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会長とハンカチと私  作者: 蒼指輝
特別編 王子とハンカチと私
134/151

王子と王女は出会いました。

「ユミリア様、ここは私達でなんとかいたしますのでユミリア様は自室にお戻りくださいませ」

「何かが起こってからでは遅いですから、ユミリア様の安全が第一ですので」


 殺伐とした雰囲気で逃がそうとするモモとシフォールにユミリアはキョトンとした顔をしていた。


「いきなりどうしたの2人共」

「不審者ですよ!?もしかしたらユミリア様のお命を…」

「そんなわけないでしょう」


 頓珍漢な見当をつけるシフォールに1つため息を吐いて、現れた不審者と疑われているレイモンドに膝をつき深くお辞儀をした。


「ロランジュ国第一王子、レイモンド・ロランジュ様とお見受けします。私はユミリアと申します。お目にかかれて光栄です」

 驚くメイド達を置いて優雅に礼をした。


「いかにも、レイモンド・ロランジュだ。あなたは私のことを知っているようだし、私も会ったことがある気がするのだが…」

「それは…」


 レイモンドから言われ自分が王女であることを伝えようとしたが、トントンとハルバートが横から腕をつつかれた。

 どうしたのかと首を傾げるとハルバートは耳打ちをした。


「ユミリア様が王女であることはレイモンド殿下側には伝えられておりません。ここは王女であることは伏せられた方がよろしいかと」


 ハルバートの真剣な表情にユミリアは頷かざるを得なかった。

 確かにここで王女であることを明かすと色々と面倒だ。


 ハルバートから訝し気な表情をしているレイモンドに向き直った。

「気のせいですわ。レイモンド様は今城中で噂になっておりますから、私は噂から推測しただけですから」

「そうか」


 レイモンドは、ひそかに話し合っているのが気になったが、答えてくれなさそうな雰囲気にそうか、としか口を開けなかった。


「それより、道に迷われたのでしたらお送りしますが、どちらへ向かわれる予定でしたか?」


 レイモンドは不安そうな顔で尋ねるユミリアに一瞬ドキッと大きく胸を打ったが、すぐに本来の目的を思い出し、いいや、と首を振った。


「道に迷ったわけじゃなく、ここに来たくて来た」

「それまたどうして…本当にここには私の部屋しか…」


 ユミリアは悩んでいるが、自分からここに自分の部屋があることを言ってしまったことに気付いていない。

 レイモンドは、そのことに気付いていたが、当たり前だが言わないでいた。


 レイモンドは無言でユミリアの横を通り、奥の花壇のところへ行った。

 花壇には色とりどりの花が立派に咲いている。


「この花は?」

「あぁ、ここの庭師のダイが育ててくれたものですの。本当にダイは腕がよくて、毎回頼んだ花を綺麗に咲かせてくれますの」

「いやいや、ユミリア様のセンスも素晴らしいですし、本当にユミリア様のおかげで好きなことを仕事にできてるんすから」

「本当に花や植物を育てるのが好きね、ダイは」


 ふふ、と優雅に笑うユミリアに、いやーと頭をかいてダイは照れた。


「本当に綺麗に咲いている。庭師が大事に育てていることが花達から伝わってくる」

「でしょう!本当にダイは良い人なの!」


 自分の庭師が褒められたことが嬉しくて、ユミリアは思わず両手を合わせて今までにない笑顔を見せた。その笑顔が花のようで、レイモンドは思わず口元が緩むのを止められなかった。自覚はしていないけれど、彼はユミリアに好感を持っていた。


 そして、逆にレイモンドの笑顔にユミリアの方もドキドキしていた。会った時から顔も整っていて優しそうな雰囲気のレイモンドを素敵だと思っていたが、笑顔を見て、この人と結婚する妹を少しだけうらやましく思っていた。


「先ほど貴女が選んだと言っていたが、この花達について教えてもらってもいいか?」

「もちろん!あ、でも花壇の近くもなんですから、お茶しながらにしましょう」


 そう言うとシフォールがパパっと花壇の近くに椅子や机やパラソルを設置し、モモは持ってきていたポットやらを取ってきた。


 いつも庭でお茶をする際は、シフォールがセッティング、モモが茶や菓子の準備、そしてユミリアが茶を作るというのが恒例になっており、本人たちは慣れたもので気付いていないが、レイモンドや、ハルバートはユミリアが自ら手伝いに加わっていることに驚いていた。


 特に王女と知っているハルバートに関しては、なんだか情けないような気持ちもあった。

 けれど、彼女達が楽しんでそれをやっている以上口出しなんてできそうになかった。


「お待たせいたしましたわ、今日はカモミールティーにいたしました」


 心地いい香りを漂わせてユミリアは場にいた全員分のお茶を用意した。座っているのはユミリアとレイモンドだけだが、お茶の時は皆で飲むのも習慣になっていた。茶菓子はジンジャークッキーだ。一応配慮もかねて銀のスプーンも添えて出した。


 そのまま花壇の花についてユミリアは持っている知識を全部交えてレイモンドと話した。

 それは、ただ花について話しているだけだったけれど、2人にとってとても楽しい時間だった。


「一通り説明し終わりましたかね…なんだかすみません、こちらが一方的に話してしまって」

「いや、とてもためになった。ありがとう」

「いえいえ、あっ、そろそろ戻られた方が…」

「あぁ、ありがとう。また来る」


 レイモンドは思ったより心地いい会話にずいぶん癒されていた自分がいることに気付いた。苦労してでも誰かに会いたいという気持ちは初めてだった。

 ユミリアの方は、もう来ないで、と言えないほどレイモンドとの時間を好いていた。本当ならば会えば会うだけ自分が王女ということがバレる可能性が高まるのは分かっていたけど、会えない、なんていうのが存外に寂しかった。


「はい」


 お待ちしてます、とも言えず、中途半端なままレイモンドを送り出した。


「レイモンド様かっこよかったですね~」

「そうね、ねえ、ハルバート」


 きゃっきゃと騒ぐモモとシフォールを置いてユミリアはハルバートに声をかけた。


「来ないでください、と言えませんでした。すみません」

「いえ、殿下が謝られることではございませんから。接触を避けようにも無理な状況ですからね。あちらの皇太子をもてなしている側でなんとかしていただくしかないでしょう。ユミリア様は適切な対応をされました」

「ありがとうございます…」


 ふう、とため息を吐くユミリアを横目で見つつ、ハルバートは厳しい顔をしていた。


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