とある国に、1人の王女様がおりました。
こんにちは、蒼指です。本編にお付き合いいただいた方はありがとうございました。これからは特別編となり、例の劇でのお話の実態は?という感じになります。よろしければお付き合いください。
そして、先日の活動報告でちらっと書かせていただいたのですが、このお話の番外編には入るリクエストを募集しています。詳しいことは1月8日更新の活動報告にて述べさせていただきますね。よろしければぜひぜひ!リクエスト案を募集していますので!!よろしくお願いします!!
とある国に、1人の王女様がおりました。
国一番の美人というわけではなかったが、皆に優しく、凛とした風格を持った美しい少女だった。
「ユミリア様ー!」
「あら、モモにシフォール。どうしたの、そんなに慌てて」
ユミリアは呼び声に振り向いて、いつも駆け寄ってくるモモだけでなく礼儀にうるさいシフォールが慌てて駆け寄ってくる様に驚いていた。
モモ・ラペーシュもシフォール・エーレもユミリアの傍仕えメイドで、この2人に近衛騎士のハルバート・ニンフェアを加えた4人で過ごすことが多い。
今はたまたま城内のユミリアの所有している庭の庭師をしているダイ・ピクシャスから、花壇にユミリアが選びダイが育てた花達が見頃になったから来てほしい、と言われてユミリアはダイと庭にいたのだ。
「ユミリア様、ですから私のことはエーレと家名でお呼びくださいと…」
「あら、モモだってダイだって名前よ?シフォールだけ家名で呼べるわけないじゃない。」
「しかし、なんだかシフォールと呼びにくいでしょうし、シフォンケーキみたい…」
「そんなことないわよ、とても素敵な名前だし、慣れれば人間なんだって読めるわ」
シフォールは半年前にユミリアの傍仕えになったばかりで、やけにシフォールを呼ばせないことにこだわっていた。
ユミリア自身はかわいらしい名前だと思っていたのだが、シフォールは食べ物と同じ名前なのが不服らしい。
「それより、モモはともかくシフォールまでそんなに慌ててどうしたの」
「その、今国王陛下の使者の方が来られていて、ユミリア様に至急お会いしたいと」
「とりあえずハルバート様を残して急いで参上した次第です」
「国王陛下の?」
モモとシフォールの言葉に首を傾げるものの、使者に会わねばならない事態が思い浮かばない。
そもそもユミリアは国王陛下と前王妃の娘だったのだが、前王妃が早くに亡くなり現王妃になって2人に新しく息子と娘が出来てからというもの王家の者達に冷遇されていた。
何せ、前王妃と肩書きのあるものの、国王陛下が即位したての頃近くのメイド達ととっかえひっかえ遊び、それゆえにできた、元メイドと国王陛下の不義の子であったからだ。
外聞が悪く元メイドも地位が伯爵にあったため王妃として認められたが、言わば前王妃とユミリアは王家の恥だった。
前王妃が死んだ後も、外交に役立つかもという理由でユミリアは城内に住むことを許されたが、国王陛下はもちろん、元侯爵令嬢の現王妃や2人の娘である王女からは毛嫌いされ、城の王家が住むところとは違う、隅の離れたところに住んでいた。
王家の人達はもちろん、城内のなるべくの人達との接触は禁じられていて、活動範囲も与えられた部屋と今いる庭、それをつなぐ廊下くらいであった。
そのため、王に呼ばれるようなことはしていないはず。
しかし、今まで一度も付けたことのなかった近衛騎士を1カ月前に寄越したあたり、何かはあるのだろうと察知できた。
「参ります。ダイ、また時間が空いたらきます」
「承知しましたぜ、また花を何輪か届けますわ」
「ありがとう、では」
ダイに見送られつつ3人は足早に自分達のいつもいる部屋へ向かった。
戻ると扉が開いており、廊下には2人の使者達が、部屋にはハルバートがいた。
「遅くなりました、お待たせして申し訳ありません」
「どこに行かれていたのですか」
「すみません、庭の方へ。それより要件は聞いてます。少し身支度を整えますからお待ちください」
それから5分ほどでモモとシフォールに手早く髪を結い直してもらったり化粧をしてもらうと嫌そうな顔をする使者達に続いてユミリアは王の元へ赴いた。
斜め後ろにはハルバートもついている。
「陛下、ユミリア・フィオーラ王女殿下並びに騎士ハルバート・ニンフェアをお連れしました」
「ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下」
ユミリアは王女として最上級の礼をしたが返ってきたのはふん、というため息のみだった。
お父様と言うと怒鳴り散らされるだけなので、以来国王陛下としか呼んだことはない。
「顔を上げろ。お前と話してる時間など惜しいばかりだから手短に話す」
ユミリアは顔を上げ、いつもの不機嫌顔の陛下を真剣に見つめていた。
「はい、なんでしょう」
「近々隣国より次期皇太子殿下が遊学のためこの国に滞在なされる。彼にはローゼを嫁がせるからないだろうが万一のことがあってはいけない。お前は皇太子殿下が国に戻られるまでいつも命じている場所以外に赴かないように。そこのハルバートに見張らせる、言いつけを破ったら分かっているな」
「仰せのままに」
ユミリアの承諾の言葉を聞くと、陛下はすぐさま部屋へと追い返した。
部屋へ戻るとソファに座り深くため息を吐いた。すかさずモモがお得意のピーチティーを淹れてユミリアへ渡した。
「ありがとう、モモ」
「もったいなきお言葉です。それよりユミリア様、陛下はなんと?」
「いつもの活動範囲の外へは行くなと釘を刺されただけよ、心配することじゃないわ」
「まあ、ひどいこと」
「私がその場にいましたら一発殴りかかっていたところです」
憤慨するメイド2人の様子に思わずユミリアはふふっと笑ってしまった。
「気持ちだけもらっておくわね、モモ。なんでも隣国の皇太子殿下が来られるそうで、陛下はローゼ王女をその皇太子様に嫁がせたいらしいわ」
「それでユミリア様を皇太子殿下から遠ざけようと?ユミリア様がローゼ様の婚約者候補の方を取るはずないじゃない」
「こんな優しいユミリア様があり得ないわ。でも向こうが惚れる可能性もあるし、それもつぶしたいのかしら」
「2人とも物騒な物言いは止めてちょうだい。単に行き遅れた血筋もよくない上の王女が皇太子殿下にバレて破断になるのを避けているだけよ」
「誰のせいで行き遅れてるのだとお思いなのかしら。こんな出会いがなく縛られたところで殿方との出会いがあるわけないのに」
「ユミリア様なら引く手あまたですわ、ユミリア様ほど素晴らしい女性にこれまで出会ったことなんてないもの」
ねー、と次々に賛辞をくれるメイド2人に気恥ずかしくなりつつ、ユミリアは会話を無言で見守っていたハルバートに声をかけた。
「ハルバートさん、陛下の元へついて来てくれてありがとう」
「いえ、それが私の仕事ですから」
二コリと笑い答えてくれるハルバートはつい1カ月前に陛下よりこちらに寄越された騎士だった。
そもそも、ユミリアの傍使いになっているモモとシフォールは陛下の御前で粗相をしてしまい、言うなればこちらに左遷された者達だった。
元々は何十人もいる王女殿下の傍仕えの1人だが、王家の方々の元で粗相をして不適切と判断されたメイドはひっそりと住むユミリア王女の元へ遣わされるというメイド長からの厳しい罰則があった。
モモは3年前、シフォールは半年前にやってきて、2人ともユミリアに戦々恐々としていた。
ユミリアには基本誰も近寄らせないという国王からの命があったため、ユミリアの情報はすべてメイド達の噂や王家の方々の情報によって構成される。もちろんそんな情報が良いわけなく、気性が荒くヒステリックを起こすなんていう噂もあった。
実物のユミリアは噂とは真逆の人物で、粗相を起こしても逆に自分達の心配をしてくれ、2人がすぐ拍子抜けして今のようにユミリアにすぐ従順になったのは言うまでもない。
いや、従順度は加速して今ではユミリアを崇拝して止まない2人である。
一方、ハルバートは左遷ではなく、見張りとして職務を全うできるようなかなかに優れた人物だと伺い知れた。
動作や立ち振る舞いは完璧で、冷静に物事や周りを観察して行動できる人物だと感じた。
最初は自分を殺すための刺客かとも考えたけれど、今になっても何もしかけてこないことを見ると、本当にただの騎士のようだと感じるようになったころだった。
「あら、そうよ。ハルバート様、ユミリア様をどう思いますか?」
「どう、とは?」
キョトンとするハルバートにモモは詰め寄った。
ユミリアは止めようとするも、モモが自分関連で言うことを聞いてくれたことはほとんどない。
「もちろん女性としてですわ!」
「素敵な方だと思います」
「でしょう!ユミリア様は本当に素晴らしくて」
「モモ!もう良いから!ハルバートさんもお世辞言わせちゃってすみません」
「いえ、本心です」
いや、本心なわけがないとユミリアは内心で突っ込んだ。
表情は笑顔のままで、確かに嘘を吐いているようには見えないけど、自分の悪評、まあ全部嘘だけれど、それらはモモやシフォール以上に刷り込まれているだろうし、何よりハルバートは絶対モテるような爽やか美男子だ。
自分はそんな美人でもないから国政にも活かせずここにいるわけで、何人も美女を見てきただろうハルバートからしたら並、下手をすれば並以下だ。化粧をすれば美人になるものの、普段は3人以外と会わずすっぴんも多いため、褒められる要素は探しても1つも見つからない。
ユミリアはそう判断していた。
そんな思いを知らずにか、モモのマシンガントークは止まらない。
「本心ですって!ユミリア様の素晴らしさを理解できるなんて、分かってらっしゃいますわ!まあ、ユミリア様が気高くも優しく、かつ華やかで女神を思わせるような慈悲深さをお持ちなのだから時間の問題だとは思っていたけれど!」
「えぇ、私達も最初は噂にまんまと踊らされてユミリア様の素晴らしさに気付けなかった時期もあったけど、今となっては何て浅ましかったのかしら!こんなに仕えていて喜びを覚えるなんて世界中どこ探したっていませんわ!ね、ハルバート様もそう思うでしょう!?」
「そうですね」
「3人とも止めて…恥ずかしいから…」
臣下達の賛辞を止めさせたころには、ユミリアは気恥ずかしさでへとへとになっていた。