚いていると判断していた。
「忠告、とは?」
「最近私の姉とよくお会いしているという噂を聞きましたの。それは本当ですか?」
「えぇ、本当です」
淡々と答えるレイモンドにローゼは更に睨むのを強くした。
「あの人の今の立場をお分かりになってらっしゃいますか?」
「冷遇されて、城の隅に追いやられていることですか」
「…知ってて何故……」
「私が王家の人間と会うのは不自然ですか?」
「お姉様が城を追い出されたりでもしたら責任を取れるのですか!?」
「そうしたら我が国で迎え入れるだけです」
「え……」
今まで睨みをきかせていたローゼは、レイモンドの言葉で一気に迫るのをやめた。
「本当ですか?それは……」
「本当です」
正直レイモンドからしても、この国についてよく知る人物を隣国へ招き入れることは調査のためにも良い。
だから、冷遇されている彼女のためにも隣国へ招くこと自体は良い案だとレイモンドは考えていた。
「きちんと衣食住を確保させてこちらへ招くつもりです。きちんとした客人として」
「良かった……それなら!」
さっきまでとは打って変わって明るい笑顔を取り戻したローゼは両手を合わせた。
この城から居なくなっても別の国で平和に暮らしてくれるのならそれで構わなかった。
「言質取りましたからね!」
「勿論です」
最初の殺伐とした雰囲気から一転して平和な空気に変わった。
「それじゃあ、失礼しますね!」
優雅に礼をして嬉しそうに帰るローゼをレイモンドは見送った。
ドアが閉まると、今までずっと黙っていたユージンはため息を吐いてレイモンドを見た。
「初めて聞きましたよ、ユミリア殿下をこちらに招くなんて」
「最近思い立ったからな」
「そうですか……」
はぁ、とユージンは再びため息を吐いた。
「上手くいくかは分からないですがやってみましょうか」
「頼んだ、こちらもなんとか出来るようやってみる」
そう言って視線を逸らしたレイモンドを、ユージンは複雑な表情で見ていた。