会長から正式に権限を譲り受けました。
58話(登場人物紹介も含む)の鈴乃の文字が涼乃になっていたため訂正いたしました、申し訳ありません。
会長に連れられてやってきたのは、つい先日もお世話になった風紀委員会の使用している教室である。中にはこゆりちゃん達が小林先輩と一緒にいる。
今は事情を聞いているらしいと先ほど怜様がおっしゃっていた。
ノックして入室する怜様に続き私も入室した。
こゆりちゃん達は怜様の顔を見たときは真っ青な顔をし、私の顔を見ると今度は真っ赤にしていた。不謹慎ながら、表情筋がたくましそうだなあなんて思ってしまった。
小林先輩は怜様からの耳打ちを受け、私の顔を心配そうに見たが、私が首を縦に振ると一度頷いて
「では、生徒会役員の篠宮さんからお聞きしたいことがあるらしいので、私と会長は一度失礼しますね」
と怜様を引き連れ退室した。
2人を心配させる形にはなるだろうけど、どうしても彼女達に聞きたいこと、言いたいことがあり、恐らく私だけが対面する方が速く済みそうだと思ったから。
そういって怜様には話を通してあった。
「会長権限といっても生徒会長ができないことはそれを使ってもできない」
「問題ありません。処罰を決めたのに生徒会も関わっているのであれば、生徒会長は今の処罰が不服、ということになればまた変わってきますよね」
関わるといっても先生方から提示されたものに賛同した、くらいのものだと思うから、それに会長権限を持ち被害者となっている私が賛同しないことにしたとしたら変更は大いにあり得るものだと思う。まあこの権限は私の意見=怜様の意見とするものだろうからもし怜様が本当に従ってくれなかった場合は私としてもどうしようもないのだけど。
「…分かった。生徒会長橘怜はこの度の処罰に関しては生徒会書記篠宮優美に一任する」
「聞かなくてもいいんですか?」
「別に聞かなくとも、変なようには持ってはいかないだろうというのは表情から見ていて分かるから問題ない」
そう言って会長はフッと微笑んで、バックアップはやるから頑張れと言ってそのまま風紀委員会の部屋へ向かった。
「それで、聞きたいことって?」
こゆりちゃんがムスッとした顔で私に尋ねた。頬杖をついて気に入らないと思っているのが目に見えて分かる。鈴乃ちゃんや他2人も姿勢を崩して、こちらをにらんでいた。
私は先ほど小林先輩が座っていた、向かい合うようにしておかれた椅子に座る。そして、ひと呼吸置いて一番聞きたかったことを単刀直入に聞いた。
「私が危害を加えられる原因や理由を教えてほしい」
そういうとこゆりちゃんはニコッと、悪意のある笑みで答えた。
「まるで私たちが篠宮さんをいじめた、みたいになっているけど、イジメの犯人は志穂だったんでしょう?私たちは何も関与していないのに決めつけるような言い方されるのは不本意だわー、ねえ」
「ええ、優美ちゃんからこのようなことを言われるとは思ってなかった…」
眉をひそめたこゆりちゃんに同調するように鈴乃ちゃんは悲し気な表情を浮かべた。
他2人もやれやれ、といった様子だ。
「確かに志穂も犯人ですが、体育祭の時、志穂とは別に私が競技の待機場所に向かう際に私の足を引っかけた人がいる。それはこゆりちゃんでしょう?」
「さあ、知らないわ」
「生徒会の劇用の衣装を台無しにするには鍵のかかっている演劇部の部室に入る必要がある。前、鈴乃ちゃん鍵は自分が管理しているって言っていたよね、となると鈴乃ちゃんがいないとあれは成り立たない」
「そんなことは…」
「それに、私が池に落とされた際、志穂が私を突き落としたのは事実でしょうけど、志穂が突き落とすときに周りの誰かにそのことを見られていた場合、私が自作自演したっていう噂を流すためには志穂が突き落とす現場を見られないように周りに見張りがいる。ちょうど私が落とされた時、こゆりちゃんが志穂といたことはクラスの人達に聞いたからわかってる。同時刻に他の3人もこゆりちゃんといたのを見た人がいる。」
これを聞くと、皆絶句していた。けれど、すぐにこゆりちゃんがバンッと机を叩いて立ち上がった。
「そんなの確実なものとは言えないじゃない!可能性論で犯人扱いするなんて冗談じゃない!」
さっきまでとは違い、言葉が荒々しい。顔は私が入ってきた時よりも真っ赤にして、体を震わせている。
「確かにこれだけだと可能性論だけど、志穂をさっき言ったことで問い詰めたら白状したよ、貴女達が共犯だって。志穂のこと、お姉さんの芹那さんが私をいじめてたことを周囲に言いふらされたくなかったら協力しなさいって言ったんでしょう?」
そう言うと、こゆりちゃんの顔が怒りしか出していなかったのに、急に不機嫌な顔になり、椅子にどかっと座り直した。
「志穂の奴、あんだけ言うなと口止めしてたのに、薄情者」
「じゃあ…」
「ええ、志穂とあんたを貶めてやろうと思ってやったのよ。生徒会の方々の目を覚まさして差し上げようと思って。ユリア様や他のファンクラブ会長様達なら別にこんなことしなかったわよ。渡辺さんもかまわないと思ったわ。ただ、並んで見劣りする、勉強も上位とはいえそこそこ、それが私たちの憧れの生徒会に入って、好きな方のそばにいる。耐えられるわけないじゃない。これで満足?」
「あー、言っちゃった。まあここまで分かってるんなら仕方ないしいいけど。」
こゆりちゃんが言ったことで鈴乃ちゃんもきっぱりやったことを認めた。どこかすがすがしさも感じる。
他の2人は反論したいけれどこゆりちゃんも鈴乃ちゃんもやったことを認めた以上反論できないようで、不安そうにお互いに顔を見合わせている
「それで?私達に処罰を言いに来たんでしょう?退学させる?それくらいのことはしたと思ってる」
「はい、貴女方のこれからについてですが、先生方の判断では退学ということになっています」
やっぱりという顔の左側2人に対し、右側2人は怯えた顔をしていた。
「ただ、これは生徒会の意見ではありません。我々生徒会は貴女方の処分を、」
ひと呼吸置いて、本当にこれでいいのかと心の中で反芻する。でも、これは私が劇が始まる前から決めていたことだと思い直して言い切った。
「停学2週間としたいと思います」