それでは、生徒会の出し物を始めさせて頂きます。*第5幕*
「すまなかった」
悔し気な表情をして顔を上げた王子はそう言った。
「いえ、殿下のせいではありません。自分の立場を弁えずにいた自分のせいですから」
「不義の子、らしいな。それも相手は娼婦の職の者…」
「はい。私を妊娠したことが発覚して母は城から追い出され、城の外で私は生まれました。しかし母が王に私のことで脅しをかけ、母は反逆罪で死に、私はいつか使える駒として城に置かせてもらっていたのです」
「しかし、今は亡き王の正妻が姫を生み、何か有効活用できるように置いといた、と」
「でも貴方がいらっしゃったことであとは姫が貴方に嫁ぐのみ。私は用済みです」
長いセリフがきちんと言えた喜びをそのままでにこりと笑うと、王子は逆に眉間にしわを寄せた。
「いいのか、これで」
「元々城に居なければ貧民街で野垂れ死にしていただけでしょうから。特に問題はありません。それで、久しぶりに楽しいお話をさせて頂いたお礼をと思いまして」
と膝の上に置いていたハンカチを、跪いたままの王子に差し出す。
「花を刺繍させて頂きました。急いで刺繍したのであまり良い出来ではないのですが…」
ちゃんと刺繍してある小道具のハンカチは、実はユリア様が知人に頼んで刺繍してもらったものだ。
刺繍が出来る人なんて私の周りでは見たことないため、
「頼まれていたもの、出来ましたよ」
と渡されたものを見た時は感動してしまった。
手縫いでお店で売れるクオリティー出来るなんて、しかもこれ小道具なんですよ奥さん!
と売れるくらいには綺麗な刺繍だった。
「良ければ受け取ってくださいませんか?」
そっと微笑むと王子、いや怜様は少し目を見開いて、そのまま笑みを深めハンカチごと私の左手を取った。
「ありがとう」
そして手の甲にキスをした。
え?
台本にはただ受け取るだけってなってたはずだよね?
き、聞いてない!あれ、私が忘れてるだけ?
目がキョトンとなった私を置いて怜様は演技を続ける。
「ただ、ハンカチの礼に見合うものを用意出来ていない、暫く待っていただけるか?」
「えと……」
これだけで充分ですとも言えず、客席には聞こえないほどのあの、え、といった小声が口から勝手に出ていく。絶対今の私の顔は真っ赤になってる。恥ずかしさや戸惑いやその他諸々が上手く処理できてない。
その、キスもだけど、王子の顔が、今までで一番キラキラしてて、かっこよくて………
ってこれ演技中だし!
「お、お待ちしております!」
あ、違う!ここは
「要りません、ただのお礼ですから」
って言うところなのに!ああ、すみません!
王子はクスッと笑った後、あわあわしている私の左手を自身の両手で包んで、笑顔のまま言った。
「必ずや」