アルちゃんはたくましく成長していました。
そして真純は彼氏との予定があるから、と言って別れ3人で回ってお昼を食べたものの、12時が過ぎて30分経過してもアルちゃんは姿を見せなかった。
「しっかし、おっそいなあ、待ち合わせはここなはずなんだけど」
「まだ前の用事が長引いてるのかな」
結局生徒会の待ち合わせ10分前になっても姿を現さなかったので、生徒会の方の待ち合わせ場所に行くことにした。
携帯電話が使えればいいんだけど、校内では使用禁止だからね。
「俊君どうする?ここで待ってる?」
「うーん、でも優美の彼氏に会ってみたいから行く」
そんなニヤニヤ顔で言わなくとも…
結果3人で待ち合わせ場所の生徒会室前に行くと、何やら言い争ってる、というより1人の男子生徒が怜様に抗議してるようだった。
この男子生徒見たことあるなあ、と思い返すと、選挙後にいきなり
「貸しは作っといたからな!覚えてろよ!!」
と言って去っていったハーフの美少年だった。
「あれ、アルこんなとこいたの?」
「え、アル??」
俊君の視線を追って探すものの、視線の先には生徒会メンバーと件の美少年しかおらず、美少女は隣にいる桃華しかいない。
声に気付いた役員の方々と美少年はこちらを見て、役員の方々のホッとした表情と対照的に美少年は
「なっ、なんっ…」
と私を凝視していた。
いや、私じゃないか、と思って後ろを振り返ったけれど誰もいなかった。
私だった。
桃華の横にいた俊君は笑顔で前に出ていき、美少年の斜め前で立ち止まった。
そしてスッと美少年の頭の上に右手を置いて指先に力を入れていた。
痛そう、美少年の顔が少年の般若顔になるくらいだから相当痛いと思う。
「痛い、俊痛いから!!!」
「待ち合わせに全然来ないから心配したのに、一度も顔を見せずこんなところで何してるの、アル」
「ごめん!!行きたかったんだけど、この人達と話してたら行けなくて」
この人達と後ろの生徒会役員を親指で指しながら必死で俊君の手を振りほどこうとしていた。
あれ、それよりアル?さっきアルって言った?
「え、この美少年が、アル、ちゃん……?」
私のつぶやきを聞いて笑顔や手をそのままにこちらに体を向けた。
「そう、こいつが優美がずっと言ってた『アルちゃん』」
「あれ、でも、男…まさ」
「元から男だよっ、勝手にお前がっ……!」
「それはほんと、性別変えたとかじゃなくて男だよ。まああんな恰好していたらなあ」
そう、私の中でのアルちゃんは天使の輪をほしいままに黄緑のツインテールで、お姫様のようなフリフリのワンピースのイメージだったから、確かに髪は黄緑だけど今は少女感はゼロ。
あ、でもよくよく見ると確かに目とか面影感じる。
「あの頃は母親がそういう趣味だっただけで!小学校上がったらもう男子だったし俺の趣味じゃねえ!!」
「そうだったんだ、あれ、でもここではリアって呼ばれてるって…」
初めて自己紹介された時はアルとしか言われなかったのでてっきり『○○ある』 みたいな名前だと思ってた。
むすっとした顔で緩くなった俊君の手を振りほどきびしっと私を指さして言った。
「俺の名前は東堂アルストロメリア、リアって呼ぶよう俺から言ってんだ。これからはお前もリアで呼べよ」
「アルってあだ名は昔『アルちゃん』って呼ばれてた頃思い出して嫌だから、リアってあだ名にするよう言ってるんだって」
「俊!」
なるほど、そんな経緯で…女の子だと信じて疑ってなかったから、知らずのうちに傷つけてたのかな。
「そっか、気付かなくてごめんね。誰よりもお姫様にピッタリだったからやってもらってたけど、アル…リア君からすると騎士役の方が良かったんだよね」
申し訳ないと思いつつ、ごめんね、とアルちゃんに言うとうっ、と苦い顔をして、そっぽ向いた。
「いや、その頃は喜んでやってたし、輪に入れてくれたし…」
照れながら言うその姿は昔のアルちゃんを思い出してほっこりした。
「そういえば、なんでアルはここに?」
「ああ、生徒会に入りたいって言いに来たんだ、そろそろ選挙が始まるし」
文化祭が明けたら生徒会の新任選挙が始まる。
私と桃華以外の役員は、1年生の時に文化祭までで入っていたからそろそろ入れる1年生を決めなきゃまずい。
「なんでダメなんですか?」
皆に質問を投げかけると、皆苦笑していたが、睡蓮君が教えてくれた。
「主に2つあって。1つは成績が上位層に入ってないからなんだよね。東堂君は得意な科目と苦手な科目の差が激しくて…」
「国語と社会が赤点スレスレはさすがにまずいよ、他の科目は成績良いのに」
「漢字なんてあるのが悪い、筆者の心情とか分かんないし…」
「でも成績だけなら後から挽回もできるんじゃあ…」
まだ中間、期末テストを終えただけでこれからまだ成績が上がる余地はあるし。
「2つ目が、入りたい理由が、ね」
「入りたい理由って?」
苦笑いのまま睡蓮君が言いたくなさそうなのでアルちゃんに聞くと、
「お前が俺の黒歴史をばらさないかどうか監視するためだ」
「そんなビシッと指さして言うセリフじゃないから」
「一応生徒会業務は互いを信頼してやることもあるから、監視は、ちょっと…」
確かに。
「監視しなくても言ったりしないよ?」
「つい言っちゃうときもあるかもしれない」
「言う場面なんかないと思うけど…」
「人生どんなことがあるかなんて分からないだろ!」
そんな信用されてないの…
うーん、どうすべきかと悩んでいると、いいですよ、と突然軽い口調で副会長が言った。
「いいですよ、生徒会役員に入れても。怜を恐れない人材はなかなか見つからなかったですし」
「でも…」
「悠也先輩も反対してたじゃないですか」
「リード握ってくれそうな人がいなさそうだから反対してたんですが、今ここにいる全員が彼の黒歴史とやらを知ったのなら手懐けるのは他の方より容易でしょう。篠宮さんはいろんな方に好かれているようですし」
とブラックなオーラを隠しもせず堂々と言い放った。
「まずは目上の人を親指で指すのを止めさせるところからですね」
副会長のオーラにびくともせず、アルちゃんはよしっ、とガッツポーズをしていた。
確かに、怜様どころかブラック副会長に物おじしない素質は素晴らしいかもしれない…