この一年は感謝の気持ちであふれています。
「卒業生、起立!」
その号令を聞きつつ私は3年生の姿をぼおっとみつめていた。
文化祭から時間がたち、もう今日は怜様達の卒業式です。
私は皆さんの後押しもあり無事に生徒会長になりました。
睡蓮君、金鳳君、桃華、アル君もそれぞれ副会長、会計、書記になり、慌ただしい生活をしています。
あの日、浩司さんに会う約束をした次の日、帰り道にシスルに寄ろうとしたものの、シスルのあったところは空き地になり、俊君でさえマスターのことを覚えていなかった。
理事長も若いころに火事に巻き込まれ死亡となっていて、彼のことを覚えていたのは私だけだった。
浩司さんに会えないのは寂しいけれど、何か世界が変化したのだろうと割り切ることにした。彼なら元気でいてくれると信じて。
そして、半年たち、あっという間に3年生たちを見送ることになりました。
卒業式が終わり、ある程度顔見知りのところには顔を出した後に、以前ファンクラブ会長達とお花見をしたベンチのところに来た。
桜の花はまだ咲いてないけど、そこのベンチには怜様が静かに桜を見上げていた。
「卒業式、お疲れ様です。答辞、すごくよかったです」
声をかけると怜様は花からこっちに顔を向け、ありがとうとつぶやいた。
「昨日の夜、優美がハンカチを教えてくれたおかげで変にならずに済んだ。睡蓮の送辞が良くて負けたくないというのもあったけど」
一応昨日の夜、今までのことを思い出して『ハンカチは白で!』なんて送ってしまって、送った後でさすがに必要ないかとおもったけど、よかったみたいで安心した。
送辞は、答辞は私がやることになるだろうからと睡蓮君が変わることを申し出てくれたので、そのままお願いした。
2人の送辞と答辞はとても良くて、思わず涙を流してしまった。
卒業生の方から結構涙をすするような音がしてたから身内びいきで言ってるのじゃあないですよ、本当に。
「もう卒業か、案外早いものだな」
「そうですね、先ほど桑原先輩や柘植先輩やファンクラブ会長の3年生の方々と会ってきましたが、皆さん早かったって言ってました」
「早かったけど、とても楽しかった」
そう言う怜様は遠くを見つつもいつもより嬉しそうで、本当に楽しかったんだなあと思う。
「それに、優美にも、生徒会メンバーにも出会えた」
急に私に目を合わせて今までで最大の笑顔で見てくるものだから、思わず顔に熱が集中するのを阻止できなかった。
こういう急な甘えにまだ照れずにいられないんですよ、上目遣いは反則です、怜様。
「私も、怜先輩に会えて、とても幸せです」
怜様の笑顔に答えるように笑顔で返すと、怜様の隣に座った。
「まさか一年前の今頃、一年後がこんな風になってるなんて思ってませんでした」
「嫌?」
「いえ、よかったってことです。いじめは確かに辛かったですけど…それ以上に皆さんに出会えて本当によかったと思ってます」
ただ、1年生のころは、ただ怜様に憧れて、ただそれだけだったのに、桑原先輩に怒られて、柘植先輩と仲を疑われて、睡蓮君の過去を聞いて、金鳳君に怒って、ファンクラブ会長達と花見して、アル君に再会して、桃華に追いかけ回されて、怜様に好きと言ってもらえた。
選挙で頑張って演説して、足を痛めながらリレーに出て、文化祭の劇では主役をやって、生徒会長になった。
この一年本当に充実して、楽しかった。
「怜先輩に出会えて本当に良かったです」
私にできる最大限の笑顔で言い切ると、怜様に頭を撫でられた。
「俺も、優美に出会えて心からよかった」
そう言ってもらえると本当にうれしい。ありがとうございます、とニコニコしてると、急に手を引かれて抱きしめられた。
「愛してる、ありがとう」
耳元で怜様にそうささやかれて、恥ずかしいやら、嬉しいやらで、弱く抱きしめ返すことしかできなかった。
「私も、です」
「おーい」
いきなりの呼び声に慌てて体を離して振り返ると生徒会のメンバーがいた。
「イチャイチャだけじゃなくてこっちにも来てくださいよー」
「お熱いねえ」
「いやっ、あの、その」
顔を赤くしつつ急いで立ち上がる。怜様はもう立ってこちらに手を伸ばしていた。
「行こうか」
「はい!」
手を取って皆がいるところへ2人で笑顔で走って行った。
今まで「会長とハンカチと私」を読んでくださり、ありがとうございました。感想や今後については活動報告に入れておりますので、ここでは最大の感謝の気持ちを。