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会長とハンカチと私  作者: 蒼指輝
特別編 王子とハンカチと私
133/151

王子が城に到着しました。

 そして、ついに皇太子が城へ訪ねて来た。


「お初にお目にかかります、レイモンド・ロランジュと申します。この度はお目にかかることができて光栄です。貴国で、こちらの国で学ぶ機会をいただいて、大変感謝しております。どうぞ滞在の間よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ。慣れない土地で大変なこともあるだろうが、どうぞ我が国で色々なことを学んで帰ってほしい」

「何かあったら私達がサポートしますから遠慮なく仰ってくださいね」


「お心遣いありがとうございます」

 レイモンド王子の挨拶に国王夫妻は上機嫌を隠さず挨拶を返した。

 この場にいる者達は皆笑顔で、上機嫌であったり、そこまででなくても王子を歓迎する雰囲気の者が多かった。


 ただ、レイモンド王子側の、王子その人と彼の側近ユージン・ジェルソは内心ではあまり喜ばしい気持ちではなかった。

 王子とユージンが自分達に与えられた客室に案内されるなりユージンは部屋をくまなく調べ始めた。

 案内したまま接待をしようとしたメイド達は「慣れない土地で王子は緊張されております、しばらく2人だけにさせてくれませんか」とユージンが笑顔で言うと顔を赤らめて帰って行った。


「どこも変なものはなさそうです。警戒を怠るに越したことはありませんが、部外者がいない時は私が警戒しておりますので少し緩めていただいて構いません」

「ありがとう」

 レイモンドのため息を聞きながら、ユージンは王子と自分の飲む茶の支度を始めた。


 彼らが来た理由には学友というのも一つではあるが、もう一つ、この国の状況を知るという目的もあった。

 レイモンドの国、ロランジュ王国とこの国、フィオーラ国は大昔を辿ればフィオーラ国の属国がロランジュ王国だったのだが、今では立場はほぼ逆になっている。

 フィオーラ国が一時相続争いで荒れた際に約50年ほど愚王が統治していた時代があった。その際に不干渉の条約を取り付け国を急速に成長させたかつての王は英雄として今でもたたえられている。

 そのため、今ではそれぞれ独立国ではあるが、ロランジュ王国とフィオーラ国が戦争になった場合にはロランジュのほうが90%以上の確率で勝つほどの国力の差があった。

 しかし、だからといって戦争が起きた際にノーダメージで終わるわけがない。

 また、国が荒れて隣国が飛び火を受けないとも限らない。


 そのためレイモンドは視察や国内状況の観察のためも兼ねてこの国に飛ばされた。

 ユージンは器用に立ち回れ、レイモンドとも気心知れているため連れてきたが、やはりよかったとレイモンドは感じていた。

 王子であるため必要そうな場面では親しみやすく過ごそうと心がけているが、根は人見知りであまりしゃべるのが得意ではなかった。


 それを知っているため、ユージンは出来るときは自ら交渉役を買って出ていた。

 レイモンドは話す以外は優秀だったため、あまり苦手な分野で心労をためて他の作業効率を下げるより苦手分野は他人に任せて他をやる方がいい。


 幸いユージンは上手く立ち回るのが得意なため、2人は上手くバランスを取っていた。いつか王になった時にはフォローに回れなくなることも多くなるだろうがそれまではなるべく支えたかった。


 次期宰相として、次代の王をつぶさないように。


「そういえば、あの王、自分の娘をあなたにあてがおうとしているのが丸見えでしたね」

「政略結婚なんてよくあることだ」

 紅茶を優雅に飲み干してレイモンドは立ち上がった。


「どちらに?」

「城を見て回りたいが、今日は会食の準備をする」

「初日から城内をうろちょろすると気分を害されるかもしれませんからね」


 続けてユージンも飲み干し、荷物のところへ赴くレイモンドについて行った。


『どうか、この国が何事もなければいいんだが』

 レイモンドのその願いは残念ながら叶うことはなかった。




 城に着いてから2週間経った頃、城に慣れ始めたレイモンドは城内を散歩し始めて5日が経っていた。

 いくら城が広いといえど、5日も経つと物覚えの良いレイモンドは城内マップのほとんどを頭の中で完成させられるまでになった。


 ただ一か所、レイモンド用に案内された客室と対角線ほどにある場所には未だに行ったことがなかった。

 行く前に近くの者に案内を頼んでいるのだが、そこへ行こうとすると毎度

「そちらは申し訳ございませんが案内できません」

 と言われ別の場所を進められた。

 最初はまあそういう場所もあるかもしれないと考えていたが、その場所を口に出す度メイドの目が暗くなるのが気になっていた。


 視察として一応伺った方がいいだろう、とレイモンドがユージンに相談すると、

「それは確かに気になりますね、もう別に案内してもらわなくても大体道は大丈夫ですし」

「そうだな」


 そしてユージンが足止めしたりごまかしたりしている間に、レイモンドがそこへ1人で行くことになったのが今日だった。


 服装を燕尾服に着替え、レイモンドがなるべく目立たないように足早に行くと、花壇のようなものが見えた。


 その花壇でにこやかに談笑している女性たちがいた。

 2人はメイド服で1人は地味だけれどメイドより質の良い服を着ていた。


「あら?」


 その1人だけ服の違う女性がレイモンドに気付くと、すぐあとにこちらに気付いたメイド達が主をかばうように女性の前にでた。レイモンドはその女性が主人という疑惑を確信に変えた。


 3人とも今まで見たことない顔で、しかもメイド達にはいきなり殺気を向けられレイモンドが困惑していると、女性がニコリとこちらに笑いかけた。


「どちら様かしら?」


 その笑顔になぜか自然とレイモンドは目を奪われた。


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