騎士は王女に気持ちを確認しました。
それから、レイモンドは隙を見てはユミリアに会いに行った。
レイモンドはユミリアを王女だと知っているものの、本人が言わない限りは触れない方が良いと思いそれについては聞かなかった。
ただし、ユミリアは会うにつれて、自分について聞いてこないためレイモンドが自分の素性をある程度分かっていることを察していた。
けれど、王との約束もあり、ハルバートにも止められていたため自分からは明かさなかった。
2人は会うと庭のことについてや、それぞれの国の特色について話をしていた。
深くは話せないため大概は知っていることだったけれど、新鮮な反応やユーモラスを交えて話しを深めていた。
2人は自分達でも気付かないうちに互いに惹かれ合っていた。いつか来る別れが悲しいほど惜しむほどに。
そして、その別れを避けられないこともお互い分かっていた。
「もう来てから一か月が来てしまった」
「もうそんなに経つんですね。こちらには大分慣れましたか?」
「あぁ、皆よくしてくれて助かっている」
「それは良かったです。」
ニコニコしながら2人笑い合っているのを、メイド達は優しそうに見守り、逆にハルバートは複雑そうに見ていた。
「ユミリア様」
「どうしたのです、ハルバートさん」
レイモンドが帰ったタイミングでハルバートはユミリアに話しかけた。
「ユミリア様はレイモンド王子のことをどうお思いですか?」
「どうって…わざわざこちらに何度も足を運んでいただいて、お優しい方だと思っていますわ」
「それだけですか?」
「あまり多くを思うのは不敬にあたるわ」
本当はそれ以外も思うことはあるものの、色んな思いが入り乱れ、上手く口には出せなかったというのもあるけれど、それは出さずにユミリアは言い切った。
「そうですか、そうですね…」
納得していない表情を見せたものの、ハルバートは深くは追及しなかった。
代わりに、もう一つ質問をした。
「それでは、ユミリア様はレイモンド王子ともっと親しくなりたいと思いますか?」
「もっと?」
「それこそ、この国を離れる決意を持つくらいには」
それを聞いて、ユミリアは顔の中心に熱が集まるのを抑えられなかった。
ハルバートは遠回しにレイモンドに嫁ぐ気があるのかと聞いていると分かったからだ。
「そんな、恐れ多いこと…」
「ですが、ユミリア様には王の血が流れています。可能性としてはあるかと」
「ないわ」
ユミリアにしては珍しくきっぱりと否定したため、ハルバートは思わず目を見開いた。
「私があの方と一緒になるなんてないの。ローゼが仮に死んだとしてもないと思う」
「どうして…」
「私は確かに地位としては王女だけれど、この国の王が認めない時点で王家ではないの。王家でない時点で私はレイモンド様には釣り合わない」
「釣り合わないなんて、そんなことないです!」
ニコっと笑ってユミリアは庭の花に目を向けた。庭には綺麗に花が咲いている。
「あの方に嫁ぐ方はどこの国からであれ、国の方々に祝福され、王から期待を持って送り出され、その国の代表として行くのでしょう。それが私に務まると思えないの」
「ユミリア様は自分を卑下しすぎです」
「ハルバートもモモもシフォールも逆に私を過大評価しすぎよ。私はそんな優れた人間じゃないわ。度胸も兼ね備えてないちっぽけな人間よ」
いつも笑みを絶やさないユミリアの笑みが儚げに見えて、ハルバートはそこから無言で控えることしかできなかった。
「信じられないっ!」
「どうしたの、そんな怖い顔して」
ローゼはわなわな体を震わせて怒っているのをいつもの光景としてシュンは見ていた。
一応弟として気遣いの言葉はかけた。
まぁ、声をかけなかったら癇癪を起こすので声をかけないという選択肢はないのだけど。
「レイモンド様とお姉様が密会してるらしいのよ」
「誰に聞いたの?」
「メイド達がわざわざ報告しに来たのよ!そういう噂があって、見た人がいるって!お姉さまのとこの騎士と親しいショーエルに強く聞いたら認めたの」
「へえ、2人がねー」
実は少し前から勘づいていたのだが、それは言わずに今聞いた反応をする。
「あれだけ会わないでって言ったのに!ちゃんとご自分の立場が危ういのを分かってらっしゃるのかしら!」
「聡い人だからそれは分かっているだろうよ。多分皇太子様のほうから積極的に行ってるんだろうな」
「まあ!お姉様がお父様に叱られたらちゃんと責任を取れるのかしら」
プンプンする妹を見てシュンは冷静にお茶を飲んだ。
ローゼはユミリアの前では嫌っているような振る舞いをするけれど、それは昔ユミリアがローゼと遊ぶ度に何かにつけ叱られているのを見ていたからだろう。
それでユミリアを嫌いになるのではなく内心ではお姉さまにデレデレなあたりは、幼いころにユミリアに育てられてきただけはある。
基本姿勢はユミリアを毛嫌いしている妹、という風を見せているものの、自分と2人の時はユミリアのことをお姉様と呼び、ユミリアを心配することをよくこぼしていた。
王子が来る前も
「年齢的にもお姉様の方があちらの皇太子様と釣り合うのに、どこまでもお姉様には冷たいのね」
と呟いていたのを思い出す。
「ちょっと文句言ってくる」
「誰に?」
スタスタと扉の方へ向かうローゼの背中にシュンは質問を投げかけた。
不機嫌な顔で振り返ってローゼは言い放った。
「レイモンド様に決まってるでしょ!」