それでは、生徒会の出し物を始めさせて頂きます。*第6幕*
遅れて申し訳ありません。劇最後です。
※関税についてですが感想でご指摘いただきまして、輸出から輸入に変更しています。ご了承ください。
暗転し、いよいよクライマックスの緊張するシーンなのに、私の心臓は鼓動をバクバクと強く訴えてくる。
これは演技できっと楽しくなったって思わずやりすぎてしまったってことくらい分かってるのだが、客席にいて効果は抜群なあんな怜様をあんな間近で見て劇頑張ろうとしている私を逆に褒めてほしい!心はぶっとい矢で刺されてて瀕死だけどね!
そのため赤面しながら軽くパニックになっていたせいか暗転した中膝を床につくのは余裕で出来た。
その後思い出したように痛みが来たけど…痛みのおかげか明るくなるころには多少正気に戻った。
明るくなり、目線の先には玉座に座る王と姫、そしてそばに控えた宰相がいる。
「貴様を追い出せる日が来ようとは。喜ばしいものだ」
「一刻も早く目の前から去ってほしいわ!」
ふん、と拗ねた姫を王がとりなす。
「まあ、もう別れだ、そう言ってやるな。あとは紙に署名させるだけなのだから。宰相、あれを!」
「かしこまりました。王族との血縁を切るための誓約書です。この紙に名前を署名することで貴女はもう王女ではなくなり、ただの平民になります。署名を」
強く命令し、宰相は王女に板の上に乗った紙と羽ペンを王女によこした。
王女は膝は床についたまま、羽ペンを取り、書く体制のまま書かずに王に視線を移した。
「陛下、最後に一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「陛下は母のことをどう思っていますか」
ぐっと王を見据え尋ねると、王は途端に不機嫌になった。
「とにかく我を不機嫌にさせる女だった。あいつと私の間に子が生まれたということだけで反吐がでる。権力など下町の女にやるわけがないだろう。世継ぎはもういるのだから用なしだ」
「ろくでもない方だったのですね、私の母親も父親も」
「なに…?今我を愚弄したか?」
「権力に目の眩んだ母も愚かだと思っていましたが、貴方も同じなのだなあと思ったまでです」
冷めた目で見つめる王女に王は怒りを募らせる。
「貴様っ、即刻この場で死なせてやろう!!」
「お好きに。どうせ一週間以内には消える命、いつ消えようが覚悟はできておりますから」
決意を秘めた目で王を見ると彼はさらに激昂した。
「ええい、宰相!その女をころ」
「それはなりません」
静かに制する声に思わず振り向くと、王子ど彼の従者が現れたところだった。手には紙を持っている。
宰相はその場に膝をつき、王と姫は青ざめていた。
「彼女をどうこうする権利は貴方がたにはありませんよ」
「隣国の王子がこちらの事情に首を挟まないでいただきたい」
「そういう訳にはまいりません。これをご覧いただけますか?」
そうして従者が宰相に手渡した紙を見た途端、宰相は青ざめた。
「これは…」
「この国が私の国のものを輸入する際にかけている関税額です。この値は取り決め違反なのでは?」
「そんなものデタラメに決まっている!」
王の抗議をにこりと微笑みながら受け流す。
表情は笑っているのに一切朗らかではなく、むしろブリザードに近い。
「それはこの国の港にいる商人に確認を取ったものです。もう外相には聞きだしてこの書類が正しいことは証言してもらっています」
「そんなもの…」
「何が条件ですか、王子」
「宰相!!」
王が激怒しているのに対し、宰相は静かに尋ねた。
「条件は、関税の訂正とこの王女様をこちらの国によこしてほしい、それだけです」
「それだけでよいので?」
「あぁ、それさえ守ってくれればこの調査報告書はそちらに渡しましょう」
「……分かりました」
「宰相!!!」
「陛下、ここまで知られてしまった以上ここで食い下がってもこちらがより不利になるだけです。この報告書は恐ろしい程疑う余地がありません。国のためにも、ここは」
「くっ…」
王は怒りを見せていたが、宰相の言う通りにした方が賢明だと判断したのか静かに腰をおろした。
「それでは王女、参りましょうか。戸籍はこちらで用意するため誓約書にはサインしてもらえますか?」
「あ、はい」
慌ててサインしたのを見届けると、私はひょい、と俵のように担がれてしまった。
「それでは失礼いたしますね」
今度こそ爽やかに微笑み去っていく王子と従者を憎々し気に3人は見つめて、そのまま暗転。
「お、下ろしてください」
本来の脚本であればただ手を取り導くのだが、俵担ぎされるとは聞いてない。
「足を痛めているんだろう、次のシーンでは下ろすから問題ない」
「そんな、次はアドリブとかはなしの方向性で…」
対応に緊張してしまって、と小声を漏らすと、背中をぽんぽんされた。私は子供じゃないんですが。
「分かった、でも忘れることもあるから」
「成績優秀な生徒会長が何をおっしゃっているんですか」
「ふふ、善処する」
担がれているため怜様のお顔は見えないけど、今のはほくそ笑んでいるに違いない。いや、私は本当についていくのに必死なんですから!
「さて、最後やりとげるか」
明るくなったステージ中央には、担がれた王女と担いでいる王子が袖から入場してきた。
そして中央で下ろすと、互いに向かい合う。
「あの、私なんかのためにさっきの、本当にすみません」
バッと90度に頭を下げると、王子はああと言いつつ微笑んだ。
「問題ありません。また何かがいるようになった時に訴えるだけですから」
「あれ、でも関税の件が今回ので」
「関税以外にもこの国への訴える問題はありますからね」
それより、ときょとんとした様子の姫の手を取り、王子は膝をついた。
「手荒に連れ出してしまって申し訳ない。早くあの王たちのもとから引きはがすべきだと思っていたから性急にしてしまった」
「いえ、そんな!こちらこそ助けていただいてありがとうございました。従者に任せていたのであまり役に立つかは分かりませんが頑張って働いてご恩に報いらせていただきます」
「働く?」
「侍女か何かで雇われるのですか、いや勘違いだったらすみません!平民でも暮らせる能力はあると思うので」
顔を上げあわあわしている王女に王子は手を両手で強く押さえ、困ったように微笑んだ。
「いえ、貴女には侍女にも平民にもなっていただく気はありません」
「え?でもわたしはもう王女ではないので貴賓扱いは…」
「違いますよ、その、将来王妃とかは興味がありませんか?」
「っ!」
驚きで声を発することのできない王女を見つめる顔は真剣そのものだった。
「貴女のことが好きです。一人の女性として愛しています。この気持ちを受け取ってはいただけませんか?」
そのまま手を持ち上げ手にキスをし、王女を見てにっこりと微笑んだ。
素で赤くなってしまったが、驚いた様子のまま続ける。
「でももう私王女ではないし貴方に相応しいとは思えない。けれど私も貴方のことが好きです」
「本当ですか」
パッと顔を上げ立ち上がると近づこうとして、その前にとハンカチを取り出した。
「このハンカチもらってもいいだろうか、別れの印ではなくて、新たなスタート、という意味で」
「もちろんです、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、愛しい人」
そのまま二人は微笑んだまま見つめ合い、幕が下りていった。