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それでは、生徒会の出し物を始めさせて頂きます。*第4幕*

 そのまま宰相は去り、暗転したステージに残された王女は椅子に座り、項垂れながら嘆く。


「今まで部屋の中ばかりで話し相手が一人しかいなかった私に、あんなに優しくしてくださった…せめて何かを残して…………あっ」


 王女はそう言うと慌てて立ち上がり、そして現れた従者に気付き、席に座り直した。


「王女様、どうかされたのですか」

「いえ、ただもうすぐ城を去るからせめて王子に何か渡せないかと考えてて…」


 その話を聞いた従者は急に顔をしかめた。

「殿下、その話は…」

「別に貴方のせいじゃないわ。ただ私の認識が甘かっただけ。断ろうと思えばできたのにしなかった私の罪よ」

「それは違います!私が薦めたせいなのです、責任は私がすべて取ると直訴しているのに聞き入れてもらえないなんて…」

「お父様、いえもう王女ではないのだからこの呼び方は不敬ね。王は一刻も早く私を城から追い出したいだけ。それが今だっただけでいずれは追い出されてたから」

「殿下は何も罪はございません……私も同行いたします。断られようが王命で禁止されようがついていきますから」


 そのまま従者は膝をついて頭を垂れた。

「私の主は殿下ただお一人です」

「貴方は…頼もしいわね」


 言いかけた言葉を止め、苦しげな笑顔で王女は答えた。




 そして去ったそこには王子と彼の従者が登場した。

 彼らは立ったまま深刻そうな顔で向かい合っていた。


「どうやら王女が降格処分になったことが決定したそうで…」

「あぁ、少しならバレないだろうと踏んでいた、いやバレても私が根回しすれば彼女は罪に問われないだろうなんていう考えが甘かった」

「仕方ありません。抗議文が棄却されてしまうようでは、どうしようも…」

「………本来ならもっと後だったけど、今やるしかない、か。準備は」

「いつでも」


 従者は敬礼すると、そのままそれと、と言葉を続けた。


「王女殿下が王子とは会えないものの王子に伝言があるとのことで10日後にお会いできないかと聞いてきています。来られますか(・・・・・・)?」


 従者が静かに尋ねると王子は少し悩み、頷いた。

「あぁ、ぜひ行かせてくれ」




 暗転後、ステージにはナレーションのみが聞こえる。


「そして10日後、王女は彼女の従者を通して王子の従者を呼び出しました」

 ナレーション後、明るくなったステージ中央にある椅子へと王女と従者は向かう。


「そう、貴方にも…」

「どうかされましたか、殿下」


 立っている従者は座っている王女に目線を合わせるために腰をかがめる。

 そこに王女から手元に持っていた花束が差し出される。


「貴方によ、今まで私に献身的に仕えてくれたお礼。こんなもので申し訳ないけれど、庭で育てていた花で作ったものよ」

「そんな、今生の別れのような…」

「そうなるだろうと思うわ」

「そんな、まさか!」


 従者はおどけた様子で否定していたけれど、王女が何も言わず真剣な表情のままなので、眉尻を下げ膝をついて下から王女を見上げる。


「貴方がいたら私は確実に生き延びれる。けれど、それでは王は、というよりあの宰相にはダメなのよ。私が今までここで生きられた、このことでさえ王にとっては我慢ならないことだったのだから」

「しかし、貴女を見殺しにすることなど私にはっ!」

「無理でもやらなきゃならない、私は貴方に生きていてほしい。私に多くの幸せをくれた貴方に今度は幸せになってもらいたい」


 花束を無理矢理握らせ王女は悲しそうに微笑んだ。


「あの時は許して下さったのに、何故今更…」

「あの時ああ言わなきゃ、今の今までひたすらについてくる方法を考え、それが大変危険でもやろうとすると思ったからよ、昔から頑固な性格なのは私が一番知ってる」


 そこで本当なら膝をついて花束を渡すけれど、睡蓮君が手を伸ばすことによって遮られてしまった。

 足痛めてるが故に、情けない…


「どうぞ、受け取ってくれないかしら?」

「…有難くお気持ち頂戴致します」

 謝りながら従者は丁寧に花束を受け取った。




 ノックの音、この音は事前に録音したものです、これに気付き従者ははけ、代わりに王子の従者が入場した。


「王女様に関しましては、ご機嫌麗しく」

 入場してすぐ従者は椅子のそばで膝をついた。


「お待たせしてしまい申し訳ございません」

「別に私相手に膝をつく必要はありませんよ王子・・?」


 本当はもっと焦らす予定だったけど、思った以上にお客さんが早く気付いてしまった。

 打ち合わせの時点で王子が従者に入れ替わっていることにそこまでお客さんが気付いてなかったらもう少し従者相手として話すよう言われていたけど、バレちゃったら即言ってくれていいですよと副会長から言われた。

 まぁ、私はすぐばれるだろうと思ってこの辺りのセリフうろ覚えだったから万々歳だけど。


 王子、と声をかけると黒の燕尾服をきっちり着こなしカツラをかぶって従者の姿をした王子は爽やかに微笑んだ。


 今客席からガタッて音したけど恐らくあれは怜様の姿に失神した女子生徒のだろう。この世界では美しさ、かっこよさのあまりのリアルの失神は、特に生徒会にいると良くあることなので慣れてしまった。

 カツラをして服装を真似ても怜様は怜様の造形のままだから、怜様独特の魅力を出している。でも本当にこう見るとお忍びで仕方なく従者の格好した王子にも見えるからね、流石です。


「貴女にどうしても会いたくて従者になりすまして来てしまった。こんなに早くバレるとはさすがにまずかったか?」

「恐らく大丈夫かと。殿下の容姿は知れ渡っていますが従者様の容姿はそこまで出回っていないはずですので大丈夫かと。それより立ち上が」

「聞いた、貴女の処分のこと」


 私の声を遮るように声のトーンを落とし顔を歪ませながら王子は言った。


「すまない、全て私のせいだ。謝って済むことでないのは分かっている、申し訳なかった」


 膝をついたまま王子は深く頭を垂れた。

 床に着くくらい深くお辞儀をするので慌てて立ち上がろうとしたが、王子に止められた。


「顔をお上げくださいっ!」

「いい、貴女が立ち上がらなくて。そのまま座ってて」


 顔を上げ座っているよう指示されると、自分は座っているしかない。あくまで王女は王子より格は低いから。


 座ったまま王子の様子を伺うと私にしか聞こえないような小声で言った。

「無理するな」

 思わずハッとなってしまったやはり足を痛めているのに気づいてそう言ったのだと思うと、申し訳ない気持ちになる。


 そのまま顔を上げた王子はそのままの苦痛に満ちた顔だった。

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