想いがつながりました。
生徒会室に引き返すと、会長からホッチキスでまとめられた数枚の紙を渡された。
「今回のことについて詳しいことや篠宮自身の考えについてここに書けるだけ書いておいてほしい。一応一週間以内には提出してほしいが、処分はもう決定しているから年が明けるまでならいつでも構わない。すまないがよろしくな」
「分かりました。あの、会長」
急に呼びかけられて瞬きをする会長に、勢いよく頭を下げた。
「合宿の時、会長の気持ちを勘違いだなんて言ってすみませんでした」
今持ってる紙も、恐らく副会長と柘植先輩ならいいように校長先生を説得してるはずだから証言の裏付け程度になるから、そんなに急ぎじゃないのは本当だと思う。でも、書くのが辛いからゆっくりでいいと、きっと気を遣ってくれてるんだろうなというのも感じる。
怜様は優しいけど不器用な方だと思うから。
だから、きっと合宿の時も真剣に伝えてくださったのに、私はそれを違うとはじめから決めつけて、切り捨てた。たとえ本当に勘違いでも人の気持ちなんて真意のところはその人にしか分からないのに。周りが勝手にその気持ちに名前なんてつけていいはずないのに。
前世の記憶もあって怜様より何倍も生きてるのに、そんなことに気付いたのが会長への自分の気持ちに気付いた時というのが、本当に情けない。
だからこそ、劇が終わってひと段落ついたら絶対に謝らないといけないと思っていた。
「あの時、会長、いや怜様が私に恋なんてしてるはずがないと思ったことは事実です。けど、そう思ったとしても、それを口になんて出してはいけなかった。怜様の私への気持ちが最終的にどういうものであれ、ちゃんと受け止めないといけなかったのに、私はそれから逃げて、怜様の気持ちを勝手に『勘違い』だって決めつけてしまった。人の気持ちをちゃんと分かるのはその人だけなのに、それにちゃんと気付けたのが自分の気持ちを分かってからなんて、本当遅いですよね…」
頭を下げたままなので怜様の表情は伺えないけど、きっといきなりのことで困惑しているとは思う。頭を上げたら顔を見れるけど、もし怜様が他の、例えば憎悪に満ちた表情をされてたら怖くて見れない。
でも、目を見て、言わなきゃと顔を上げ、案の定困惑した表情の怜様に内心ホッとしつつ言葉をつづけた。
「今からでも責めてくださって構いません。どんな言葉でも受け止めます。今更、と思われてると思います、私に気を遣わず言いたいこと言ってくださって構わないので」
覚悟はできているので、と真剣に言うと、怜様はぽつりと呟いた。
「さっき何て言った?」
「え、言いたいこと言ってくださって」
「その前」
「どんな言葉でも?」
そう返すと怜様は首を横に振って困惑した表情から真剣な、ただ、怖いと思ってしまうような表情で、いつもより何故か低い声で言った。
「自分の気持ちって?」
「あ、それは…」
言おうか迷って、でもさっきまでただの自己満足で謝っていたのにこれ以上迷惑はかけられないから言わないでおこうと思っていた。
まさかさっき無意識に言っていたなんて…
「忘れてくださって…」
「好きなやつでもいるのか」
うぅ、言うつもりなかったからこちらの覚悟はできてない…
でもなんでも言ってくれって言ったばかりだし、腹くくるしか…
「あの、すぐ私の言ったこと忘れてくださって構わないんですけど、その、私怜様のことが好きなんです!」
は、恥ずかしいけど、ちゃんと言い切らなきゃ…
「気付いたのは合宿から帰ってきた後だったんですけど、たぶん一番最初に怜様をお見かけした時から、怜様のことが好きだったんだと思います。あ、でもだからと言って私に幻滅されてるでしょうから、返事はしていただかなくても大丈夫なので、その…恥ずかしい……」
思わずしゃがみこみ腕で顔を覆うと、怜様もしゃがみこんだのがなんとなく分かった。
「それに、返事をしてはだめなのか?」
「いえ、いいんです!断りの返事なんてしていただかなくても…」
「断りじゃなきゃだめなのか?」
「えっ…?」
どういうこと?と聞く前に腕を引っ張られ、立ち上がると同時に抱き留められていた。
「一回濁されたくらいで嫌いになる程度の気持ちで告白なんてしたりしない」
「あ、あの、怜様?」
急なことに動転している気持ちを抑えようとするが、上手くいかない。
だって、絶対断られると思ってたのに、まさか、なんて。
「断りなんてしないし、断らせなんてしない」
そう言うとグイっと両肩を両手でつかまれ体を離され、強制的に顔を見合わせることになった。
「俺も、お前が好きだ。勘違いじゃなく、本当に好きなんだ」
顔を赤らめて一生懸命に言ってくれる怜様の表情は嘘なんて一つも感じられなくて。
いつもクールな怜様がこんなに真剣に言ってくれることがとてもうれしい。
「気持ちが、つながったってことでいいんだよな」
「…はいっ!!」
抱きつくと抱きしめ返してくれるのが幸せで、本当に幸せで。
涙を流しながらしばらくの間怜様と抱きしめあっていた。