恋とは盲目になるものです。
停学2週間、そう聞いたとき、こゆりちゃんと鈴乃ちゃん以外の二人は目に見えてうれしそうな表情をした。
「一体どういうつもり?」
一方でこゆりちゃんはいぶかしげな表情を変えずそういった。
「本来の学校の評価がそうだっていうのに、なぜわざわざ軽くしたの」
「退学にしてしまったら、皆さんが別の学校で別の子をターゲットにしていじめをするかもしれないと懸念したから」
「嘘でしょう、同情なんかしなくてもいいのに」
「同情なんかじゃありません。あなた方を退学にしたら、私はあなた方と同じことをやってることになるとそう思っただけ。それに確定じゃありませんから」
強い口調で返すとそう、と言って口を噤んでしまった。
「ほかに聞きたいことや言いたいことある?」
「逆に優美ちゃんは言いたいことないの?」
改めて尋ねると、逆に鈴乃ちゃんに聞き返されてしまった。
「私達に恨みはたくさんあるでしょ?暴言吐かれたって今ならだれも見ていないし、私達も受け入れる覚悟はできてる」
「特にないよ」
あっさりというと、4人とも拍子抜けした顔をした。
「まあ正直階段や池は死ぬかと思ったし怖かったよ。でもそれに対する恨みをここでぶちまけたところで自分はスッキリしないし、どうせ聞き流してしまうんだろうから。だったら無駄な体力は使わない」
それに拍子抜けした顔が見れたら満足してしまった。
案外自分の神経は図太くできているのかな、いや図太くなったんだろうな、これまでで。
「そう…。特に私達からはないよ」
「じゃあ退室しますね。後から今理事長室にいる副会長が来るはずなのでそれまで待っててください」
扉を開けたとき、ぽつりと何か言われたようだけど、何もないということは独り言だろうと思いそのまま扉を閉めた。
「お人よし…」
「そうね」
ぽつりと出た自分の言葉にも驚いたが、鈴乃がそれに賛同したことにさらに驚いてしまった。
「近づいたからよりわかるけど、基本あの子は自分のことより先に他人が喜ぶことをやろうとする。時々本当に私達と同い年なのか疑問に思うときもあるくらい」
「篠宮さんって自分のためって言って全然自分が得しないことする子よね」
あの子をいじめてた当初は、私達と変わらない平々凡々な彼女が生徒会に入って周りにちやほやされるのが許せなかった。
ファンクラブ会長たちが認めたとしても、彼女達が認めたから自分達も認めるなんてことは自分の嫉妬心が許さなかった。
昔、私が男の見ず知らずの先輩に迫られているところを颯爽と助けてくれた、そんな方の隣にいるのは、あの方と同様に優れた方でなければ、あの方が一般人とは慣れ合わないからこそ、『何故自分は彼に近づけないのか』という気持ちで暴れだしそうだった。
調子に乗るなって言ったのは紛れもない本心だった。
でも、今日の舞台を見て、確かに化粧や綺麗な衣装のおかげもあるんだろうけど、彼女の居住まいはあの方の隣にいてふさわしいといえるほどに輝いていた。あそこにはまごうことなき王女様がいたんだ。
あれを見て役員としてふさわしくないなんて誰も言えない。綺麗と思うと同時にあの方と同じ憧れという気持ちを持った。
さっきだって、私達を見張れないとかそんな理由で停学にしたんじゃない。退学処分は経歴に傷がつき、高校についた傷は一生ついて回る。それをお人よしな彼女はたとえ自分をいじめた相手だったとしても許せなかったのだろうな。その時だけ敬語で言って、本心を隠そうとしているのが見え見えだった。
今までふさわしくないなんて言っていた自分が間違っていると思わざるを得なかった。
そんな自分が、とても悔しかった。
「盲目だったんでしょうね。憧れの方しか見えてなくて、彼に相応しくないと私が判断した人は邪魔者…判断するのは私なんかがするべきではないのに、私こそができるなんて…奢っていたのは私の方だった」
そのつぶやきを、隣の鈴乃もさっきまで退学に顔を真っ青にしていた彩香も唯もうつむいたまま、沈黙して聞いていた。