表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/151

理事長に会いに行きました。

思った以上に話が長いため途中で切って2話にしています。ご了承ください。

 あの色々なことが起こった文化祭が終わりを告げた翌日、他の生徒達は文化祭が日曜日にあったことへの振り替えで今日はお休みなのだが、生徒会は残った雑務や来年の文化祭に向けた反省・引継ぎのため仕事をする。そのはずだった。


「おはようございます」

「篠宮」


 朝生徒会室に入りつつあいさつすると、いつもならあいさつが返ってくるのだが、今日は怜様が私を呼ぶのみだった。


「どうしましたか、会長」

「今日は篠宮は生徒会業務はしなくていい」

「え…!?」


 私何かしたかな、いや文化祭で色々しちゃってたけどでもそれは皆さん了承の上だったし…

 何も失態はしてないしする暇がなかったはずだけど……


「あの、私何かいけないことを…」

「いや、例の事情を書く紙を書いてほしいのと、次期生徒会長候補として理事長のところへ行ってきてほしい」

「理事長のところへ、ですか」


 理事長は代々生徒の中でも生徒会長くらいしかお会いできないんだったっけ。今日は珍しく理事長室にいらっしゃるのかな。


「それじゃあ理事長室に…」

「いや、理事長室に理事長はいらっしゃらない」

「いないんですか…」


 じゃあどこに?と聞くと、まさかの答えが返ってきた。


「理事長からの伝言がある。『私は自分からは赴けない、悪いが君から来てくれ。理事長室に来れば居場所は分かるから』と」




「失礼しまーす」


 ノックをして入ったけど、伝言通り理事長室には部屋の主の姿はなかった。文化祭の時にお邪魔したままの部屋だった。

 文化祭の時に綺麗な花を咲かせていた薊の花はまだそこで綺麗にたたずんでいた。


 理事長室に来たら分かる、と言っていたが、一つだけ候補として私の中にある場所が浮かんでいた。

 本当に合っているかは分からない、けど違っていたとしても()なら快く迎えてくれるだろうと思う。


 そのまま私は何度も訪れたことのある場所へ向かっていた。




「やあ、優美ちゃん、こんな平日に珍しいね」

「おはようございます、マスター」


 いつもの喫茶店独特の香りと少しフローラル系の香りに出迎えられ、マスターがいつもの笑顔で出迎えてくれた。

 そのままカウンターの、マスターの真ん前の席に座った。

 マスターは笑顔のまま今日は何にする?なんて聞いてくるから一瞬不安になるけど、気を持ち直して持ってきた勇気をそのままマスターに見せた。


「マスター、今日はマスターとしてじゃなくて、薊高校の理事長として貴方にお話しがあるんです」

「ほう?どうして私が理事長だと思うんだい?」


 笑顔は一切変わらないままだけど、こちらを見たまま話はそのまま促してくれるので、それに従う形でマスターを理事長だと思う理由をマスターに見せた。


「まず、思った要因を小さい順から一つずつ。一番最初は、私と今の橘会長がこちらに来た時、マスターは『そちらは部活の先輩かい?』と仰いました。普通、一応男女できましたしいつものマスターなら彼氏かい、なんて茶化しそうなのに部活の先輩かい、なんて直球で仰いました。それが一つ。それから、理事長は学校でも変装されてるくらいですからいつも変装している可能性も高いですが、友人の渡辺の話によると紅茶を淹れるのがとても上手かったと。マスターもお得意ですよね、紅茶を淹れるの。最後に、理事長室に薊の花が飾られていました。そして、このお店の名前はシスル。日本語に訳すと薊です。この辺りの地名は薊ではないにも関わらず高校の名前は薊。となると理事長が薊に関する名前であると考えるのが自然です。そして、このお店の名前も薊。薊高校が作られるより前にありそうな喫茶店にも関わらず近くに同じ名前のものがあるのは、このお店と薊高校とが関係があるから。そうじゃありませんか、理事長?」

「優美ちゃんは桃のフレーバーティーが好きだったね」


 理由をすべて話し終えると唐突に私のすきな紅茶を言われた。

 キョトンとして取り敢えずはい、とうなずくとマスターはカウンターから出てお店を休業の看板にすると、紅茶を淹れる準備を始めた。


 お湯をポットにそそぐマスターを見ていると、懐かしそうな顔をして徐に呟いた。


「今の、橘君の時はブルーマウンテンだったかな。桃華ちゃんの時はアールグレイ。その前の会長は、そうガチガチになってたから思わずミルクまで注いでアッサムを出したんだった」


 手際よく紅茶を注ぎ私に渡してくれた。

 桃がふんわり香る紅茶の香りが私とマスターを包み込むような感じがした。


 私もそれなりに上手く作れるつもりだけど、マスターの淹れる紅茶に勝ったことは一度もない。


「おめでとう、よくここまでそれだけのヒントでたどり着いたね。」

「いえ、それより理事長。私の話を聞いていただけませんか」


 先ほどよりさらに真剣な様子になった私に、少し待ってねと自分の分の紅茶も注ぎ、話を促した。


「実は先日の文化祭で理事長室を拝見する機会があって、理事長の昔の写真を見ました。昔の理事長をみてその時は思い出せなかったのですが、昨日家で考えて、なぜ今まで出てこなかったか不思議なくらいずっと私の奥底にいた人だと気づいたんです。その方はずっと、昔も今も私を励ましてくれている人で、今の私にはなくてはならない方です。その、理事長は信じていないとおもうのですが、私には前世の記憶があって。その前世で私が愛して、そして私を愛してくれたかたに理事長が瓜二つなんです。」


 まさに、今ゆっくり相槌を打ちつつ笑顔で話を促す理事長がそのまま前世の夫と重なって、今はマスターの姿なのにまるであの人が今目の前にいるような感覚になる。

 それがとてもうれしくて、きっと理事長は前世なんて知らないと思うのについ話を進めてしまう。


「それで、私は途中で病気で死んでしまったんですが、ずっと看病もしてくれ、私を支えてくれた理事長と瓜二つな彼にお礼が言いたくて。ずっと支えてくれてありがとう、愛してくれてありがとうって」


 きっと理事長に前世の記憶なんてないけど、私の中の前世の私がこの人はあの人の生まれ変わりだって強く言ってくるから。


 たとえ通じてなくてもいい。


 どうしても伝えたかったから。


 言い終えて、私はカップに入った紅茶を一口飲んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ